アンブレラの完璧な計画。
「傍若無人で力のある貴族の坊ちゃん。そして、それに虐げられる
もちろん、この構図だけでは多くの人間の同情は惹けない」
アンブレラは続ける。
「“彼”と決闘し、負けてもらう必要がある。
そうすることで、蔑視偏見は完全にはなくならないにせよ、“彼”はオルド学園での存在価値を証明できる……」
「…………」
「そして、その決闘を限りなくローリスクで行える人間。
対魔術師に特化した“彼”に対抗しうる生徒は、アルターくんだけなんだよ」
「…………」
……困った。
なにが困ったって、的確な反論が出てこないんだよな。
アンブレラが語ったシナリオは……悔しいが、即席にしては悪くない筋書きに思えた。
本当に悔しい。どうにかして論破とかできないか?
でもなあ。
実家と縁が切れるんならなあ……。
「……分かりました」
仕方がなく――本当にマジで仕方なく――俺は頷いた。
悪目立ちするのは気が進まないが、あのアンブレラ=ハートダガーの力添えが得られるチャンスを得られるのは値千金ってやつだろう。
「……うん、交渉成立。
ほんとごめん! でもその代わり、卒業後のことは任せてよ」
「まあ、はい。
ルネリアの件でお世話になったのもありますからね……」
じゃ、そういうことでと俺は踵を返しかけたが。
「いやいや、どこ行くの」
「は? どこって……寮に戻るんですが」
なんだろうか。
……猛烈に嫌な予感がした。
彼女は、どんっ、と紙束をどこからともかく机の上に載せて、にっこり笑った。
「これは……?」
触れたくなかったが、学園長が笑顔を貼り付けたまま何も言わなくなって怖かったので、仕方なく指を差す。
「設定資料&シナリオだよ!」
「…………」
どうにか気のせいであって欲しいが、アンブレラはうきうきしているようにも見えた。こいつすでに楽しむ気満々じゃない?
「キミは本当に完膚なきまでにめちゃくちゃ嫌な奴になるんだから、ちゃんとキャラ定めておかないとね」
「………あの~……それはウィンドライツくんが来たらやるとしてですね――」
「それじゃ不自然でしょうがッ!?
今日、この部屋を出た瞬間から、キミは生まれ変わるんだッ!」
「ええ……」
宗教色の強い進学塾の初回授業にでも来たのかと思った。嫌だよ!
「もう同じ寮生とかに普通に挨拶しちゃったから!
あ、よろしくお願いします~とか愛想笑いしちゃったから!
こいつ急にキャラ変わったな……って逆に不審に思われるだろうがよ!」
「あ、ちなみに、ルネちゃんのもあるから」
「聞けよ!」
俺は叫んだ。聞いてください、と泣きついてみたりもした。
……もちろん、抵抗は無駄に終わったのだが。
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