第4話 ドラゴンとお姫様

 俺はソルを休ませてから、ライファー君を連れて早速ドラゴンの巣があるという場所まで案内してもらうことになった。


「この辺りのドラゴンは随分凶暴だって噂を聞いたけど、本当かい?」


「かなり好戦的で、僕たちもまさか本当に王女を誘拐されるとは思っていなかった」


 王女だって。これは期待できるね。


「その攫われた王女様のこと、教えてよ」


 ライファー君は静かに話し始めた。


「セリナ・クレセント、第四王女です。近日婚約の話がまとまる予定だったのですが、その婚儀の用意をするために御幸されているところの隙を突かれました」


 へえ、王女の婚約か。第四王女ってことは、本国としてはどうせ貢ぎ物感覚だろうな。

「結界師は同行していなかったのか?」


 普通魔力を持った王女の外出には厳重に護衛が付いて、特に結界師と呼ばれる魔力防壁を操れる専門家が同行するはずだ。


「実は最初に結界師がやられたんです。僕ら護衛がついていながら、本当に不甲斐ない」


 そりゃお気の毒だ。先に防御役を狙うなんて、かなり頭のいいドラゴンだ。


「それで、その子かわいいの?」


「美しいに決まってるじゃないですか! 王女ですよ!?」


「ああ、ごめん」


 なんだこいつ。急にムキになって。


「それよりも気をつけてください。そろそろ巣が近いです」


 ライファー君の言う通り、辺りの様子が変わってきている。山道が終わり、むき出しの岩肌があちこち削れている部分が増えてきた。ソルはこの先には連れて行けそうにない。ここで大人しく待っていてもらおう。忠実なソルを待たせて、俺たちは更に山へ入っていく。


「ところで、何でドラゴンは人間の女を攫うか知っているかい?」


「いえ、そこまでは……」


 俺は哀れなセリナ姫の境遇を話して聞かせる。


「繁殖の儀式のためさ。人間の女の魔力を使って奴らは交配をした後のエネルギーの補充を行う。強い魔力を注げば注ぐほど次世代のドラゴンは強い魔力を得る。人間の女以外の魔力を持った動物も使うことは多いけど、奴らにとって人間の女が一番効率がいいらしいんだ」


「それじゃ、セリナ姫は!?」


 ライファー君が慌てている。そりゃ、慌てるよな。


「彼女が攫われたのはいつだい?」


「……あの日からそろそろ2週間になる」


「それなら、まだ何とかなるだろう。ひと月ほど彼らは人間の女から魔力をむしり取るだけむしり取るからね。とにかく、姫のところにまでたどり着ければ後は俺が何とかしよう……おっと、着いたかな?」


 急に開けた谷のような場所に出た。ようやくドラゴンの巣ってわけだ。小さい家くらいの大きさのドラゴンが数頭うろうろしている中に、目的のセリナ姫の姿が見えた。


 ドラゴンによって囚われた姫は青白く輝く強力な魔力結界の中で身動きがとれないでいた。魔力結界の中で生命は保たれているが、その身体から放出されている魔力はじわじわと姫の体力を奪っているはずだった。


「まずいな、思った以上に魔力の結晶化が進んでいる……」


「大丈夫なんですか?」


「多分。でも、最悪の事態は覚悟しておいてくれ」


 ライファー君は固い表情になった。そりゃね、助けるお姫様がダメになっていたなんて残念にも程がある。俺だってそんなのは嫌だ。せっかくここまで来たんだ、なんとしても無事に助け出したい。


 ドラゴンはお姫様の周りを飛び回っている。新鮮な魔力が嬉しいんだろうな。さて、どうやって助け出そうかな。

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