第3話 従者志願

「さて、ここからアルバート山岳地帯。険しくてドラゴンの巣があるんだってさ」


 俺は愛馬ソルの白いたてがみを撫でる。ソルは俺に似て怖がりだが勇敢なところもあるいい奴だ。男から買った情報に寄ると、アルバート山脈に住むドラゴンはなかなか凶暴で人間の魔力を好んでいるという。そのドラゴンがとあるお姫様の行幸中に現れ、姫を連れ去ったと言う。お姫様の国では奪還を計画していて、近日大々的なドラゴン掃討作戦が行われるという。


 その前にお姫様を助けられたら……後は俺が好きにしていいってことだよな? な?


「しかし、どうしてそんな機密情報が俺のところに流れてきたと思う?」


 ソルは首を傾げたようだった。


「国に対して何かよくない考えを持った奴が裏切ってるのさ。お姫様を他国に出してしまって、それで王家が混乱している間によからぬことをしようとしているのかもしれない……そろそろ休憩しようか」


 道が次第に険しくなってきたところで、ちょうどよく宿場町が見えてきた。ここで山越えに備える人が多いのだろう。何もなければのんびりしていきたいところだけど、できれば今は先を急ぎたい。


「お急ぎのところすみません! 王族証明書をお持ちですか?」


 適当な馬小屋にソルを繋ぐと、また声をかけられた。やっぱり最近服が少しくたびれているから舐められるのかもしれない。今度無理をしても少しいい旅装束を新調しようかな。


「何? 押し売りとか詐欺ならお断りだよ」


「いえ、もし迷惑でなければ僕を従者にして欲しいんです」


 声をかけてきた野郎は、真面目そうな顔で申し込んでくる。


「従者ねえ……別に間に合ってるんだけど、自分から従者になるなんて珍しいね」


「それで、お返事は?」


 こんな奴に構っている暇はない。ドラゴンに囚われた哀れな姫が俺を待っているのだ。


「だから今の僕にはいらないんだったら……何か理由でもあるのなら世間話くらいは聞くよ」


 面倒くさいけど、民の声に耳を傾けるのも王子の務めのひとつ。こんな面倒くさい奴が断り文句ひとつで簡単に諦めるような気がしない。ここはひとつ愚痴を聞いてやって、あとは「お前も頑張れよ」と送り出すのがスマートな男のあるべき姿だ。


「実は……僕が護衛していた姫がドラゴンに攫われまして」


 おお!?


「他の護衛は本国に応援を頼みに行ったのですが、僕だけどうしても諦めきれなくて」


 これはひょっとすると、役に立つか?


「そこで姫の噂を流して、誰か手伝ってくれる王子を探しているんです」


 噂の出所はこいつか。こいつは使えるだろうな。姫の情報なんかも引き出せそうだ。


「そういう訳なら、喜んでお願いしたいね。君の名前は?」


 俺は王族証明書を見せながら尋ねた。


「ありがとうございます! 僕はライファー・カロル。クレセント国の衛士です」


「ルーノニア・ガーランドル……ルーンでいい。別に偉くもないから」


「わかりました、ルーノニア殿下」


 随分真面目くんだな、こいつ。まあ、あからさまに変な奴よりマシか。

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