美少女たちの会話。②
あの日、あの比呂とデパートで再会した件は、クラスの美少女たちに、早速、共有された。
一緒にお昼を食べたこと。荷物を持ってくれたこと。義理堅かったこと。気を遣ってくれたこと。
昨日の出来事を明日香と朔良に伝えれば、二人は感嘆の声を漏らすほかなかった。
「愛桜……それ、本当に運命の出会いって感じじゃん! すごいって!」
「ほんとにすごい……」
先週、助けてくれた男と、また出会えたら……そんな願望を込めて、応援していた明日香と朔良。
まさか、直近で、再び、出会ったことには驚くことしかできない。朔良は見開いて固まるが、明日香は蒼い瞳をピカピカと輝かせながら聞いてくるのだ。
「それで、それで……今度こそ、連絡先聞けた?」
愛桜に詰め寄って聞くと、彼女は顔色を悪くさせ、唇をワナワナと震わせる。明日香の問いかけにしばらく、愛桜は黙り込んでしまうものの、愛桜の様子から答えは明白だった。
「愛桜……また聞き忘れてたんだ」
「……ど、どうしよう!? もう会えないよね?」
藁にも縋る想いで、明日香にウルウルと黒曜石の潤んだ瞳を向ける愛桜。思わず、朔良がフォローしようとすると、明日香が先に口を開く。
「大丈夫! きっと、彼と愛桜は“運命の赤い糸”で繋がってるんだから!」
「……ッ」
明日香に言われ、愛桜はハッと息を呑む。
夢見がちな愛桜と明日香は妄想の世界を広げていた。
「デパートで出会ったんでしょ? なら、またデパートに行けば、会えるって!
愛桜。そ・れ・に、愛桜は名家なんだから……最悪、ね」
フフッと悪人面になる明日香を見て、愛桜も、その気になるかと思いきや、ブンブンと妄想を霧散したいのか首を横に振る。
「だ、ダメ、だよ……そんなのは……」
「そうそう。やめてよ? 明日香。悪に染まる愛桜なんて見たくないから」
「えー、でも、朔良。悪堕ちした愛桜って、どんな感じか興味あるでしょ?」
「え? な、なに、言ってるの!?」
「……きょ、興味ない」
「さ、朔良!? うそだよね!?」
朔良は口では否定するが、口調からうそであることを明日香は看破していたようだ。悪魔の囁きを再現し、小悪魔な顔になって、明日香は囁くのだ。
「そんなことを言って……ほんとは興味があるんでしょ……朔良」
「……………………い、いや、興味なんか」
「フフッ、病んだ愛桜って可愛いと思うんだけどなぁ~。どうだろうなぁ~?」
「明日香。朔良に変なことを吹き込まないでぇ~」
愛桜が朔良を助けようと奮闘する。
「そ、そ、それに、こんなのを風紀委員長の耳に入ったら、たまったものじゃないよ」
「うぐっ!?」
愛桜が吐露した言葉に明日香の顔が引き攣る。
さすがの彼女も規律や風紀を乱すことを許さない風紀委員長の耳に入ってしまうことを想像して、ブルリと寒気を催した。
本当だったら、朔良を悪の道に連れ込もうとしたが、風紀を乱せば、風紀委員長からお仕置きを喰らうことは間違えないと鑑み、渋々、引き下がるのだった。
「そ、そそ、それに、あの人は……い、意外と猫好きだから、猫の話をすれば、た、たた、多分、聞いてくれると思う」
「…………ほぅ~、あいつが猫好きねぇ~」
「……意外ね」
意外そうな反応を示す明日香と朔良。まさか、猫好きという事実に唖然とする。
「でも、でも、また会える方法があるから安心しなって。私、すごく羨ましいんだから……愛桜が」
「そ、そう?」
「うん! だって、そんな
「うんうん」
「…………」
「ほんとに応援してるから、落ち込まないで! 愛桜」
ぺったんこの胸を張って、自身を出させようとする明日香。見た目は幼さを感じる彼女だが、実は面倒見のいい姐御気質。愛桜を元気づけさせると、明日香はよしっと握り拳を作る。
「うん。そうだよね……きっとチャンスがあるはず!」
「愛桜。その意気だよ」
「応援してるから」
クラスの周囲の目なんてものはいざ知らず。男子たちは美少女である愛桜、明日香、朔良の会話に耳を傾けるが、彼女たちはそんなことを気にも留めていない。
三人は恋バナと違った話をし始めるのだった。
美少女たちの話を聞いて、一人だけ読書している白髪の男子がいた。
身長が高校生にしては160cmにも届かない背丈だが、これでも体育委員の委員長を務める比津賀谷東四郎。
彼は読書したまま、美少女たちの話に耳を傾けていた。
(…………運命の出会い、か。そいつはすごいなぁ。少女漫画チックな展開があるなんざ。
あり得ねぇ話だが、話を聞くかぎり、火野愛桜が意中にしてるのは紛れもなく、魁だろ。
ったく、あいつの義理堅さが、まさか、こんな展開になるとは思わなかったぜ)
東四郎は読書をしたまま、フンと鼻で笑ったのだった。
(だいたい、あいつに惚れるとかどうかしてるぜ、あの女も…………あいつ、かっこいい部類に入らんぞ。むしろ、クールな一面があるだけだ……)
女――火野愛桜が言うかっこいい男という魁比呂を知ってる東四郎からすれば、お似合いに思えなかった。だが、まさか、ああいう形になるとは彼ですら予想だにしなかった。
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