一匹狼と遭遇。

 愛桜に「裏道は危ない」と忠告をした比呂は、その足で裏道を歩いてる。

 元より、裏道、裏通りはヤンキーや不良が屯ってるところで、地元では有名だが、だ。


 裏通りを平然と来た道を帰ろうとする比呂。だけど、その足をピタリと止めた。


「なに? 俺に用でもあるの?」


 彼は裏通りから表通りへ向かう横道を見る。暗い横道というより、殺風景な横道でもなく、静かな横道が伸びてる。

 人の喧騒を目の先に捉えるも比呂はに目を見張る。

 すると――


「チッ、さすがは魁比呂。風紀委員長の名は伊達じゃないな」

「尾行してたの気づいてたのね」


 横道の横道からヒョコッと顔を見せるのは二人の女の子。

 金髪碧眼の女子と灰色の髪に紅眼の女の子。

 どちらも女子高生で、先刻、あったばかりの火野愛桜に負けず劣らずの美貌を持つ。だけど、比呂からすれば、顔なじみのありまくりの女子高生。


「なに、保健委員に、図書委員の委員長さん」


 そう、二人は彼と同じ、四葉学園高校の生徒で、委員会の長を務めてる女子高生。委員長だけあって、普段から一人でいることが多いけど、では気の知れた友人として知られている。

 而して、彼の話し方が悪かったのかニコニコと笑顔を浮かべてるも目が全然笑っていなかった。


「おや、お気に召さなかったか。潔癖委員長の有沢澄香さんに、レズ好き委員長の泉川零美さん」


 さらに悪化した挨拶に二人はだんだんと怖い笑顔を浮かべ始める。


「ちょ~っと、お灸を据えないとねぇ~、澄香」

「えぇ~、零美。どこまでいっても、マイペースな男に社会を教えないといけませんねぇ~」


 ニコニコと笑みを浮かべてるも目が笑っておらず、説教する気でいる真っ黒いオーラを出してた。

 不機嫌な二人がなぜ、不機嫌なのか比呂は全然分からなかった。やはり、彼は女心、乙女心を察することも理解することができない。


「ねぇ、なんで、キレてるの?」

「んなぁ!?」

「分からないのですか!?」

「全然、俺に関係ないことだしな」


 恋愛感情に疎いと遠回しに言い切ってる。彼の言い分に澄香と零美は「あぁ~」と納得のいく表情を浮かべる。


「そうだよねぇ~。あんたって、恋愛とかあまり考えてないもんね」

「それにしては、つい先ほどまで、我が校の女子生徒と一緒にいた光景を見ましたが?」


 澄香は比呂が女子高生と一緒にいるところを目撃したと述べる。


「うちの生徒がナンパしてたところを助けたお礼だ。それ以上でも、それ以外でもない」


 淡々と答える。まさに付け所がない感じで、彼女たちは顰め面をする。

 と、ここで、彼はスマホの時計を見た。


「ああ、すまない。急ぎの用事があるから。帰らせてもらうとするよ。

 詳しい話はまたの機会に。でも、つけ込まれると嫌だからごめんだけど」


 彼はそう言いきり、裏通りを歩いて、家路へと急ぐのだった。


 彼がいなくなるのを見計らった後、有沢澄香と泉川零美。二人はともに息を吐き、肩を落とす。


「ほんとに、彼は女心が分からないのですね」

「一緒にいた彼女がお礼したいとか言ってるけど、眼差しと態度から見ても、惚れ込んでるじゃん」


 二人はデパートで買い物をしていたとき、比呂が女の子と一緒にいる光景を目撃していた。

 目撃していたから、比呂と一緒にいた少女が何か、特別な想いを抱いてるのは間違えなかった。ふと、ここで澄香は比呂と一緒にいた女子高生の顔を見て、誰なのか零美に尋ねる。


「零美。あの時、彼と一緒にいた女子。誰か知っていますか?」

「え? 澄香、知らないの?

 うちの学校じゃあ、トップスリーに入る女子生徒の一人だよ!」

「そうなのですか?」

「…………」


 澄香の返答に零美はバランスを崩しかける。彼女の無頓着さに頭を抑える零美。


(そういや、澄香も校内を優先するあまり、世間話や生徒と話すなんて皆無だった)


 今更ながらに四葉学園高校の委員長は一癖も二癖もある生徒だったのを思いだすのだった。


「まさか、ここまで、委員長が一匹狼じみてるとは思わなかった」

「今更だと思います。なにより、生徒会長がああなのですから」


 ガックリと項垂れる零美だが、澄香の辛辣なコメントがグサッと胸に刺さるのだった。


「しかし――」

「どうしたの?」

「群れることをとことん嫌う魁比呂が、女子生徒と一緒にいたことが驚きました。彼は彼なりに義理堅い男だと思って――」

「確かに、意外よねぇ~」


 二人して、意外そうな面持ちを持つのだった。




 而して、比呂と愛桜が一緒にいる光景を目にしたのは有沢澄香と泉川零美だけではなかった。


「いったい、どういうことなんだ?」


 信じられないと言わんばかりに目を見開いては見た光景を振り返っていた。


「うそだ。うそだ。彼女は――」


 どこか、自己チューの雰囲気を漂わせ、女の子は皆、自分だけに振り向いてくれると思っていたばかりのキチガイぶりを発揮している。

 そう、その人物は、その男子は天川光。

 四葉学園高校で、委員長にも立候補し、生徒会長選にも立候補したが、見事に落選したキチガイ男子生徒でもある。

 世の中、悪が蔓延っていないと豪語し続け、度々、生徒間で問題を起こす生徒。つまり、一見、信頼されてるようで、信頼されていない生徒。

 その生徒が、愛桜が別の男子と一緒にいることがおかしいと意味の分からないことを思っていたのだった。

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