学校における一匹狼たちの印象。

 四葉学園高校。

 委員長会議を終えて間もなく、副会長、楠翡翠と書記、楠琥珀の両名は胃がキリキリする想いを抱きつつ、荷物をまとめて、颯爽と下校する。


 下校の最中、偶然の偶然、道中でスクール上位カーストの美少女三人。火野愛桜、水山明日香、北村朔良に遭遇する。

 翡翠が朔良の姿を納めたら、涙目になる。


「朔良ぁ~!」

「ど、どうしたの、翡翠!? 泣きついて……――」

「あっ、琥珀ぅ~! 元気ぃ~?」

「元気なもんか! 今日も今日で会長はァーー!!」


 けたたましい雄叫びをあげる琥珀。しかし、明らかに近所迷惑だった。現に、周囲の目が集まっている。

 涙目の翡翠に、苛立ってる琥珀。アワアワとテンパる愛桜。このままではまずいと思い、明日香が話を切りだす。


「そうだ。明日、定休日だし。このあと、どっかに寄らない?」

(明日香、ナイス!)

「うん。愚痴とか聞いてあげるからさ」

「ほら、愛桜も行くよ」

「えっ!? あ、う、うん」


 明日香に声をかけられ、キョドった愛桜は慌てたまま頷いてくれた。その反応は話を聞いてなかった反応にしか見えなかった。

 愛桜のたまに見せるポンコツに毒気が抜かれたのか琥珀はプッと笑いが出て、空気が少しだけ良くなった。


「じゃあ、近くのファミレスに行こうかぁ~!」


 明日香の声に出発進行となった。


 ファミレスに直行し、テーブル席を指定し、軽めのものを注文して、ドリンクを取ってきたところで、翡翠は涙腺というか愚痴が決壊した。

 というより、堪忍袋の緒が切れた、といった感じだ。


「もー、会長はいっつもいーっつも、生徒のためと言いつつ、独裁者すぎる!」

「そもそも、我が強すぎる委員長らを生徒として従えってのがおかしい」


 琥珀は遠回しに毒を吐いた。もはや、生徒会長への嫌味でしかない。


「もー! いい加減に委員長会議とかなくなればいいのにー!」

「そもそも、今年度と来年度は委員長会議なんてしなくてもいいと思う。大体、会長の支持率もちょっとずつ下がってきてるし」

「大体、皆、委員長会議をやる意義すらない言い切ってるぐらいだし~。会議どころか、決闘場になりかけてるし~」

「あぁ~、ここぞって時に動いてくれる魁風紀委員長が神に思える」


 琥珀は風紀委員会、委員長の魁比呂に熱望しかける。

 ――と、まあ、翡翠と琥珀の話を聞くかぎり言えることは一つ。


「今回も委員長会議が荒れたねぇ~」

「お疲れ。胃がキリキリしてるでしょ? 胃に優しいものを頼んどいたから。とりあえず、食べて忘れちゃいなさい」


 明日香と朔良が翡翠と琥珀を慰める。逆に、愛桜はと言えば、


「え、えぇ~ッと……」


 何を言えばいいのか。オロオロしていた。愛桜のポンコツ具合に翡翠と琥珀の心が洗われる気分だった。


「もー、愛桜が可愛すぎるぅー」

「いつもの愛桜でほんとに良き。喧嘩腰になるのもいいけど、デレデレになるところも良き」

「でしょー! 愛桜って、こういうポンコツさがチャーミングポイントなのよ!」

「むしろ、男子に一目惚れしてるのがビックリ」

 朔良がポロッと口に出したことに翡翠と琥珀が反応する。

「えっ!? うそ!?」

「愛桜、好きな人ができたの!?」


 意外と思われてしまってる翡翠と琥珀に愛桜は「なによ!? 私が恋しちゃあ、悪いの!?」と拗ねてしまった。


「ごめんごめん」

「でも、ビックリしたのは事実。愛桜。女子校育ちで男を嫌ってたし。喧嘩腰になるのが

多かった」

「むぅ~、私だって男なんて怖い対象……でも、私を助けてくれた人だけは、別――」

 乙女のように頬を紅く染める姿はまさしく、恋する乙女そのものだった。

「うわー、愛桜が乙女だぁ」


 琥珀は棒読みで吐露する。


「ねえねえ、いったい、誰に惚れちゃったの?」

 翡翠は愛桜の初恋の相手が誰なのか興味津々だった。グイグイとくる彼女に愛桜はアワアワと困り果てる。


「実はねぇ~――」

 ここで、明日香が割って入り、愛桜の代わりに話してくれた。

「ふむふむ」

「なるほど~」


 明日香の話を聞き、翡翠と琥珀は食い入る。相手は分からなくても、話の要所要所から愛桜が見惚れたほどの男に二人はだった。


「ひとまず、愛桜に一つだけ言えること……それは……」

「それは……?」

「とんでもない男に惚れたものね」


 琥珀は愛桜に恐れ入るかのように見つめる。逆に愛桜はキョトンとしており、琥珀が言ってる理由というか意味が分かっていなかった。


「えぇ~。つまり、どういうこと?」


 愛桜がここまでポンコツに気が滅入る明日香、朔良、翡翠、琥珀の四人。テーブルに突っ伏しかける明日香と翡翠だが、なんとか立ち直る。


「だ~か~ら~、愛桜が恋しちゃったのは風紀委員長の魁比呂!」


 確定させるように言う明日香。彼女の言い分に翡翠は大きく頷く。


「あぁ~、やっぱりぃ~」

「……だよね」


 明日香も朔良もなんとなく予想がついてた。愛桜の話を聞いた上で、予測がついてたからだ。


「うちの学校の制服を着た男子生徒で、休日でも制服を着てて、「弱いんだから群れてないといけない」とか言う奴なんて一人しかいない」

「四葉学園高校、風紀委員会委員長、魁比呂だけ!」


 “犯人はお前だ”と決め台詞のように、ビシッと指をさす翡翠。


「…………え? いや、まさか……そんな、こと……ない、よね?」


 愛桜の中でなにを想像してるのか定かではないが、ビクビクと震えてるところから怖い印象を持たれてるのは間違えない。

 愛桜の中で魁比呂の印象がなんなのかはっきり想像がつく。


「愛桜……んでしょ?」

「――ッ」


 ビクッと強張る。それだけでも、彼女が魁比呂を証拠だ。


「やっぱりねぇ~」


 と、明日香らは愛桜を見ただけで魁比呂に対する印象がまるっきり分かってしまったのだった。

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