一匹狼との会話。
弁当を食べた比呂は放課後、委員長会議に出席した。
四葉学園高校の委員長会議に列席する委員長同士の会話は、どこはかとなく、ちぐはぐというか我の強い者たちが集まっていた。
そして、彼らの共通点は一匹狼であることだ。
委員会の教室分けも委員長会議で決まる。
基本、校内で力のある委員会は生徒会だが、
四葉学園高校に在籍してる全生徒が知ってることだ。
それはそれは、クラスでの人気者どころか四葉学園でも上位に位置する三人の美少女女子生徒。火野愛桜、水山明日香、北村朔良、の三人である。
彼女たち三人は美女であることと“難攻不落”として有名だ。要するに身持ちが堅すぎることでも有名だ。
女子校育ちもあるためか、男への意識が、若干、苦手の認識を持ってる。
そんな彼女たちでも、気になってるのが一つだけある。
「そー言えば、今頃、委員長会議をしてるんだよねぇ~?」
最初は明日香の切り口からだった。
「委員長会議……四葉学園高校の委員会による取り決め会議。今回も今回で大きく荒れるんじゃない」
朔良は委員長会議がうまくまとまらないと言い切ってみせる。
「え? そんなの?」
愛桜は無頓着な反応を示す。これには、明日香も朔良も「え?」とビックリ仰天反応をする。
「愛桜。大丈夫!?」
「あんた、委員長会議がどれだけ荒れてるか知らないの!?」
「うん。知らない」
「「…………」」
愛桜は四葉学園高校の委員長会議がどのようなものなのかも知らず、明日香と朔良は項垂れた。
「マジ……」
「これは本当のようね。うそでしょ。愛桜。
委員長会議なんて、学園の伝統行事。クラスで委員会決めをする際、皆が委員会に入りたくないと断固拒否する姿勢を知らずにいたの?」
「……うん」
詰め寄る朔良に愛桜はおどけながら頷く。明日香も力が抜けきったかのように椅子にもたれる。
「これは重症ね。もう一年は学校で生活してれば、嫌でも耳に入るでしょ~」
「むしろ、これまで委員会と接点がなかったのも問題だけど……せっかくだし」
「愛桜にもわかりやすーく教えてあげる!」
サムズアップする明日香が委員長会議について教えだした。
「うちの委員会って、けっこう多いじゃん。生徒会とか風紀委員とか部活動執行部とか、いろいろあるじゃん」
「その数多くの委員会の委員長が集まって会議するのが委員長会議。でも、会議なんて名ばかりで、出席する委員長が全員、我の強すぎる生徒で有名。おまけに生徒会の言うことを聞かないスタンス」
「あれ? 生徒会の言うことを聞かない、ってどういうこと?」
愛桜は同じ学園の生徒なのに、生徒会の指示に従わないとか如何なものだと思ってる。
「委員会とはあくまで学園のためであり、生徒会のためではない。だから、生徒会長であっても、各委員会の委員長は生徒会の権限を無視することができる、っていう不文律が存在する」
「えー、それじゃあ、生徒会はなんのためにあるの?」
愛桜は意味がないと豪語する。
「愛桜も言ってることもよーくわかる。私も同じだから。でも、委員長さんたちは学校をよりよくしようと想ってることだけは確かだと思う」
「あと、委員会の中で一番力のある委員会が風紀委員会。あそこの委員長は確か……明日香。知ってる?」
「もちろん、知ってるよ~。魁比呂だよぅ~。ほら、同じクラスメイトじゃん」
「「え?」」
明日香は比呂が同じクラスメイトと言うも愛桜と朔良は比呂のことなんて見たことも会ったこともなかった。
「そんな男子……一度も会ったこともない」
「ほんとに私たちと同級生で、同じクラス?」
愛桜と朔良は信じられなさそうに聞き返す。
「ほんとーだよ。クラス替えのとき、名前があったし。彼の席もあるよ!」
明日香は魁比呂が同じクラスメイトだと知っていた。
「でも、顔を知らないのは当然。だって、彼……名前や顔は知っていても、
明日香は言い切る。
「授業を受けたことがないの?」
「それで、よく退学にならないね」
「何でも、噂だけど、出席日数は最低ラインを取ってるのに、成績は上位らしいよ」
「らしい、って……まあ、噂だからしょうがないけど」
「よく先生たちが納得したよねぇ~」
愛桜からしたら、思わず、突っかかりそうになるも、明日香がまたもや噂を言う。
「これも噂なんだけど、魁くんの家って、超裕福で、学園に出資してるって噂が流れてるらしいよ」
「また噂? どれだけ噂が流れてるの」
朔良は俄に信じきれないでいた。
「でも、噂は噂でしょ。ちゃんと授業に受けないと皆に嫌われるよ」
愛桜はポンコツっぽい発言をする。彼女の発言に明日香がガタッと姿勢を崩す。
「あのねぇ~、愛桜~。魁くんは群れるのをとことん嫌ってる、っていうことで有名な男子生徒だよ。
こんなの四葉学園に在籍してる生徒だったら、皆知ってる事実だよ!」
「えっ? そうなの?」
「…………」
またもや、愛桜のポンコツどころか天然発言に明日香がガタッと姿勢を崩す。これには、朔良も
「愛桜。魁比呂は噂が噂を呼んでる男子よ。確かに、学校の風紀を第一に考える奴だけど、あんな奴に好かれる女子なんてそうそういない」
朔良は
しかし、まさかの愛桜が魁比呂に恋心を抱くとは、明日香と朔良もこの時は気づかなかった。
委員長会議に列席してる委員長。いや、委員会は十個以上ある。
生徒会執行部。風紀委員会。部活動執行部。保健委員会。図書委員会。飼育委員会。食育委員会。美化委員会。福祉委員会。選挙管理委員会。体育委員会。広報委員会。放送委員会。
数多くの委員会の委員長が視聴覚室に集まる。
集まる理由は一つ。委員長会議だからだ。
全員が全員、席に座れば、テーブルに置かれてる名札を前に倒す。
「それでは、本日の委員会長会議を執り行おうと思います」
開始の音頭を言うのは生徒会執行部、生徒会長――
「それでは資料を配付します」
集まった委員長らに紙の資料を配付するのは同じく生徒会執行部、副会長――
配布され、大人しく座ってる委員長は十五人。
生徒会執行部からは生徒会長と副会長、そして、書記――
残りの委員会は委員長のみが出席してる。
風紀委員会、委員長――
部活動執行部、会頭――
保健委員会、委員長――
図書委員会、委員長――
飼育委員会、委員長――
食育委員会、委員長――
美化委員会、委員長――
体育委員会、委員長――
広報委員会、委員長――
放送委員会、委員長――
選挙管理委員会、委員長――
男女入り乱れるも錚々たる顔ぶれが集まっていた。
なお、生徒会副会長――楠翡翠と琥珀は双子であり、会長の指名で副会長と書記に任命された。
而して、副会長と書記の双子だけは肩身の狭い思いをしている。
何しろ、生徒会長を含め、各委員会の長は一癖も二癖もある一匹狼として、我の強すぎる委員長として、生徒として有名だ。
生徒会長の新見淳史が音頭を取ろうとして早々に割り込んできた。
「どうでもいいけどさぁ~。こんな会議する価値ある?
私たち主義主張が強すぎて、意見なんて真面に交換できてないじゃん」
「それはできませんし。そうとも言えません。選挙管理委員長、雲雀さん」
「なんでぇ~?」
「学校の運営、生徒の運営は我々、生徒会執行部が行います。
『――――』
淳史の言葉に
「何勝手に取り決めてるんだ?」
「生徒会がいい気になるんじゃねぇよ!!」
部活動執行部、会頭の柊雄也と体育委員長の比津賀谷東四郎が淳史に剣幕を立てる。
「そもそも、私ら委員会は生徒会執行部の下部組織だが、生徒会の意志決定に賛同しないってのが暗黙の掟よね。それを破る気?」
放送委員長、九重氷華が喧嘩腰にヤジを飛ばす。
「「…………」」
ビクビクと子鹿のように震える副会長と書記の二人。苛立ちを滲ませる委員長らの迫力に既に涙目だった。
「だからさぁ~。会長権限で、こんな会議~。さっさとなくしちゃいなよ~。いちいち、集まるだけ無駄じゃ~ん」
「あぁ~、珍しく選管の長ちゃんと意見があったなぁ~。俺も同意見だ」
「あんたの意見なんざ、聞いてないんだよ。比津賀谷?」
「あぁ~? 誰が意見なんざ聞いてねぇだ? 俺が勝手に言っただけだろが」
東四郎と朱美が喧嘩腰になり、険悪ムードになる。
「ヒィ~!?」とさらに縮こまる楠姉妹。すると、苛立ちを抑えながら、彼が口を出す。
「ねえ、いつまで群れてる気だい? 全員、静かにできないなら――咬み殺すよ」
『――――』
風紀委員長、魁比呂の発言一つで険悪ムードが霧散し、一気に静まりかえった。
「そもそも、生徒会長。俺ら委員長は生徒会の意志に賛同せず、学校の風紀を守るだけだ。なに、勝手に物事を決めてるのかが如何なものかな?」
「しかし、魁くん。生徒の運営は我々、生徒会が――」
「俺は誰にも属していない。俺はやりたいようにやるだけだ。キミがどうこう言おうが、俺には関係ない話だからね」
「…………」
比呂に言い負かされた時点で二の句が継げない生徒会長、新見淳史。
「話はそれなら、さっさと会議を進めてくれる、副会長さん?」
「は、はい!」
副会長、楠翡翠が裏返った声をあげつつも会議の進行を始めた。
書記、楠琥珀も比呂がまとめてくれたことに感謝しかなかった。
「――それでは今回の会議はこれにて、閉幕とさせてもらいます。ご参加なさってくださった委員長の皆さんは速やかに退席をお願いいたします」
副会長、翡翠が粛々と頭を下げれば、比呂らはガタガタと席を立ち、退席するのだった。
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