file2「Rage Fist」
第23話
霧崎零士は榛色の馬を駆る。
人馬が混じり合うように正確な足取りで馬を操り、零士は獲物を追い詰める。
ついに獲物の背中を捉え、零士はレミントン・リボルバーを引き抜いた。
獲物は一人の少女と、顔に刀傷の残る男である。
男は零士を見ると顔を青ざめた。零士は即座に照準を定める。
「駄目だ!」
男が叫ぶ。
零士の視界を、男の脇をすり抜ける少女が掠めた。
馬の首が天高く舞う。
零士は馬から転がり落ちる。再度構えようとした拳銃は飛んできた蹴りによって後方へと滑る。顔を上げた零士の眼には、太刀を振り下ろす少女が一面に映っていた。
手ごたえに少女は驚く。零士と刀の間にナイフが滑り込んでいる。
立ち上がるような気楽さで零士は少女を押しのけて切りかかった。連続して瞬くナイフの刃を空気の層一枚を残して避け続ける少女と、隙を縫って叩き込まれる少女の太刀をナイフで弾き続ける零士。
零士は舌打ちした。
少女動きは明らかにプロの殺し屋である。誘拐犯に娘を攫われたという哀れな老人を救うはずが、体のいいように利用されたらしい。
少女の一撃を弾くと、零士はナイフを軽く突き出した。
釣られて回避行動をとった少女の腹に、零士はロングフックを叩き込む。
ナイフに目を取られた少女からは死角となる、見えない拳が内臓を抉る。
呻くように倒れ込む少女。その姿を見て、怒りをあらわにした男が零士にドスで切りかかる。それは少女の動きに比べると素人臭いものだった。
零士は半歩右に動きながら、右ストレートを突き刺す。
長身の零士から放たれる長い拳に反応できず、男はもんどり打って倒れた。
「動くな」
刀を握ろうとした少女に銃口を向ける零士。
「その子には手を出すな!」
その足に男がしがみ付く。
正義に基づく高貴な仕事をすべしとは零士を打ち倒した女の弁であるが、これが中々に難しい。
「妙な動きをしたら即座に撃つ。
申し分があるなら大人しく付いてこい」
すっかり悪役になってしまった一幕から抜け出すべく、零士は銃を収めた。
零士は少女と男を連れて、店の中で鍋を囲んでいた。
最近流行りのすき焼き鍋は零士の密かなブームになっている。
「……食わないのか?」
「あんたにぶん殴られたせいで食欲が湧かないっての」
「俺が全部食べる前に食うんだな」
「箸を止めろよ」
少女と「駆け落ち」をしていた男、山崎幸弥は呆れてかぶりを振った。
「つまり、あんたは組に嵌められて俺達を追ってた相談屋なのか」
「あぁ」
「相談屋ってのはもうちょっと依頼を吟味するもんじゃないのか。
あの有名相談屋、エセお嬢様の綾小路なんて「高貴」な依頼以外受けないなんて意味の分からないことを言ってるし」
零士に殴打された頬を撫でながら、幸弥は零士を胡乱な目つきで見つめる。
「なりたて相談屋だからな、こういう事もある」
零士は幸弥の背中に隠れている少女をちらりと見た。
少女の名は新井葉子、三つ編み頭のあどけなさが残る容姿である。
「お前も食べろ、俺達は体が資本だ」
「ん……わかった」
葉子は不満げに頬をぷくりと膨らませていたが、零士の主張の正しさを認めたように、ちょこんと席に着く。
暫く3人は無言で鍋を突き合う。
肉に絡める卵液が器の底に残る程度になってきた頃、零士が口を開いた。
「それで、真実はどうなんだ」
「あんた結構マイペースだな……」
幸弥はがっくりと肩を落とした。
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