第13話 主従、恋バナをする

「アルヴァロ。先程の話だが」


 装飾店を出た後、城下町の広場で焼き菓子を食べながらフェルナン陛下は徐に口を開く。


(えっ。先程の話?)


 私は焼き菓子の露店の前で、「マドレーヌにするかフィナンシェにするか悩ましいですね」と二人で盛り上がった話のことかと思い、手元のマドレーヌを見やる。


 今更、「俺もマドレーヌが良かった、交換してくれ」と言われても困る。こちらはほとんど胃袋に収めてしまったのだ。


 私が「欠片でよろしければ」と無礼承知で提案すると、フェルナン陛下は「装飾店でお前が言っていた『遠くから想うだけで十分』という話だ」と具体的に話してくれた。


 私が、ぜんぜん「先程」の話じゃないじゃないですか、という言葉を胸に飲み込んだのは、フェルナン陛下が少しかしこまった口調のように感じられたからだ。


 そこで私はハッとした。


「えっ! もしかして、女体化した私に惚れてしまわれました⁉」

「そういう話ではない。俺はお前が男だろうが女だろうが、見る目を変えはしないからな」


 バッサリ。ちょっとがっかり。


「しっかり萌えてるくせに……」


 真っ先に衣装店に連れて行き、ミニスカートとニーハイブーツを購入したのはどこの誰だ。

 しかし私の納得の有無など気にせず、陛下は構わず話を続ける。


「もしかして、お前には好きな者がいるのか?」

「マジで恋バナですか?!」

「ふざけずに正直に答えろ。主命令だ」

「私じゃなかったら、パワハラとセクハラで訴えられてますよ?」


 とは言うものの、女嫌いのフェルナン陛下から恋バナを振られることは珍しい。三年の付き合いの中では、好きな女の子のタイプの話なんて皆無。好きな犬種や猫種、理想の武器なんかの話はよくしたが。


「なぜいきなり、私などの恋愛事情を? 」

「お前が【女体化の呪い】を受けた責任は俺にある。女になってしまったために、諦めなければならない恋があるのではないかと……、そう思ったまでだ」


 やりきれない表情のフェルナン陛下を見て、私は「あぁ」と理解した。


 彼は、男アルヴァロには片想いをしている女性がいると勘違いし、心配してくれたのだ。まさか、女アルヴァローズから自らが思いを寄せられているとも知らずに。


「たしかに好きな人はいますが、呪いのせいで諦めたわけではありませんよ。もっと昔――、十年前から片想いをしてますし」


 これくらいは言ってしまってもいいかなと、私は明るい口調で話す。下手に取り繕うと、それこそ不自然だと思ったのだ。


 するとフェルナン陛下は急に前のめりになり。


「十年前というと、騎士学校時代か? 恋の相手は学友か⁉ 女学生か⁉ どんな女学生がいたんだ⁉」

「えっ」


(めっちゃ食いつくじゃん)


 アンタは谷間くっきりボディアーマー&ミニスカ&ニーハイブーツ女学生騎士マニアだったのか。さすがに犯罪臭がするぞと、私はフェルナン陛下の性癖を案じずにはいられない。


「女学生なんて、ぜんぜんいませんでしたよ。男の園です」

「なに⁉ 騎士学校は十年前から男女共学になっているはずだぞ!」

「共学にしたからって、すぐに女子が集まるわけじゃないですからね。私が卒業する頃にようやくチラホラって感じです」

「そうか……」


 ずぅぅん……というブルーの文字が見えそうなくらい、フェルナン陛下が落ち込んでいる。


 どんだけ騎士の女学生が好きなんだ。

 私の報われぬ片想いは、いっそう深まらざるを得ない。

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