第12話 陛下は指輪を贈りたい

 そしてフェルナン陛下は衣装店の次に、装飾店に連れて来てくれた。

 といっても、キラキラジュエリーな雰囲気の店ではなく、主に魔法が刻まれた装飾アイテム品が売られている場所だ。


 どうやらフェルナン陛下は、私の【女体化の呪い】を解くためのアイテムを探すため、ここをデートスポットに選んでくれたらしい。


(いや、でも呪われてないんだよな……)


 フェルナン陛下が大真面目に店主の説明を聴いている姿を見ていると、私はなんだか申し訳ない気持ちになってしまう。


 私が「買ってもらうとしても、安いキーホルダーにしとこ……」、などと思っていると――。


「アルヴァロ! この指輪には、退魔の印が刻まれているそうだ。ちょっと試着させてもらおう!」

「えっ」


 フェルナン陛下は私の手を強引に取ると、キラキラと輝く指輪を近づけてきた。


 それは印が刻まれているなんて硬派な代物ではなくて、ダイヤモンドの指輪――高級エンゲージリングに見えて仕方がない見た目をしているではないか。


「いやいやいや! これはダメでしょう!」

「何故だ? 退魔の印だぞ?」

「どこに?」

「内側にイニシャル的な感じで」


 エンゲージリング感しかない!

 いくらお忍びデート設定とはいえ、指輪はダメだ。


「隙ありッ!」


 フェルナン陛下の凛々しい声が店内に響く。

 そして戸惑っていた私の隙を突き、フェルナン陛下はこちらの指に退魔の指輪を強引に嵌めてしまう。


「あ、あぁ……!」


 私は、指輪が輝く自分の指に視線を落とす。


(……右中指ィッ!)


 左薬指じゃないのかよ、そりゃそうかと、今度は私のツッコミが私の心の中に響く。


「右の中指に付ける指輪には、邪気払いの意味がありますもんね……」

「よく知っていたな。俺は今しがた店主殿に聞いたばかりだ!」


 フェルナン陛下がドヤ顔で胸を張り、店のカウンターで女性店主がにっこりと微笑む。

 誰にも罪はない。ラブコメ展開を期待してしまった私が悪い。


「私に指輪はもったいないです。いつか大切な方に贈って差し上げてください」


 私が笑顔を返すと、女性店主は意外そうな顔をして口を開いた。


「お二人は、許婚がいるにもかかわらず長年護衛騎士に想いを寄せていた貴族令嬢(なぜかミニスカート)と、ダメだと分かっていても主への愛が抑えきれなくなってしまった護衛騎士では⁉ てっきり恋仲かと思っていたのですが」


 こちらの作った設定通りだが、考察力というか妄想力がすごいご婦人だな! ということには触れず。


「身分違いの恋ほど難しいものはありません。私は遠くから(できれば近くで)想うだけで十分なんです」


 思わず本音を口にしてしまった。


 私は、フェルナン陛下のお傍で片想いをしているだけでいい。

 男であっても女であっても、従者としてお守りできればそれでいい。


 片想い十年選手は伊達じゃないのだ。

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