始動⑶



 ああ、かわいいなぁ……。


 僕は仕事の面接に来ている。

 両親からは『アザレア』はなんか怪しいからって反対されたけど、とても抗えなかった。


 変な格好の男が、ここに来ている4人の候補者に質問をしている。僕はその4人のうちに入る。


 能力の有無、戦闘経験の有無、魔物の知識、この『アザレア』の目的──どれもこれも、面白くないことばかり。

 能力は持っているけど、あまり使ったことがない。運動は嫌い、戦闘なんてもってのほか。魔物は怖い。『アザレア』は……、よくわからない。


 よくわからないけれど、面接に来た。

 抗えない気持ちによって。


 その理由が、わかる。

 変な格好の男の隣で、一生懸命に本を読んでいる少女。年は、本当に小さい。7歳くらいだろうか。


 勉強をしているのか、時々声に出して、本の中にある知識を頭に入れこんでいる。その声が、また、かわいい。


 途中、読めない部分を隣の男に聞いている。

 男はそれをちらりと見てから、邪魔をするな、自分で調べろとでもいうように、トントンと少女のそばに柱のように積まれた本を指で突く。



 ……かわいそう、かわいそうだ!

 あなたじゃ、彼女の教育にはならない!



 気がつけば、僕は椅子から立ち上がって叫んでいた。一気に注目された。

 酒場で飲みすぎて、過保護な親の愚痴をぶちまけたときみたいだった。


 けれど、それと違うのは、ボォッと身体が火照るのは酒のせいではなくて、少女にニコニコと笑みを向けられたからだった。


 照れ隠しで、少女から目を逸らすと男と目が合う。

 鋭い目を向けられて、逃げ出そうと思ったけれど、少女の手前だからか、身体が動かなかった。


 叱られると思って、火照った身体に水を差されたように、すっと冷たくなる。


 けれど、男は意外なことを言った。



「全員採用。今日から互いに恋敵となるだろう。……誠に不本意だが、私を含めてな」



 …………………………




「なんなんだ、貴方は──」



 佇まいは枯れ木のよう。

 しかし、"桁違い"──そんな言葉がふさわしい。


 力には自信があった。

 人にはない能力だって持っていた。

 天を指差せば、雷の力がいつでも宿った。

 音と光、そして迫力……俺の力を誰もが恐れた。そして、誰もが称えた。


 だから、手紙の噂を聞いて、能力の研究者がいると聞いて、どれほどのものかと試してみた。


 本当に枯れ木みたいだったから、雷を落としてやったんだ。


 枯れ木が燃えるところを見て喜ぼうと思った。

 こんなものかと、蔑もうと思った。


 そしたら、一瞬だ。

 一瞬で、このザマ。


 枯れ木の前で、尻餅をついている。

 しびれて動けない。雷が返ってきたんだ。


 何より、赤い、赤い。

 赤いアザレアの華が、血潮のように咲いている。



「私に何か用か」



 目元に赤い化粧をしている。もともと鋭いであろう目つきを、さらに際立たせていた。


 しかし、何か用か、だなんて本当にどうかしてる。

 たった今、俺の雷に打たれて死ぬところだったのに、それを俺にはね返して、何か用かだなんて。



「……まあ、何でもいい。貴公も腕が達つとみた。貴公さえ良ければ、どうか私を助けてほしい。困っている」



 そんなことを真顔で言う。

 なんなんだ、貴方は──と、俺は同じ言葉を、オウムのように繰り返した。


 すると、この人もまた、オウムのように。

 どうか私を助けてほしい、困っていると、言ったのだ。


 何なんだ、あなたは──


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