作品に恋した少年
琥珀 忘私
君との出会い
恋をした。
その、可憐な少女に。
恋をした。
その、全てを見透かしたような彼女の表情に。
恋をした。
その、全てを着飾る華奢で美しい体に。
恋をした。
でも、僕たちが一生結ばれることは無い。
***
「好きな人ができたぁ!? お前に!?」
「……そんなに意外かよ」
「ごめんって。唐揚げ一個あげるから許してつかぁさい」
「……許す」
「ちょろ」
「もう一個要求してもいいんだよ?」
「ナンデモナイデス」
「それにしても、『結婚なんかしない!』って言ってたお前に好きな人ができたなんてなぁ。なあ、どこのクラスのやつだよ」
「ごめんだけど、教える気はない」
「どこに住んでんの?」
「教えたくない」
「歳は?」
「やだ」
「名前は?」
「なんか、ナンパしてるみたいだな」
「確かに」
「んじゃ、出会いは?」
「それだけだったら答えてやらんこともない」
「よっしゃ」
「あれは、昨日のことだったんだけどさ」
「昨日かよ。一目惚れかよ」
「……聞きたくないの?」
「さーせん」
「コホン、あれは昨日のこと」
~~~
昨日は、夏休み最終日で、何も予定が入ってなかった。夏休みの最終日なのに。と言っても、夏休み全体で予定があった日なんて一度もなかったんだけどね。自分の部屋に一人で引きこもって、ゲームをやって、動画を見て、課題をやって。そんなこんなで最終日になっちゃってたの。
流石に一日くらいはどこか行きたいなーと思って。夏休み前の修了式の日に貰った美術館の割引券のことを思い出してさ、弾丸美術館ツアーに行くことに決めたの。
~~~
「そこで彼女と会った、ってわけか?」
「静かに聞いてないならやめちゃうけど。いい?」
「お口にチャックです」
~~~
美術館に行ったことなんてそんなに無いからさ、向かう途中のバスから興奮してたわけよ。まぁ、正確に言うと家で準備をしてる時からなんだけどさ。
どんなものがあるのか、どれだけの人が見に来ているのか。頭の中で考えちゃったりしちゃってさ。
でもね、着いてみたら、ほとんどだーれもいなくて。いたのは、警備員のおじさんと受付のおばさん、近所を散歩ついでに寄ったって感じの老夫婦くらい。少しだけがっかりしちゃった。割引券の写真にはいっぱいの人が写ってたからね。考えてみれば、夏休みの最終日にわざわざこんな片田舎にある無名の美術館に来る物好きそんなにいないって分かるんだけどね。
それでも、まだ何があるかの期待が残っているわけですよ。おばちゃんに割引券と学生証とお金を渡して、いざ、未知の世界へ。
……行ってみたはいいものの。俺には美術館の良さなんか分からないからさ。
飾ってある絵とか彫刻とかをさ、一つあるごとに、それらしく眺めちゃったりして。ほほーんとか言ってみちゃったりして。上から下まで念入りに見てるふりをして。
結局何がなんやら分からなくて。飽きてきちゃって。それでも、お金を払ったからには全部見ようと思って。
時代ごとの美術品の展示室とか、有名な画家(俺は知らなかったけど)の作品を集めたブースとかを見て回ったの。
それでさ、最後の展示室に行ったとき――
~~~
キーンコーンカーンコーン
「やべ、昼休み終わっちゃったよ。いいとこなのに」
「続きは放課後だな」
「おう」
「それでそれで? 結局いつ出てくるんだよ。お前が好きになった人は」
「もう少しだって。……いや、どうせなら会いに行ってみるか?」
「え、なに? 会えんの?」
「多分。今日も美術館にあると思うしさ」
「……“ある”?」
「あら、今日も来てくれたの?」
「はい!」
「それじゃあ、これ、学生二枚分ね」
「ありがとうございます!」
「あざっす」
「お前、なんであんなにおばちゃんと仲良さそうなんだよ」
「いやー、昨日彼女に夢中になりすぎて、閉館時間になっちゃってさ」
「おまっ、そんなにいたのかよ」
「うん。それで、おばちゃんに声をかけてもらった時に彼女のことについて聞いてたらいつの間にかね」
「へ、へー。なあ、もしかしてさ、お前の、好きになった人ってさ」
「ん? あ、ほらあそこだよ!」
「……」
***
あるところに一人の少女がいた。
その少女は、みんなを明るく、楽しくしてしまう誰もが憧れる存在だった。
彼女は誰にでも優しくしてしまうため、いろいろな人に好かれてしまう。
そんな彼女に恋をした少年がここにも一人。
彼は彼女を自分の者だけにしたかった。
だから、彼は彼女を殺してしまった。
そして、彼女の体を使って絵を描いた。彼女の絵を描いた。
髪で筆を作り、砕いた骨と血で絵具を作り、剥いだ皮でキャンパスを作った。
彼は出来た作品を自分の部屋に飾り、一生大切にした。
この作品のタイトルは――
『作品に恋した少年』
作品に恋した少年 琥珀 忘私 @kohaku_kun
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