第4話 久しぶりの筋トレ

『筋肉は、決して、キミを裏切らない。』


 大柄な鍛冶屋の女が、決め台詞を言う。


「さぁ、筋トレをしようか?」


 筋肉質で分厚く固い手が、少年の肩を掴んで離さない。

 マッチョな彼女の、輝く笑顔の中で、白い歯が特にまぶしい。


「・・・はぁ。・・・わかりました。

 二人で、軽く筋トレを、やりましょう。」


 少年は軽くため息をつくと、“筋トレ”をすることにした。


 少年の信条は、“やらなければならない事を、先にやる。”である。


 もちろん、食事では、嫌いなものから先に食べる。

 イチゴのケーキでは、最後までイチゴはとっておく派だ。


 きっとこの鍛冶屋は、好きなものから先に食べるタイプだろう。


「さて、今日のメニューは、“疲労抜き”の軽いやつにしよう。」


 鍛冶屋は、工房の床に、マットを二人分広げる。

 少年は急いで、彼女の準備を手伝う。


「すぐに、終わらせて、“少女”に会いたいんだろ?


 わかってるからな?

 この、おませさん!」

 

 鍛冶屋の女は、分厚い“ひじ”で、少年を小突いた。


 余計なお世話だ。

 少年は、少し顔を赤くして、そっぽを向いた。


「水は、飲んだか?

 熱中症対策だ!

 水分補給は大事だぞ。」

 

 暑苦しい鍛冶屋は、水の入ったコップを差し出す。


 少年は、水筒を持っているから、と丁重に断った。


 そのコップ、さっきまで、あなたが使ってましたよね?とは、少年は、口には出さなかったが、さすがに少し引いた。

 まあ、彼女は、純粋に、少年の心配をしてくれているのだ。


 筋肉質な彼女は、コップの水をゴクゴクと飲んだあと、本日のメニューを告げる。


「今日は、腕立て伏せ20回と腹筋30回だ。

 一緒にやるのは、久しぶりだから、1セットずつにしよう。」


 ありがとうございます!ありがとうございます!!

 聖職者の少年は、心の中で、神に感謝した。


「んっ!意外と尻が落ちていないな。いい姿勢だぞ!」


「もう少しだ!

 ・・・んっ?

 今日は、もう、次のメニューを、やります。

 腕の付く位置を変えて、もう1セットやるとかは、しないぞ?」



「腹筋では、私の合図に合わせて、腕と足をVの字にしよう。

 今日はサービスだぞ?」


「腰を痛めないように、注意しよう。」


「反動をつけずに、ゆっくりやろう。」




「お疲れ様!

 筋トレは、大事だぞ。

 毎日、5分だけでも続けることが大事だ。」


 マットを片づけながら、鍛冶屋の女は、少年に語りかける。

 もちろん、少年も、汗をぬぐいながら手伝う。


「ありがとうございました。“レイア”さん。

 いい気分転換になりました。」


「どういたしましてッ!

 少年ッ!


 こちらこそ、お土産、ありがとうッ!

 美味しかったよッ!


 またなッ!」

 

 暑苦しい鍛冶屋の女に、お礼を言って、少年は工房を後にした。


 少年は、“少女”が待つ、宿屋に向かう。

 工房のある建物とは、少し離れた場所に宿屋はあった。


 もうだいぶ日が傾いて、少しづつ暗くなってきた。


 宿屋の2階に、少年が借りている部屋があった。

 一人用の部屋だが、少年と少女は、二人とも小柄なので、丁度いい大きさだ。



 部屋のカギを開けると、頬を赤く上気させた、息の荒い少女が駆け寄ってきた。


 体の線が細い少女は、短い銀髪と白い肌、そして深紅の瞳が特徴的だ。

 少女は額から、汗をたらし、シャツの胸元をパタパタと扇いで暑そうにしている。



「お帰りなさい!

 ご飯に行く? お風呂に行く? それとも、ワ・タ・シとぉ・・・。」

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