第51話 誰得女装

部活動が始まって約1ヵ月、もう7月上旬になっていた。


時間の流れは早いものである。


「そろそろ夏休みか〜」


「そうだね〜」


そう!そろそろ夏休みがスタートするのだ!


ファンの人の話によると志歩はかなり忙しくなるらしい。


ツアーとかがいっぱいあるらしい。


ファンの人が大歓喜していた。


ちなみにファンというのは神田のことだ。


「ね〜ね〜、ゆーくん?」


さっきのふにゃふにゃな顔とはうって変わって、随分と深刻な表情でそう言ってきた。


俺も何か重要な話だと思い顔を引き締めた。


「どうした、志歩」


「今度、グループでツアーがあるんですよ」


「それは知っているぞ」


「それでさ、1週間以上ゆーくんと離れ離れになるんですよ。ゆーくんも寂しいでしょ?」


「寂しいのは否定しないがそれがどうした」


「ゆーくん成分が足りなくなっちゃうと思うのでツアーに着いてきてください!」


「無理です」


俺は即答した。


途中から話の雲行きが怪しくなったのでまさかとは思ったが思った通りのことを言ってきた。


「なんで〜〜!!」


ぶすっとした表情でそう言ってきた。


ぶすっとした表情も可愛いな……


じゃなくて!


アイドルのツアーに着いていく男なんて前代未聞だろう。


バレたら大問題どころの話じゃない。


そもそも許嫁として同棲してることだけでも、かなりの問題なのだから。


第一、藍沢社長と奈珠華たちから許可が降りないだろう。


「社長から許可とか得たの?まず部屋も借りなきゃならないんだからダメでしょ?」


志歩の意見を真っ向から否定しにいくと、志歩が意地を張ってしまい本当に言っていた事を実行にうつしてしまうという事を最近学んだのでなるべく諭すように言った。


こうすれば志歩も諦めてくれるだr


「社長から間接的に許可降りてる!」


訂正、諭すように言っても意味なかった。


というか間接的に許可降りてるってどういうことだ?


「間接的に許可降りてるってどういうこと?」


「社長はこう言ってました、志歩の活動に支障が出そうなら柳君をどうしてくれても構わない、って!」


わざわざ口調まで真似てそう言った。


それより社長ぉぉぉ!


なんで勝手にそんな約束しちゃってんだよ!!


俺の知らない間に、志歩に行動の自由の一部を奪われてるんだけど!?


どうしてくれてもいいって何よ!?


あ、でもまだ大丈夫だ。


奈珠華たちがいる。


「じゃあ奈珠華たちはどうするの?」


奈珠華たちからすれば俺はただの友達の彼氏だ。


そう簡単にOKを出すわけが


「良いってよ」


あったわ。


大ありだったわ。


あいつらはどういう神経してるの!?


炎上とか一切考えてないの!?


「じゃあツアー着いてくること決定だねっ!」


「いやまだ俺が許可出してない!!」


「藍沢社長が良いって言ってたもん!!」


どうやら俺の意思は関係ないらしい。


「本当に炎上しちゃうよ?」


再度志歩を諭そうとした。


「ゆーくんが女装すれば良い」


「は!?」


俺は自分の耳を疑った。


俺が女装?


はて、なんの冗談だろうか?


「女装して?」


「嫌です」


高1男子が女装したら、童顔か女顔でも無い限り酷い見た目になるだろう。


特に俺は顔骨格がゴツくて、違和感しかないので一瞬でバレるに違いない。


「私には変装させたのに?」


うっ……確かに。


志歩ばっかりに変装させてるな俺。


志歩が変装しなくても俺が女装をすれば普通にアイドルが女友達と遊んでるだけで話は収まる。


「じゃあ女装……して?」


俺が黙ってるのを良いことにさらに押してきた。


「い、いや………」


「私”には”変装させたのに?」


そこを疲れると痛い。


あと普通に申し訳なくなる。


「はい、女装します」


俺はそう答えるしか無かった。


「じゃあ早速これ使って!」


そう言って金髪のウィッグを取り出した。


机の下から出てきたって事は、最初っから女装させるつもりだったのか!


「金髪、かぁ〜」


ぜっったい、似合わん。


「いいからいいから、被ってって」


無理やり被せられ、近くにあった手鏡を向けられた。


「いくらなんでも酷すぎる……」


ゴツい高校生の顔に長い金髪があまりにもミスマッチ過ぎる。


「プフッ」


おい、笑ってるじゃねえか。


「もういいです、外します」


「まだ外さないで〜」


これ以上何をするつもりだろうか。


すると志歩は突然大量の化粧品を取り出した。


「ちょっとしばらく動かないで〜」


逃げようと思ったが、動いた拍子に顔にイタズラ書きされたみたいになったらたまったものでは無い。


そして俺は黙って顔を弄られた。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「ふ〜やっと終わった」


40分ほど動かずに志歩に顔を弄られ、今ようやく終わった。


俺は顔を動かさない様に黙っていたが、志歩も集中していたのか黙って作業をしていた。


「じゃあ鏡、見てみて!」


「分かった………え?これ俺?」


さっきまで地獄のようだった首から上が、丸く収まってる。


日焼けで薄茶色だった肌が今は綺麗な白色だ。


骨格も肌の色で細く見せている。


目は元々二重だったので何もされていない。


勝手に眉毛が細くされてるのは気になるが別にいいだろう。


「あとはムダ毛剃ってきて!」


カミソリと肌荒れしないようにする薬剤の入った缶を取り出した。


準備万端過ぎるだろ……


俺が驚いて固まっていると俺を風呂場へ引っ張った。


「剃ってきて」


命令形でそう言ってきた。


なんか怖かったので素直に剃ってきて戻ってきた。


「よし!じゃあ服を着替えて出掛けてみよう!!」


「は!?」


俺は人生初女装で外出させられる事になった。



後書き


走れメロスってあるじゃないですか。今日知ったんですけどメロスって計算するとマッハ11で走ってるらしいですw












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