第43話 志歩、ブチギレしかける
「俺の……手が……」
俺の右手は志歩の握力によって潰されかけた。
握られているとき、手からギュュュューっという痛々しい効果音が聞こえてきそうだった。
「志歩さん、こいつどうします?」
マジで知らない男子が、俺の右腕を掴んで志歩にそう聞いた。
「あぁぁあ、解放してあげて。ゆーくんは幼馴染みだから」
そのタイミングで授業開始のチャイムがなった。
「あ!ヤバい!次移動教室じゃん!!」
「まずい、遠Tに怒られる!」
そんな感じのことを言って俺の腕を掴んでいた奴も含め、全員が蜘蛛の子を散らすように教室からはけていった。
因みに、遠Tとは俺たちの間で1番怖いとされている生物の先生だ。
「やっといなくなった……」
志歩が一件落着!みたいな感じでそう言った。
「なんで掴んでた手を引っ張ったら志歩たち4人が出てくるんだよ!」
騒ぎが大きくなった原因はどう考えてもこれである。
奈珠華たちが志歩の手を握っているのは理解出来なくもない。
志歩が俺の手を握っているのは全く理解できない。
「ボディーガード、的な?」
「人使いが荒い!!」
というか、これ志歩が自分の意思でやったことか?
「だって奈珠華ちゃんが逃すなって言ってたんだもん!」
「やっぱりお前の仕業か!!」
「やっぱり人混み苦手だったんだ、逃さなくて良かったよ」
ニヤニヤしながらそう言ってきた。
「やっぱり柳をいじめるのは楽しいわね」
悲報、奈珠華さんドSだった。
「ドSクソガキ!!」
「そこ!静かにしろ!!」
「「「はい」」」
先生に怒られた。
完全に人前だと忘れて、言い合いしていた。
授業後、俺はクラスの男子から奈珠華たちとどういう関係なのか問い詰められた。
「マジでなんでお前ら転校してきた??」
放課後、俺は誰もいない教室で奈珠華たちにそう聞いていた。
「同じ学校にいた方が予定とか組みやすいでしょ」
「前の学校に友達いたんだろうし、それだけで転校はないだろ」
「アイドルってみんな、友達いると思ってるの?」
「逆に居ないの?」
「うん。志歩がおかしいだけ」
人気なんだから、人がいっぱい寄ってくるんだし友達たくさんいそうなもんだけどな。
「みんなショーケースに入った人形みたいな目で見てくるよ。アイドルだから触れちゃダメ、みたいな空気あるし」
「マジか」
「多分あんたらのところもそうだったでしょ?」
「私の学校もそんな感じあったわねぇ」
「みんな……話しかけてこない……寂しい……」
確かにそんな感じじゃあ、転校にもそこまで抵抗はないか……
「でもこの高校はいいわよ。変な男子に絡まれるのは私たち可愛いから仕方ないけど女子たちが話しかけてくれるし」
「確かに容姿良いけど、それを自分で言う奴初めてみたよ」
「そうでしょ!」
奈珠華がペッタンコな胸を張ってそう答えた。
志歩が若干照れている気がするが無視しておこう。
揶揄って学校で暴走されたらたまったものではない。
「……人……いる」
さっきから殆ど言葉を発していなかった、蜜華がそう言った。
後ろを見ると確かに誰かが廊下を通っていた。
「あ!あいつはさっきの!!」
俺の腕を掴んできた奴だった。
つい、声が出てしまった。
そいつが声に気付いてこちらを見てきた。
「ん?あ!!」
そいつも俺が誰だか気付いたらしい。
そのまま近づいてきた。
「お前また志歩さんに手を出してるのか……!!」
まだ誤解されたままだった。
しかし、俺がここで「違うんだ。志歩が俺に手を出してきたんだ」と言っても信用されるどころか、怒らせてしまうまである。
だから何も言えない。
「このクソ野郎が!なんとか言ったらどうだ!」
どうやら前髪が少し長めなのと、教室ではそこまで喋ったりしないので舐められているらしい。
大方、志歩の事が好きだけど近くに俺がいるから近づけなくて許せないみたいな感じだろう。
めっちゃ言い返したくなったが、下手に言い返してボロが出たら笑えないので俺は沈黙を続けた。
「ゆーくんが……クソ野郎……?」
志歩がそう呟いた。
雰囲気から怒っていると察した。
「こんな奴、志歩さんに不似合いですよ」
あーあー、なんでそうやって油を注ぐかなぁ。
「このゴミが……」
アイドルが言っちゃいけない事を、志歩が小声で言った。
「あの、お言葉ですがあなたに志歩の人間関係に口を出す権利はないと思いますけど」
「うっ……」
後ろから奈珠華がそう言った。
俺のことをボロクソ言っていたが、アイドル相手には強く言い返せないようだ。
「まず私、ゆーくんの事侮辱する人とは友達になることも無理なので。それに、貴方の方がクソ野郎だと思いますけど」
志歩の毒舌が炸裂した。
「いくら好きでも人を縛るのはどうかと思いますけどぉ」
「普通に……きしょい……」
こちらも中々の毒舌だった。
「………………」
アイドル4人から投げかけれた言葉に寄って、そいつの心は甚大な傷を負ったようだ。
好きなアイドルに言われたなら尚更だろう。
そいつは何も言わずに教室から退散していった。
「「「「はぁ」」」」
誰もいない教室で俺たちは盛大にため息をついたのであった。
後書き
三連休最高ですね
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます