第42話 まさかの転校生
俺のスッカスカのLINE画面に人が増えた1週間後、俺は担任から3人転校生の案内を命じられていた。
先生曰く
「あの人たちでも柳なら大丈夫だろう」
との事だ。
何がどう大丈夫なのか俺にはさっぱり分からない。
しかしもう転校生は来てしまっているようなので迎えに行かざるを得なくなってしまった。
「はぁ」
俺はいつも狭くて深い人間関係を築いてきた。
だから初対面の人とのコミュニケーション能力は皆無なのだ。
しかも3人。どういうクラス編成なのだろうか。
人数が偏り過ぎだ。
今朝行くと後ろに3つ空席が出来ていて、クラスメートがなんだなんだと言っていたがこれの為だったらしい。
俺は授業中抜け出し職員室の傍にある応接室へと向かった。
向かっている時に通った渡り廊下の窓から何度か見たことがあるリムジンが停まっていた。
なんであそこにリムジンが?とは思ったがリムジンを持ってる人は、他にも居るのですぐに頭のすみにいってしまった。
「誰が迎えに来るのかしらねぇ~」
「アイツ学級委員長なんでしょ?ならアイツが来るでしょ」
「……………の…」
応接室の中が随分と騒がしい。
そして時折、聞いたことのある声が聞こえる。
俺は一瞬悪寒がした。
「失礼します。1年1組の柳です。転校せ……」
そこにはつい最近知り合ったあの3人が座っていたのだ。
「おっと、入る部屋を間違えたみたいだ」
そして部屋を出た。
ドアの上にある札を見たがやはりそこは応接室で間違いなかった。
「なんも間違いじゃないわよ!!」
ドアを開けて山吹奈珠華が声を上げた。
眩暈がした。
「まさか転校生ってお前らのこと?」
「そうだけど」
「おわったぁぁぁ」
「何よ、その反応は!!」
ただでさえ志歩がいてうちのクラスは賑わっているのに、そこにメンバー3人が投入されたらどうなることか。
間違いなく他クラスから凄まじ数の人が押し寄せる。
だが俺にクラス分けの決定権はないので案内することにした。
「じゃあついて来てくれ……教室まで案内するから……」
「分かったわ」
「は〜い」
「……ん」
教室へ向かっていると、奈珠華が話しかけて来た。
「まさか志歩がこんなに頭いい高校だったとはね」
「俺は奈珠華たちが転入試験に受かったのが不思議でならないよ」
「私たちは頭もいいんです〜」
そんな感じの雑談をしてゆっくり歩いていると教室に着いた。
「先生、連れて来ました〜」
「おお、じゃあ入れてくれ」
「じゃあ入って来てくれ」
そして奈珠華たちが入って来た途端クラスが騒めいた。
「今日からこのクラスに入ります、山吹奈珠華です」
さっきとは真逆の無表情でそう言った。
「新庄夏木です」
「橘……蜜華です。よろしくお願い……します……」
残り2人はいつものテンションだった。
「柳君、席どこ?」
「あそこの3席。好きに選んでくれていいぞ」
そうして俺は席に戻った。
「志歩さんのグループメンバーが同じクラス……」
「なぁ、なんか柳の野郎めっちゃ話慣れてなかったか?」
「確かに」
「志歩さんだけでなくグループ全員でハーレムを築こうとしているのか…!?」
「呪い殺す」
また俺を呪殺する計画を練り始めた。
「キーンコーンカーンコーン」
「ガラガラガラ」
授業終了のチャイムが鳴った瞬間、他クラスから人が流れ込んできて教室は一瞬にしてカオスになった。
志歩たちの方向へ我先にと人が来たもんだから特に俺の周りはやばいことになっていた。
教室は満員電車さながらの混雑具合だ。
「ちょっとごめん」
尋常じゃないくらい暑苦しかったので俺は貴重品だけ持って教室から脱走しようとした。
「………ん?」
進もうとしているが右手が重くて進めない。
右手を見ると人混みの中から手がニュッと出ていて俺の右手をがっしりと掴んでいた。
(誰だよ!!)
一刻も早く抜け出したかったのでその手を力一杯引っ張った。
「わぁぁぁぁ」
少し悲鳴が聞こえたが、前に進めた。
だが、手が離れる様子はない。
「あぁぁぁぁぁ!」
全体重をかけて引っ張った。
「きゃあ!」
「うわぁぁぁぁ!」
さっきよりも大きな悲鳴が聞こえ、それと同時に俺の体は一気に進んだ。
しかしまだ俺の手は掴まれている。
「マジで誰やねん!!」
振り向くと芋蔓式にアイドル4人が人混みから出てきた。
掴んでいたのは志歩の手だったらしい。
「…………」
「「「「……………」」」」
俺たちの間の空気が凍った。
「なんであいつ志歩さんの手握ってんの?」
しかも誤解された。
「おい!離せよ!」
そう言って知らない男子が俺の手と志歩の手を離そうとしてきた。
その直後手を外されまいと志歩の手にとてつもない力が入った。
「いってぇぇぇぇぇぇ!!」
「お前、はなせぇぇぇぇ!!」
現場はさらにカオスになった。
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