第3話決意

「大丈夫」


俺のことを抱きしめていたのは葵だった。


子供をあやすように俺の頭を軽くトントンと叩く。


「やっぱり綺麗な青い目だね」


そう言っている葵の表情は優しい母親のような笑顔。


そう言われて俺はようやくさっき呪いの力を暴走させてしまったことに気づく。


「そうだ葵大丈夫なのか!」


葵の両肩にガバッと自分の両手を置く。


「大丈夫って何が?」


言っている言葉の意味がわからないと言ったようにきょとんとした表情を浮かべている。


「何ってあいつらのもう1人の仲間に襲われたりとか」


「私襲われたりなんてしてないよ?」


ってことはあいつの嘘だったのか。


とりあえず葵に何の怪我もなかったことに安堵しながら地面に腰を下ろす。


「かずくんここでいつまでもゆっくりしてるわけにはいかないかも!」


葵にしては珍しく真剣な口調で言ってくる。


「どういうことだ?」


その俺の疑問の言葉には答えずに葵は顔を後ろに向ける。


俺も同じように顔を後ろに向けてみると、建物が破壊されていた。


学校の建物が全て完全になくなったというわけではなく、学校の建物の窓が全て割れてガラスの破片がそこら辺に飛び散っている。


「また俺がやっちまったんだな…」


「うん…多分」


静かに頷き言葉を口にする。


急に外の天気が曇り空に変わって雷が落ち始めたからもしかしてと思って。


「そっかまた俺は力を制御できなかったんだな」


「しばらくの間どこかに隠れてよう先生達が多分もうすぐここに駆けつけてくる!」


言って葵は俺の返事を待たずに手を引きどこかに向かって走り始める。


「どこかに隠れるって言ったって一体どこに隠れるんだ」


「わかんないけど私が何とかして探す!」


俺は引かれていた手を離す。


「かずくんなんで!」


「一度先生たちから逃げ延びられたとしても結局ほとぼりが冷めた後で学校の方に戻んなきゃいけない」


「そしたら多分今逃げたところで後々事情聴取されることは目に見えてる」


「だからお前だけどっかに隠れてほとぼりが覚めるまで出てくるな」


その俺の言葉には何も返さず葵は無言で再び俺の手を掴む。


「おい俺の話聞いてたのかよ!」


俺の手を強い力で掴んだまま目的の場所なくただぐんぐんと進んでいく。


俺はしばらくの間無言で手を引かれ走っていた。


しばらくの間走っていると目の前にだいぶ古びた物置があった。


葵がその物置部屋の扉に手をかけてみると鍵がかかっていなかったらしく簡単に開く。


「とりあえずこの部屋の中に入ってやり過ごそう!」


俺は言われるがままに物置部屋の中に入り扉を閉める。



「でもどうすんだよこの物置部屋の鍵壊れてるから先生たちが来たら簡単に開けられちまうぞ」


すると葵が物置部屋の中の周りを見渡す。


「この物置部屋にあるのを使おう!」


物置部屋の中にはたくさんの大きなものが置かれている。


なんとか2人で協力し扉の前になるべく大きなものを置いて簡単に入ってこれないようにする。



「こんだけ扉の前に置いとけばそう簡単には先生たちも入ってこれねぇだろう」


一息つく。


「そうだね」


「疲れたから一休みすっか」


俺は硬い地面に座る。


葵も俺と背中を合わせるようにして座る。


「なぁ…葵」


「何?」


優しい口調で聞き返してくる。


俺は走ってる間ずっと気になっていたことを口にする。


「なんで俺のことこんなに必死になってかばってくれるんだ?」


「かずくんが私のために色々やってくれたからだよ」


冗談ぽい口調で小さく笑いながら言う。


「そんな言うほど俺は葵のために何かした記憶ないけどな」


言いながら俺がゆっくりと後ろに顔を向けてみるとちょうど葵と目が合う。


「あ!」

「あ!」


俺は驚き慌てて目をそらす。


「今日のだってそうだよ」


「何がだ?」


「相手の生徒に煽られた時かずくん怒ってるみたいではあったけど、どこか冷静だったから」


「私を守るために私を先に逃がしてあの人たちと戦って呪いのことを周りに漏れないようにしようと思ったんでしょう」


「何言ってんだあの時俺はいつも通りキレて喧嘩を始めたじゃねぇか」


「相手の人に煽られたっていう形をとってね」


俺の言葉にすかさず付け加えるように言う。


「確かにかずくんは普段怒りっぽい性格だけど、あの時少なくとも私には冷静に見えた」


「…はぁお前っていつも何も考えてないように見えるけど時々変なところで鋭いんだよな」


「3歳の頃から10年一緒にいるんだからそれはまあかずくんのこと少しはわかるようになるよ」


「いつも誰かのために一生懸命で困ってる人がいたらほっとけなくて自分がどんなに悪く思われても気にせず守り通す」


「俺は誰かのために何かをしたことなんて一度もねぇよ」


「全部自分のためだ…」


「そういうところも…」


「今何か言ったか?」


「そういえば俺が倒したあいつらはどこ行ったんだ?」


「俺が気を失う前までは5人ともさっきの場所で倒れてたと思うんだけど」


俺が意識を取り戻してあたりを見回した時にはもうその姿はなかった。


最後に残ったあいつが俺が意識をうしないかけたところで呪いの目に驚き尻餅をつき慌てて逃げて行ったところまでは何とか覚えている。


「あの人たちならさっき廊下であったんだけど私の顔を見るなり青ざめた表情を浮かべて逃げるように去って行った」


「ねぇかずくん!」


さっきと同じように真剣な口調ではあるがさっきとは違う真剣さをその口調から感じる。


「なんだ?」


さっきと同じように後ろに顔を向けてみると葵が真剣な表情で俺と向き合うように座っていた。


「これからは私かずくんの役に立ちたいの!」


「なんだよいつになく真剣な表情を浮かべてると思ったらそんなことか」


「今回のことに関しては葵は一切悪くない」


「俺がいつも通り後先考えず頭に血がのぼっちまって喧嘩に乗っかっただけだ」


「嘘!」


「それは私を守るための嘘!」


「分かったよ俺が今更何を言ったところでお前が一度決めたら頑固なことも知ってるからな止めはしねえよ」


ため息交じりの口調で言う。


「ただ何か事件が起きて危なくなったらすぐ俺を呼べよ!」


「助けに行ってやるから!」


「うん、分かった」


俺がそう言うと表情がパッと明るくなり頷く。


「それじゃそろそろここから出るかさすがにもう騒動は落ち着いただろう」


俺が立ち上がったところでちょうど葵の足とぶつかり葵が俺の上におおいかぶさるように転んでしまう。


「……」

「……」


「あ! 大丈夫か怪我してねえか」


「うん大丈夫」


とりあえず立ち上がる!


「なあ葵そんな無理して強くなろうとしなくていいぞ」


言うと俺の肩を掴み強い力で自分の方に顔を向けさせる。


「かずくん私は強くなりたい!」


「いつまでも守られてばっかりの存在じゃやだ!」


「私の好きな…」


小さな声で何か言いかけたところで首をブンブンと強く横に振り言い直す。


「大切な人たちを自分の力で守れるようになりたい!」


「いつも私の面倒を見てくれてるかずくんのお父さんも守れるようになりたい」


「だからかずくん私に修行をつけてよ」


思ってもいなかった角度からのお願いに俺は驚いてしまう。



「修行をつけてくれって言われても俺魔法を使えないどころか魔力をそもそも持ってないから教えられねえぞ」


絶対に教えてもらう相手を間違ってるだろう。


「お父さんも魔法は使えねえし」


「だから実践訓練の相手をしてよ」


「分かった分かったやれるだけのことは手伝ってやる、けど絶対に無理はするなよ」


「ありがとう!」

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