【タケノコ物語】第五幕

次に、打算的の策略で有名な庫持の皇子が来たわ。

「東の海の蓬莱山にある、白銀の根を張り、黄金の茎を持ち、白い宝石の木の枝を」と頼んだ人ね。

朝廷に有給を頼んで、筑紫の国に湯治出かけて、お爺さんの家に使いを出して

「白い宝石の木の枝を取りに参ります」と言わせていたわ。

皇子は「秘密で」と言って、大勢は連れて行かず身近に使えるものを連れていったわ。

皇子は、難波から旅立ち見えなくなったら、都に戻っていたわ。

つまり、旅に出たふりをして都にいたのね。

難波で船を漕いで3日間後には帰ってきてたわ。

鍛冶職人を6人雇って、近寄よれないように家まで造って、かまどを三重にして皇子も籠り、荘園十六ヶ所をはじめ家の財産を注ぎ込んで立派なための枝を作らせたの。

非常に立派なもので、本物と見分けがつかない物になったわ。

それを船に乗せ難波に帰ってきたように見せたわ。取ってきたように見せかけてね。

とても、打算的でしょ。


「船に乗って帰ってきたぞ」と、声をあげとても疲れてきつそうな様子で座り込んだわ。

お迎えの人々が大勢やってきて、玉の枝を都へ運んでいったわ。

噂が広まって世間では大騒ぎ。

「庫持の皇子は、優曇華(うどんげ)の花を持って都へお上りになった」と言ったの。

世間の噂が本当なら「庫持の皇子と過ごすこともあったでしょうね」

けど、わたしたちは月からその人が何しているか分かるのよ。

嘘までついて、私と結婚したいという執着に、胸が締め付けられる思いがしたわ。


もう少し、その打算的なことを善きことにつかえないものかしらね。

そうしていると、お爺さんの家の門を叩いて「庫持の皇子が旅の姿でいらっしゃいます」と使いが少し早めにきたの。

どれだけ、見栄っ張りなのかしら。

だって、わざわざ使いを使って自分の凄さをアピールするのよ。

お爺さんと皇子が会って「命を捨てて、あの玉の枝を持って来ました」と皇子が言ったわ。

「かぐや姫に、どうぞお見せください」と、お爺さんも言って、奥の部屋で玉の枝と手紙を確認したわ。


手紙には、

「虚しく無意味に我が身が果てたとしても、玉の枝を手折ることができないまま、手ぶらで帰ろうなどとは思いませんでした」

と有ること無いこと書いているのよ。


事の一端をしっている私にとって、当然心に響くわけがないわ。

けど、お爺さんは部屋を走って

「あなたのために皇子さんが、玉の枝を持って帰ってきた。これ以上貴方にふさわしい人はいない。旅に出たのに、その脚でここに向かわれた。この皇子と結婚なさってください」

と言うの。

世間の情報や噂ばなしが、あることないことで事実を覆い隠すのね。

私は、顔に頬杖をついて、人類を嘆かわしく思ってしまったわ。


それでも見栄っ張りの皇子は「いまとなっては、反対の言葉も言えないはずだ」と言って縁側まで来たわ。

お爺さんもその気になって

「この国にはない、玉の枝です。お断りできないでしょう。人柄も良いですし、結婚しなさい」

などと言っているわ。


あなたたちの成長具合では手に入らない代物を要望しているけど、お爺さんを騙すつもりはなかったのよ。

そこには少し共感してね。

「あなたのいうことを拒否するのも申し訳がない」

とぷつりと呟いたの。

それに、玉の枝も職人の腕がよかったのよ。とても綺麗だったわ。

すっかり、お爺さんは皇子を信じて、私と皇子の寝室を準備し始めたの。


お爺さんは、皇子冒険を聞きたくて質問をしたの。

「大変珍しく美しい枝ですね。どのようなところに、この木は生えていたのでしょうか」

と尋ねていたわね。


とても、退屈な物語を皇子は言い出したわ。


「3年前の2月10日ころ、難波の港から船に乗って海に出ました。しかし、進むべき方向も分からず、願望も叶えることができず世の中に生きている意味を見失いかけ、虚しく吹く風に任せて進んだのです。死んで命を失ったらどうしようなどの恐怖にも襲われましたが、生きている限りはこのまま進んでみて、運が良ければ蓬莱という山に行き着くと船を漕ぎました。国を離れ、波があれて海底に引きずり込まれそうになりました。


意識が朦朧とする中、風に吹かれ知らない国まで流されました。鬼のような生き物がでてきて殺されかけ、いよいよ迷宮いり、食糧もつき、草の根までも食べ、海に身投げをしようと考えました。何度も不気味な怪物が襲ってきて、私を食べようとしてきました。貝を取って命をつないだこともあります。


船旅ですから、空を見上げ助けられる人もいないような場所で病気にもかかり、海の上を漂っていました。

おそらく五百日くらい経ったのでしょう。午前八時頃、海のなかに山陰がみえました。とても大きくその姿は素晴らしいものでした。

私が求めている山だと思い、何度も周囲を回って2・3日ほどしたころです。

天人の衣裳をまとった女が山の中から出て来て、銀でできた金椀を手に持ち、水を持って歩いていました。

私は船からおりて「この山はなんというのですか?」と尋ねました。

天人は「蓬莱の山」と言いました。

私は、「ついにやった」と嬉しくなりました。

天人に「あなたは誰ですか?」と聞きました。

「うかんるりです」と答え、山の中に入ってきました。


その山を見ると、登れそうにありません。

山の斜面を回ると、この世のものとは思えないほど美しい花や木々が立っています。

金・銀・瑠璃の色をした水が山から流れていました。

玉が、敷き詰められ橋が掛かっており、近くには光に照らされた木々があります。

その一つに、玉の枝を取ってきました。

あの山のなかでは、余り良いものではありませんが、枝を折ってここに参上したのです。


この山は、この世の中にあるもので喩えることのできない落ち着きをもたらしてくれました。

しかし、枝を折り取ったことへの罪悪感ですぐにその場を離れ船に乗り込むことにしました。

追い風にもみまわれ四百日以上かけて戻ってきたさまです。

神仏に願掛けしたかいがありました。

昨日、難波から京都まで無事に帰り、海塩に濡れた衣服でここまで来ました』


と、庫持の皇子は言ってお爺さんは感動していたわね。


竹取マスターのお爺さんも、野山での自然の厳しさを知っているからね。

そのため、庫持の皇子の航海がいかにすごいものなのか、竹の節を見ながら感動していたわ。



お爺さんは皇子に「長い間溜まっていた苦しい感情ももう終わりです」と言っていたわね。

皇子は「涙と海水で濡れていた私の衣服の衣は、きょう願いが叶ってすっかり乾くでしょう。いままでの多くの苦しみや悲しみを忘れることができます」と、ほざいたのよ。


そんなやり取りを聞いていた私は、これではお爺さんがあまりにも不憫だわ。

「あなたの竹マスターは宇宙でも群をぬいている」この人とは違うわ。

なので、事実を知ってほしくて、6人の枝切り職人たちにテレパシーでこの家に来るよう呼びかけた。

家に来て、その一人が手紙を読み上げた。


「私は、枝をつくる職人。漢部内麻呂と申します。注文された玉の枝を造ったものです。千日以上かけ、食べるものもギリギリで造作した力作です。それにもかかわらず皇子から報酬が支払われていません。報酬を頂きたい。弟子たちにも飯を食う賃金を支払いたいです」って内容だったわ。


お爺さんは「枝の職人?どういうことだ?」と首を傾げました。

皇子は、落ち着かない様子だったわね。

私は、手紙を見せるよう言いました。


そこには、はっきりと千日間にわたって隠れ家で生活し立派な玉の枝を造りあげたことが書かれています。

私と結婚して、竹の節の金を報酬として支払う算段だったようね。


私は、にっこり笑って「本当に素敵な玉の枝です。しかしこのような嘘の結果とわかった以上いりません」と、お爺さんに言いました。

お爺さんは、偽物だとわかったのだから、返すことは簡単でした。


私は「本物の玉の柄だと信じていました。言葉でいくら飾り付けても偽物だったのですね」と言って皇子に玉の枝を返しました。


あれだけ、熱意弁して語っていた皇子も決まりが悪くなったのでしょう。

寝た振りをしたり、立ったり座ったり、落ち着かない様子で日が落ちるときには、屋敷を出て行きました。


「ああ、見栄をはらず謙虚に蓬莱の山の玉の枝だったらどれだけよかっただろう」と思うわね。

たしかに、それはあるのだから。

人間が成長をして枝切り職人が自然と調和して手掛けるように、その世界と調和できる。


わたしは、お爺さんと話し合って枝切りに職人に「金塊を上げるてはどうだろうか?」と提案した。

枝切り職人は、とても喜んで報酬を受け取って帰っていたの。

しかし、庫持の皇子が待ち受けて殴りつけたわ。

金塊の報酬は、皇子が取り上げてしまったの。


皇子は、自分に恥をかかせた枝切り職人が許せなくて、黙っていれば妻にできたとおもっているのね。で、嘘だと世間にスキャンダルされ恥をかいたの。

その恥を隠すために山奥に一人で暮らして失踪してしまったわ。

何年間も姿を表さないから「魂離る(たまさかる)」人と言われていたわね。

かれは、恥を知り孤独に一生を終えたというわ。


「ふぅ」と言って、頬杖をつく「かぐや姫」なのでした。

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