第13話

 兵士とお祖母さんの食堂は、新橋の商店街の、ちょうど真ん中にある。

 前に兵士に助けられた時、俺はこの店の前で倒れていたらしい。

 今日は、のれんは片付けられていて、準備中の札が引き戸に下がっているが、中にはほのかな灯りがともっていた。


「兵士、いるか?」


 引き戸を開けると、右奥のテーブルに、兵士が突っ伏していた。


「裕介……」


 兵士がむっくりと起き上がり、こちらを見た。おそらく、仕事から帰った時のまま、ずっと泣いていたんだろう。目が真っ赤だ。


「お前、ちゃんと食べてるのか? なんで、返信しないんだよ。何回も電話もしたのに」

「……」

「もっと早く来るべきだった。ごめん。」

「……うん」


 俺は兵士の隣に座って、そっと頭を撫でてやった。痛み気味の金髪の感触が、フワフワとくすぐったい。


「……頼みがあるんだけどさ。」

「何だ? 言ってごらん」

「俺のフリをして、ばあちゃんのところに行ってくれない?」

「何で!? さすがに、そんなの、すぐバレるだろ?」

「……ばあちゃんを見てるの、すごく辛いんだ。」

「医者は何て?」

「分からない……とりあえず安静にしとけって……。」


 兵士は憔悴しきっている様子だった。

頼れる親戚もいなく、一人で仕事と病院を行ったり来たりするのも辛いんだろう。


「……分かった。行くよ。 でも、わざわざお前のフリする必要あるのか?」

「俺が行かなかったら、ばあちゃん、ガッカリするんじゃないかと思って……」

「そうか……分かったよ。でも、これで最後だからな? お年寄りを騙すのは、心が痛いし……」

「うん……」


 兵士は立ち上がると、俺に向かって礼をした。


「よろしくお願いします。」

「何だよ! お前らしくないぞ。」

「確かに、そーだよな……オレたち、チューした仲だし……。」


 兵士が久し振りに、笑顔を見せてくれた。

同じ顔のはずなのに、人懐っこくて、子供みたいに可愛い笑顔だ。


「あれは!あの時だけ!もう無いから!」

「またまたぁ〜。オレはいつでもウェルカムだよ〜?」

「フザけてないで、俺がお前になる準備しに行くぞ!」

「はぁ〜い」

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