第12話

 半熟の目玉焼きにフォークを刺したら、ゆっくりと黄身溢れ出てきた。

 俺は、ぼーっとその様子を眺めている。

 兵士と……キスをしてしまった。

 何で、あんなことしてしまったんだろう。

 兵士が泣いていたから、慰めてやろうと思って、身体が先に動いていた。

 その後、兵士が俺の唇に……。


 「裕介、何を、ぼーっとしてるんだ。早く食べなさい」

 

 不機嫌そうな父さんの声が、俺を現実に引き戻した。


 「裕ちゃん。もっと、しっかりしてもらわないと……。パパが官房長官になってから、私たち、本当に忙しいの。

それに、次の総裁選で党のトップになるかもしれないのよ?」

 「え……? それって……」

 「この国の総理大臣になるってことよ」


 俺が、総理大臣の息子になるってことか……?

 今でさえ、窮屈で仕方がないのに、これ以上、プレッシャーをかけられたら……。

 俺はどうなってしまうのだろう。


「今が家族にとって大事な時期なのは自覚してるんだろうな? 記者がいろんなところで私たちの動静を見張っている。

 お前も、マスコミの目には十分に気をつけろよ」

「わかりました。……父さん」


 返事をしたものの、心では全く別のことを考えていた。

 兵士は今、何をしているのだろうか。

 病院で別れてから一週間、LINEの返信もない。

 現場が忙しいのだろうか……それとも、お祖母さんに何かあったのか。


 「母さん、今日は、ちょっと遅くなる」

 「仕事が忙しいの? 最近、ずいぶん帰りが遅いけど……」

 「ああ……。」

 

 今すぐ、兵士に会って話をしたい。

 きっと、寂しくて泣いているに違いないだろうから。


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