第11話

 消灯時間直前のデイルームには、俺と兵士しかいない。

 皮がところどころ剥がれたソファーに座って、俺たちは沈黙していた。


「……兵士、大丈夫か?」

「……」

「すぐに良くなるって。大丈夫だよ。」


 いい加減な事を言ってはいけないと分かっているのに。

 兵士があまりにも落ち込んでいて、可哀想だから、薄っぺらい励ましの言葉をかけてしまった。

 

 「……っ」

 

 ずっと俯いていた、兵士の硬く握られた拳の上に、涙がポタポタと落ちた。


 「お、おい……泣くなよ……」

 「オレ、またひとりぼっちになるのかな……」

 「え?」

 「かかと、ととが死んじゃった時みたいに、また一人になる?」

 

 兵士は目を真っ赤にして、茶色い瞳から涙を次々に流しながら、俺に問うてきた。

 

 「オレ……怖いよ……。ばあちゃんがいなくなっちゃったら、本当にひとりになっちゃう……」


 項垂れた兵士は、本当に小さな子供みたいで、幼い頃の自分を見ているようで、今すぐにでも、霧のように消えてしまいそうだった。


 「……兵士、目閉じて」

 「……なんで?」

 「いいから」


 これで、兵士が少しでも元気になってくれるなら。また笑ってくれるなら。

 兵士の右の頬に、そっとキスをした。


「え……」

 

 兵士が驚いた顔で、こちらを見つめていた。

 

「いや……!これは、あんまりお前が辛そうだったから、気持ちをほぐしてやろうと思って……」

「……だったら、こっちのがいい」


その瞬間、兵士の顔が近づいてきて、俺は兵士と唇を重ねていた。


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