3. コミュ障ぼっちが机に突っ伏して何が悪い。

 僕の様なド文系の人間を最も眠くさせる、いともにっくき数学の授業が終わった、三時限前の休み時間。

 僕はいつも休み時間にする様に、ちょっと机に突っ伏して、疲れた脳を休ませていた。

 腕を枕にし目を瞑って、取り留めもない物事をぽつぽつ思い浮かばせる。

 僕が属するこのクラスは、この学年の文系成績上位者を集めて編成つくられたクラスである。そのせいなのか、四〇人のクラス人数の中で、僕を含む男子生徒は数人しかおらず、かなり女子生徒比率の高いクラスとなっている。「女子が圧倒的多数のクラス」と聞けば、まるで僕がラブコメの主人公の様にも聞こえるかも知れないが、僕の場合において、当然そんな訳は無い。

「ラブコメの主人公」るのは独りでだるげに机に突っ伏している僕の方ではなく、窓際で、数人の女子と談笑しているこのイケメンの方である。新クラスとなってまだひと月程度であるが、このイケメン、もうすでに女子生徒を女友達キープとして何人か囲っている。そいつらと一緒に、駅前の栄えた所やら、百貨店近くの大きな商店街やら、色んな所に遊びに行っているらしい。


 うつぶせになってちょっと経って、時間が気になったので、頭を上げて教室の壁時計を見、ついでに周りも見渡す。まだまだ次の授業まで時間があるみたいだ。あのイケメンとその取り巻きとかの、クラスの大体の人は、まだ立って話をしていた。僕は安心して、また机に突っ伏し始める。

 あのイケメンの髪はキノコ型である。ここの所の流行りの髪型をしていて、さらには向上心はあつくスポーツが得意、人の目前では常に好印象だけしか与えない様な、顔つきと身体をした男子である。案の定、女子にはかなりモテている。休み時間ともなると、ずっと女子生徒が常に周りにいて、それが絶えることが無い。

 ただ、少なくとも性格には良く無い部分がある。自尊心プライドが高くて、人を見下しがちであるのだ。お勉強が出来なかったり、美意識が高くなく見た目が宜しくないとされたりする人間を、小馬鹿にして軽蔑する。

 しかしながら、このクラスはご存知の通り文系の成績上位者を集めて出来た選抜クラスなので、まづお勉強が出来ない人はいないし、なまあまあ容姿も良い。だから、この「よく出来た男子」の悪い部分が露わになる事はこのクラスではほとんど無い。有るとすれば気の置けない男子とのトイレでの会話ぐらいである(僕は休み時間に、人を避ける為にいつもするトイレ籠り中で、彼が同級生達と小便器に並んで「そういう」話をしているのを聞き、それで彼の性格があまり宜しくない事を知ったのだった)。


 あの告白事件が起こった後、数日が経過したけれど、あまり僕の生活には変化が無い。当然、僕に告白してきたあの女子生徒は、僕を見ると積極的に避けようとするが、それぐらいだ。

 僕を呼び出した男子生徒は、あの後空き教室に来て「あの女子に頼まれたから、僕に嘘をついて空き教室に向かわせた」という事を言っていた。何もこの程度の事なのにちょっと申し訳無さそうにしてたので「全く気にしていない」と社交辞令的なひと言を一応言っておいたが、それでも僕は、やっぱりあの女子生徒の事が、何をしでかすか気になってしまう。

 正直、断ったら「無理」とか言い出す、厄介そうな奴からの告白を断ったので、何か宜しくない事が起こると思って結構警戒しているのであるが、今の所は問題無い、と言って良いかも知れない。

 ただ、こういう人間は、もしかしたら告白を断った事を根に持ってしまうかもしれないから、何かしらの復讐を企んでいるかも知れない。一応、気を付けておかねばなるまい。むを得ない様な事情にでも陥らない限り、あの女子生徒とか、そいつと関係が深い奴らとの接触は避けるのが宜しいだろう。

 みんなが椅子に座り始めた音が聞こえてきた。直ぐに頭を起こす。余計な思考を巡らせるのもめた。そうして僕は、ギリギリになってやっと三時限目の準備をし始めたのだった。

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