心の宝石
キリン
心の宝石
昔々あるところに、ヒリスという錬金術師の女の子がいました。
ヒリスはとっても頭がよく、勉強が大好きで、7歳になる頃には誰にも為し得なかった錬金術を大成させることが出来ました。
噂を聞きつけた王様はヒリスを王宮で雇う代わりに、いつでも、なんでも、好きなものを与えるという約束をしました。
ヒリスはとても喜びました。王宮での暮らしはどれもきらびやかで贅沢で、これまでの暮らしからは想像もできないような楽しい日々を過ごしていました。欲しい本や食べ物、とにかく好きなものに囲まれながら、ヒリスは育ちました。
そんな生活から暫く経ったある時です、ヒリスがいつものように王様へのお願いをしに行ったのは。
王様はいつも通りニコニコ笑いながら、ヒリスの欲しいものは何だと聞きます。ですが、いつもならすぐに答えるはずのヒリスは、なんだかソワソワしていて落ち着きがありません。
「どうしたんだい? 私はこの国で一番偉いんだ、君の欲しいものはなんでも持っている」
王様が自信たっぷりにそう言うと、ヒリスは笑ってこう言いました。
「王様、私……たくさんお友達が欲しいんです!」
王様の余裕たっぷりの表情は崩れました。目をパチパチさせながら、顎に手を乗せて、声を上げながら悩んでいる様子です。
ヒリスは困り果てました。自分と友達になってくれる人は、この世にはいないんじゃないかと不安になったからです。
「よし、こうしよう」
王様は手をぽんと叩きました。
「街に出て、君が作った金をその手で貧しい人に差し上げなさい。そうすれば、みんな君のお友達になってくれるに違いない!」
ヒリスははしゃぎながら、自分の部屋にあった金の粒を袋いっぱいに持って、貧しそうな村へと走っていきました。
人々は喜んでヒリスから金を受け取りました。沢山の感謝の言葉を受け取りながら、ヒリスは喜びました。金を渡すと同時に名前を聞いて覚えようと思っていたのに、こんなに人が多いと覚えきれません。
と、ヒリスが袋に手を突っ込んだその時、ヒリスは気づきました。これが、最後のひと粒です。ヒリスは並んでいたお婆さんにそれを渡して、名前を聞きました。お婆さんは答えた後、さっさとヒリスの前から去ってしまいます。
するとどうでしょう、並んでいた他の人たちも去っていきます。ヒリスは去っていく人たちを呼び止めますが、誰も答えません。名前を聞いても、誰も答えてくれません。今日覚えた名前を全て呼んでも、誰も来やしません。
ヒリスは泣きながら、お城に帰ります。何がいけなかったんだろうと考えても、幼い彼女には何も分かりません。ヒリスがしょんぼりとしていると、何やら草むらの方でカチカチと音がします。ヒリスがそこに行くと、なんとそこには罠にかかった白い子犬がいたのです。
「おい、俺の晩飯に何してやがる」
罠を外そうと近づいたところ、不意に銃を持った男が現れました。男はものすごく怒っていて、ヒリスはもっと泣きそうになります。ですがヒリスはぐっと堪え、自分で作った指輪を取り外し、男に差し出します。
「これは私が作ったルビーの指輪です、これがあればご飯なんていくらでも食べられます」
男は訝しげな顔でヒリスから指輪を奪い取り、そのまま去っていきました。安堵したヒリスは、犬の足を囚えていた罠を外してやりました。犬は嬉しそうに飛び回った後、ヒリスにペコリとお辞儀をしました。
「助けてくれてありがとう。僕はジョン、君の名前は?」
「私はヒリスっていうの、王様のもとで働いてるの」
「そうか、それは凄い。でもヒリス、君はどうして泣いているんだい?」
「お友達が欲しいのに、誰もお友達になってくれないの。王様に言われたとおりに金をあげたのに、みんな私と話してくれないの」
ジョンはとても困った顔、怒った顔、呆れた顔、最後に同情の目をヒリスに向けました。
「そうか、それはとても悲しいね。じゃあ、僕とお友達になってくれないかい?」
ヒリスはジョンに顔をぐっと近づけました。
「いいの!?」
「ああ、僕を助けてくれた君のことが、僕は今とっても大好きなのさ。友達っていうのは物を通してなるものじゃない、その人だけが持っている心の宝石、その輝きで惹き寄せられるんだと僕は思うよ」
「心の、宝石……?」
「駄目かな? 僕は犬だけど、君の友達になりたいんだ」
ヒリスはうれしくて、ポロポロ泣き始めました。慌てる犬を抱きしめて、そして大きな声で言いました。
「うん、なろう! 友達になろうよ!」
二人は友達になり、一緒に王宮で暮らすことになりました。一緒に同じ時間を過ごし、同じご飯を食べて、同じ事を考えたり考えなかったり……それでも、ずっと一緒に楽しい日々を送りながら、大きく強く成長していきました。
今日も二人は、互いに磨きあうのです。
お互いが心に秘め、お互いに惹かれ合う、清らかで優しい心の宝石を。
心の宝石 キリン @nyu_kirin
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