第49話 技法:「わからせ」と「気付き」(気付き編)

 今度は「気付き」の技法の方をご紹介したいと思います。名作と言われるものはだいたいこっちの技法じゃないかなと思います。お察しの通りで面倒臭いです。(笑



 読書体験の中でも、読者が自分で発見した情報というのはとても価値が高く、印象や記憶にも残ります。推理小説で証言の矛盾を発見した時とか、恋愛小説で文章の合間に見え隠れする情緒とかが匂い立ってきた時に、その小説の評価ポイントはちょっと高くなったりしませんか?


 文章で書かれてある情報を読んで受け取っただけのモノでは心はあんまり動きませんが、文章をヒントに自分で気が付いた情報というものは、すごく大きく響くんです。


 昔、TV番組でこんなクイズ形式のヤツがあったんですよ。まず、回答者の後ろにフリップが出されて答えがそこに書いてあってね、それを見たチームメイトが回答者に、ヒントを色々と出して、回答者はヒントから推測してフリップに書かれた答えを当てる、というヤツなんですけど。


 これに登場した回答者は、その推測が複雑だったり連想が難しかったモノを当てた時ほど大きく喜んでました。推理小説の原理ってコレですよね。


 簡単に解る連想や推測なら読者は愉しめない。その回答が思いも寄らない場所から出てきて、しかもそれを自分が発見できた時に、大きな愉悦がもたらされる、という仕組みになってます。パズルの原理だからコレ系の推理作品をパズラ―とか呼ぶんでしょうかねぇ? いや知りませんが。


 この技法は、ストレートに伝えて読ませる表現よりも余計に文量が必要になります。連想ゲームで「答え」の周辺を巡るように言葉を連ねていくことになるからです。これ、よく聞く『彼女は泣いていた。』と書いちゃダメ、のアレですよね。


 以前は私もその意味で受け取っていたんですよ、とにかくサクッと説明調で書くのがダメで、微に入り細に入り描写していくべきなんだ、と。だけど違ったんです。



 泣いている姿を微に入り細に入り描写していく、とか、確かにモノの本にも書かれていますけども、この章の始めに「読者はどうでもいい文章は読みたくないんだ、」と書きましたの覚えてます?(笑


 これが罠なんですよねぇ。


 泣いてる姿をこと細やかに、瞼に濡れた睫毛がどーたらこーたら、というこのシーンがね、とても重要なものなら別に文句言いやしないんですわ。そうじゃないから文句が出る。さっさと進めろ、とか言われちゃう。なんだったら描写多そうってだけで敬遠されて読まれない、まであるようです。


 ヘタクソな描写だらけの作品よりはまだ、スカスカで説明だらけの作品の方がストレスは掛からないから、というリクツみたいです。


 単に悲しくて泣いてるだけっていう単純な理由だったら、こと細かな描写なんか要らんでしょ、ということです。もっと複雑な感情とか背景とかが醸し出されるケースにおいてのみ、こういう冗長な描写は許されるということですよ。もっと極論しちゃうと、単純な理由で泣いてるだけのシーンなんかわざわざ作中に出すな、と。これです、これ。めちゃくちゃ厳しいっ。ほならな、お前、書いてみぃや! てヤツ。


 だけど残念ながら、この技法はそういうレベルで使わないと意味がない技法です。






 …あー、鈴木先生が時々仰ってる、うんこを磨いてもうんこなんだよ、て、これのことかぁ… と納得した今日この頃。内容がダメなんだから文章を直したってダメ、てことですわな。スジ運びとか、エピソードとか、人物とか、ぜんぶとか。(笑


 ものすごく勿体ぶった書き方と言えてしまうので、そのご大層さに見合った中身を描くのでなければ、技法に内容が負けてしまう、ということかもですね。

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