第48話 技法:「わからせ」と「気付き」(わからせ編)

 自分でイケるトコまで行ってみるのは大事だと私は思います。箸にも棒にもかからない状態で先生の下について習ったところで、おんぶに抱っこの精神が育つだけで独り立ちなんか出来ないと思うんですよね。自分で得た以外の力など通用しない気がします。気付きで得たモノは強いですよ。


 自力で得たものを、ここでは「気付き」と呼んでおきます。これとは違う手法の「わからせ」描写というのが、世間でよく見るもう一つの主流の表現技法だと思います。


 フェミニズムの用語にある「わからせ」というヤツですけど、これを手法化されたものは本当にあちこちで見掛けます。使い方自体はフェミさんたちが言う用法と同じです。「わからせ役」と「わからせられる役」とが登場します。


 だけど別にフェミさんが言うような、女性ばかりに当て嵌められる蔑視の構造とかじゃないです。嘘吐くなというのはソコですね。別段、老若男女、誰でも当て嵌めて使うことが出来ます。


 ロールモデルと言いますか、「わからせ役」と「わからされる役」が登場したら成立する手法なんです、これ。そもそもで、解説とか説明を人々は聞きたがらないので、それをなんとか聞かせる為に編み出された手法です。


 これはメディアに広く浸透していて、便利に使われている表現技法の一つで、要するに「みんな説明を聞くのは大嫌いなので聞きやすくなるよう工夫をしてみたよ」というヤツに名前が付いたんですよ、これ。昭和の頃は聞いたコトないネーミングですから。その点についてだけは、巧いこと付けるなぁ、とか思ったり。


 例として一番代表的なのは「近頃の若いもんは…」です。


 お説教というのは、自分が聞かされるのは嫌なモンですが、聞かせる立場になったらこれでけっこう気持ちのいいものなんです。教える立場、つまり上から目線は心地良いので、これを利用して、「読者に、説教する立場に立ってもらって、説明内容を理解してもらう」という手法になってます。ほんとポピュラーに使われてます。


 でも、書くのは簡単ですが、副作用が強めなのであんまりお薦めしません、コレ。


 近頃の若いもんは…、で言いますと、分からされる役として世間の若者が当て嵌められて、彼らへの批判が繰り広げられるわけですね。槍玉に挙げられる「若者」に対して苦言を言っている存在は大抵明確じゃありませんけど、そこに「大人」を代表とする「世間」があります。大人を代弁者として筆者が言いたい主張を言わせる、と。


 まるでその主張が世間の賛同を得た常識であるかのように見せかけるわけです。まぁ、これは主目的に対して生まれた副産物みたいな効果だと思いますけど。若者が間違った考えをしていて、それを目上が注意する、という構図です。


 もうお馴染みになっててバレてますから、またか、という反発心でもって、この構造自体を「近頃の若いもんは…」と呼んで拒否というか、カウンター批判で切り崩した時に出来たネーミングなんですよね、これ。


「近頃の若いもんは」というこの一文でひとつの名称です。若者を使っての「わからせ技法」に対して「近頃の若いもんは」でペタンとレッテルを貼られちゃって、わからせ技法だとバラされたってことです。


 こういう事例で解るように、この手法、現在ではあんまり好かれてません。


 誰かを見下すことを気持ちよく感じるのは動物的本能の領域ですが、そういう原始的な呪縛ですね、人間のそういう部分を利用してるわけです、これ。裏を返せば誰かを見下すという文明人としては恥ずべき心理を推奨してるようなもんで、よくよく考えたらこれ、賛同したらアカンやつやん、ということに気付いてきた昨今では、ものすごく反発を受ける表現技法なんです。まだまだ蔓延ってますけど。


 一部のフェミさんはこれを、まるで自分たち女性だけが「わからされ役」を負っているかのように偽るんで、そのダブスタな態度を批判されてる姿はよく見ますね。被害者仕草、とか言われてると思います。そういう意味なんすよ、アレ。


 これ、本当にポピュラーで、いわゆる「ザマァ」もこれの類似だと思います。だから嫌いな人は徹底的に嫌いだったりするんじゃないかなぁ、と思います。「見下しの優越感」というのを敏感に感じ取れる読者だったら、眉を潜めるでしょうから。




 でもこの技法、ほんとに書きやすいんだろうと思いますよ。私は「見下しの優越感」というのは読者がそこに同調して楽しむより、その人物を眺めた方が愉しめるに決まってるじゃないか、という方向で見てるので書きませんけど。(悪趣味です)


 ついでにテンプレのザマァを擁護しときますと、初期のザマァというのは多分に見下しを大いに利用したものだったかも知れませんが、テンプレの発展過程というものは大抵、カウンターにカウンターを重ねて進化していくトコロがあるんで、現在のバリエーションは豊富になってるんじゃないかと予測しますね。


 つまり、「見下しの優越感」が鼻についた書き手がいたら、彼の手によってそこをカウンターされた新たな作品が出て、それがまたテンプレ化して類似の作品が繁栄しているはずなんで、全体ではバランス良く色んな系統作品が出揃うカタチになっていると思います。


 しかしながら、見下しがベースになってるわけなんで、敏感な人がザマァを腐してたりするのはそういうニオイが残ってるとかじゃないでしょうかねぇ。知らんけど。

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