「わからせ」技法の罠

第47話 意味のない描写を読ませれば読者は怒るのです。

 何度か書いてますが、読者は説明文とか解説文に近い文章は本当に読んでくれないんですよ。「設定説明をするな」とか「説明じゃなく描写でね」とかって、それがあるから言われてるわけで。


 短編とか掌編とかの短い作品ならまだいいんですが、長編とかはどれだけ余計な文章を削るかが工夫だというくらいですわ。余計というのは、読者が読みたくないだろう文章全般で、「これ、読みたくないだろな、」というのを判断基準に削っています、私は。なんせ読書嫌いですんでね。


 私、チラシの裏でもそこに文字があれば吸い寄せられるパブロフの犬ですけど、それでも読書は基本的に嫌いですよ、ええ。文字を追っかけてった挙げ句が、しょーもないコト書いてあっただけって、ムカつくじゃないですか、時間返せっ、て。(笑


 それは説明文でも解説文でも同じことで、それを描写に直したところでその内容というか、書かれた情報の価値が低いんだったら余計な手間取らせんな、と言いたくなるわけです。サクッと、その価値に見合った書き方で済ませろ、とね。


 なので、価値のない情報をどう描写するかとかは論外なんで、最初からそんなモン描写なんぞせんでいいという話だという意味で、これから書くのは最低限書かなきゃいけない情報だけど、という時の、その程度の違いは区別できますかという話です。これ面倒臭いんですよねー…



 前のページ、第41話に「英国風の庭が造りたいよー、」的な描写の見本を書いて置いてあるんですけど、ぜんぜん具体的なコトを書いてないんですよね、名詞を羅列しただけで。わざとやった、と吐露してますが。コレについてちゃんと言及しとかないとなー、と思ったから追加でこのページ書いてるんですわ。


 だって、具体的にってもどんな植物がどういう配置で植えられてて、小径の砂利がどうのとか、どっち向きに伸びてるとか、そんなん読まされて楽しいです? つまんないですよ、書かなくたって解る。漫画だったらカキワリ背景の1コマですよコレ。


 視覚メディア全盛期の昨今、そういう情報は視覚を使えば一瞬だって解ってるからなおさら読者心理としては読みたくないじゃないですか。だって絵なら一瞬で解るような内容をダラダラと一個一個確認させられて、それが何か重要なのかと言えば別になんも役割なんかない、ただのカキワリ背景でしょ? 苦行ですよ、苦行。


 昔は、といってもほんの数年前ですが。私もご丁寧に一個一個のマテリアルをね、この木の種類はなんだ、この花はどんな色だ、枝振りがどうで、それが庭にどんな風に配置されてて、てなコトをね、いちいち書いてみたりしてましたよ。実験的に。


 そういう試験期間を数年単位で経験したその結論で言ってます、具体的に書けというのはモノによる、ということです。


 これね、漫画のコマ割りをする人なら感覚的に分別が出来ると思うんですよね、サクッと一瞬で終わらせていいモノと、出来れば数コマ分費やして印象付けたいモノとじゃ演出法が違う、という辺りの話なんですが。


 例えば森の中を思い浮かべてもらって。


 その森が、単なるカキワリ背景なら人物の後ろにちょこちょこっと描き足しておけばいいってくらいの扱いなわけです。その舞台が森だよという程度のことを読者に伝えたいだけならね。


 そういう分類の風景を小説で描写する時は、具体的にと言われても別に名詞の羅列で事足りる、ということを言ってるわけですよ。そんな重要な情報じゃないもん。


『鬱蒼とした森の中へと、どんどん歩を進めて行く。』とかで充分。


 ところがですよ、これがね、この森の中で重要なシーンが登場して、そのシーンを印象付けるというような役目がこの森に備わったら、書き方は変わるんですよ。単なる通過点の舞台背景なら「鬱蒼とした森」で事足りるんだけど。


 なんかの木があって、下草がどんな具合で、花が付いてたり付いてなかったり、小径がどうなっててどっち方向に伸びてて、枝振りがどんな具合で、ってのを書いた上でサラリーマンの背中がどんな風にぶら下がってるのかとかを書いたなら、これは演出という役目があるから必要な描写ということになるんですよね。


 ただの通過点の風景じゃなくて、ひとつの重要なシーンを構成するマテリアルに数えられるから、しっかり描写しなくちゃいけない、てコトですけど。


 ここまで露骨に雲泥の差があるような判別ばかりじゃないですからねぇ、どの程度の描写が必要な情報なのかってのは書く時にいちいち計算しないといけないわけですよ、そんなの私はムリなんで最初はザックリ全編うすーく必要不可欠なトコだけ書いて後からペタペタと貼り付けてますけど。


 塑像を作る工程みたいだなー、なんて自分では思ってます。




追記:

 描写の、特にこういう風景を描写するとかの時は、もうね、カキワリ背景ってのを極力無くすって方向にした方がいっそ手っ取り早いですよ。背景に別の意図とか目的をね、足せるだけぜんぶ足しちゃうんですよ、第41話の「英国風の庭が造りたいよ見本」でもやってますが、風景描写と心情とフラグとをね、足せるモンはぜんぶ足してしまえば文字数も節約できるし、濃厚な風味も付くしで、お薦めです。


 読者が読んでてスカスカだと感じる文章っていうのは、十中八九、内容が薄い文章のことです。書かれてある情報が少ないんですよ、まぁ、「一文一意」なんて言葉があって基本としては一文に籠める意味は一つがいい、なんて教わりますが、初心者向けですもん、アレ。


 凄い、と唸るような作品はたいがい、一文が色んな役割を兼ねてますよ。




 それでは続きまして、なんで私が講座とかを受講する前にとりあえずイケるトコまでは自力で藻掻いてみた方がいいよと言ってるのかを説明してみたいと思います。

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