第四章
小説内に構造があるように、一文にも構造はある
第44話 その一文は、すべて把握して書いてますか?
プロットを作る意義というものが、ここに集大成を迎えるわけですが。
正直、このエッセイって「コレ」が言いたいがために書いてましたよ。ホント。
そのキャラの発するセリフも、一挙手一投足も、すべてはそのキャラ「らしさ」によって構成されていますよね。熱血くんなら熱血くんなりの行動メソッドなりアルゴリズムに支配されてのセリフや行動である、と言いたいわけですが。
つまりね、そのキャラを表現する言葉のひとつひとつもまた、これに準拠するということです。形容詞ひとつを取っても、その言葉を選択する時の基準はそのキャラ本人の人格によって決まる、というコトなんです。キャラの性質によっては、使っちゃいけない表現や単語も出てくるってことです。小説は文章だけで表現しますんで、単語ひとつでも気を遣って置いていかないと、てことです。
語尾が「~だ。~だ。」とか、連続してるとウンチャラとかを気遣うのなら、こういうトコロも気遣った方がいいよ、という話。
これが、キャラクターが出来上がっていなければ何も書けない、という意味です。
さらに言うなら、このキャラの人格はこのキャラの生い立ちによって決定されます。言動は性格によって方向性が決まり、そしてその舞台当時の人間関係にも大きく左右されます。価値観も反映されるし、舞台設定も関連して、登場キャラ同士が関わる間にもどんどん変更が為されていきます。刻一刻と変わります。ストーリーが激変するなら尚更のこととして。
これ、現実の人間っていうのがこういう感じなので、これを外れるとリアリティに関わるということなんです。ナマの人間に近付けて書くならナマの人間と同じメカニズムにした方がいいよ、というような話です。
そして、キャラの言動は履歴書埋めるほどの設定が出来上がって、一人の人間として「コイツはこういうヤツ」という辺りがしっかりイメージ出来るようにならないと書けないという話と同時進行で、文章の一文においてもそれは同じと言ってます。
一人称の方が、この縛りは厳しく現れます。
描写を重視する書き方の方がより一層厳しく影響されます。
視覚メディアというのは、実はかなり漠然とした表現です。漫画やアニメはさらに漠然具合が増します。デフォルメですからね、基本。
キャラが上を向いている映像が出るとしましょう、読者は前後の関連で勝手な解釈を付けて理解します。唇をグッと噛んでいれば、悲しみを堪えているのでしょう、という具合です。悲しみの程度をもっと詳細に表現することも可能ですが、読者にお任せする、ということです。小説でもこの手法はポピュラーですが、なぜ好んで使われるのかと言えば「穴が少ない」手法だからです。
細かく言及すればするほど、設定との齟齬が生まれやすくなります。描写を使って事細かに表現する、匂いまで伝わるような書き方になるほどこの危険が高まります。
設定というのはもちろん、そのキャラの来歴です。性格は生育環境に左右され、交友関係に左右され、行動には傾向が出てきます。好む行動、好まない行動、それらはすべて関連と理由が付いて回ります。それはリアル現実の人間も同じなので、反するところあらば違和感として読者は感じ取りやすいです。物語に没頭している状態だと、この違和感がさらに際立って目立ちます。
絵を喩えに出します。棒人間でも何を言わんとしているかは伝わります。この棒人間の解像度を上げていきます。棒人間というのはデフォルメの究極です。それを緩めていきます。
漫画の絵柄というのもピンキリで、実写に近いものから棒人間に近いものまで様々ですが、これを棒人間から実写に置き換えていきます。実写に近付くほど、現物の採寸に近しく、リアリティが求められるようになるのは解りますよね。棒人間にはデッサンもへったくれも無いですが、実写に近い絵柄だとかなり重要です。小説の文体もこれとまったく同じ現象が起きるんです。
デフォルメが成り立つのは、脳みその補完機能のお陰でして、勝手に補完して解釈し、棒人間を人間と認識してくれているわけでして、丸が三つ逆三角に並んでいたら顔に見えるという程度にはこの補完能力は強いです。
小説において描写がまるで無くても成立したりするのは、ひとつにこの補完能力に依存するところが大きい書き方というヤツで、これがメソッドとして成立していまして、技法というカタチで色々なやり口が発明されてたりします。
コールドリーディングと同様の、誘導操作というヤツなので、もちろん高度な技術ですし、その高度さは緻密な計算によって成り立っているわけなので、その緻密な計算を成立させるには元データが正確でなければムリだよ、て話です。
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