第三章 主人公の履歴書を書く=物語前夜

中心人物の履歴書を始めに作る

第30話 「想定読者」の設定 ~致命傷を避けるために~

 ようやく新規の事柄、以前の私には無かった部分の開陳に取りかかりたい……と、思ってたんですけどもね。その前に、これ、すごい罠なんだよなぁ、という部分を書き漏らしてたんで書いておきたいと思います。すんごい罠です、めっちゃ引っ掛かってました、私。


 カテゴリーっていうの、カクヨムで発表するでも公募の賞に応募するでも付いて回るじゃないですか。この作品、どこのカテゴリだろ?て。でもカテゴリってそもそも作中の何を基準に決めてるかって、よく解らなかったりするわけです。


 私はこれ、想定読者で決まると思っています。ターゲットにする層がイコールでカテゴリとかジャンルを示してる。だから想定読者を決める時には「最大公約数」をイメージして決めないと、実際に読んでくれる読者の数が減少してしまう、と。


 なにより、想定読者がとても少数だと選考者に思われてしまえば、どれだけ内容が良かろうが完成度が高かろうが、受賞からは遠ざかると思うんです。以前に何か、「どうやって売ったらいいか迷う作品は困る、」と言った感じのことを誰だったか現役の編集者さんが言ってたのも、これだろうなと思ってて。


 先に書きましたよね、説明文で書いた作品は出版社が取らないって。それは、出版市場の小説は小説文で書かれたモノばかりだからだ、て。市場が出来たら説明文小説も受賞するようになります、と書いたと思うんですよ。市場=読者層、です。ビジネスですもんね。


 エロ最強なのは何でかって言えば、超巨大な市場が存在するからです。単純に。


 ま、男性向けはともかく女性向けはちょっと細分化されすぎてニッチ傾向が出ていて、ビジネス戦略としては失敗だったんじゃないのかな、とかは思いますが。BLとTLとボーイミーツガールとレディコミ系と、ぜんぶ枠で仕切ったのは失敗じゃないのかなぁと個人的には思うんですよね。男性向けはごちゃ混ぜで成功してるんで。


 仕切りを付けたのがなんで失敗だって言うのかというと、カテエラが発生するからです。ミックス作品ってのがカテエラになっちゃうんですよね、例えば「男×男×女」というカップリングで三角関係を描くと、これ、BLに出来なくなっちゃうんですよ、関係性によっては。で、それを「致命傷」と私は呼んでます。漫画はこういう枠が無さげなんで小説もそのうち取っ払われるかもですけど。


 作者はBLに投入するつもりで、そのフォーマットを使って作話するわけですよ。だけど肝心のカップリングはBL読者層に求められるような要素ではない、となったら、この作品の想定読者って誰ですか、すごく少数派じゃないですか?となるじゃないですか。そしたら出版部数のボーダーに届かないから、賞は出せませんよね。



 フォーマットというのを解りやすく説明したいから、別のジャンルに変えますね。


 えーと、ハードボイルド系列のね、新橋のお父さんたちがターゲットだろうって感じのジャンルはけっこう市場がデカいです。「新宿鮫」とか最近話題だと「教場」とかがここのジャンルですけど、ここの文体というのはシンプルかつガッツリな描写と臨場感とリアリティ重視って感じの文章になってます。華美を廃したドスンと重たい描写で、私の大好きな文体です。飄々さまであるとなお良し、ですけど。


 この、シンプルかつガッツリな描写とか、華美を廃したとか、あと臨場感とリアリティとかいうのが「フォーマット」のことです。ここの市場はこういう文体が好まれます、というのが必ずあります。ラノベだと「少女戦記」が割とここに近いフォーマットだったんで、あれはヘビーノベルだとかで騒がれましたよね。


 文章そのものよりも、そのバックボーンに広がる現実的な要素とか実社会との整合性とか、なんかそういうモノが重要なんですけど。教養・知識が滲んでるというか。


 そうそう、「少女戦記」ですが、あれはだけど新橋のお父さんたちはターゲットにならないです。カテエラです。文体やフォーマットは完全にここのモノなんだけど、扱っているマテリアルの一部に完全なカテエラがあって、ここの市場狙いだったら確実に致命傷扱いだったと思います。ラノベだから成功したんじゃないかなぁ。


 要素がね、「ファンタジー世界」「ヒロインが未成年」っての、致命傷です。


 新橋のお父さんたちというのはもちろんイメージでしかないんですが、「教場」とか「白い巨塔」とかね、ああいうジャンルの想定読者として「新橋のお父さん」と言ってるんで悪しからず。お父さんたち、ファンタジー読まないとされてるんですよ。実際は違いますよ、個々人はそりゃ読むお父さん幾らでも居ますけど、想定読者としてのお父さんは読まないとされてるんです、それは最大公約数で売り上げから想定されたイメージです。


 もし、現実世界と違う要素を盛り込みたくて、ファンタジーにしたというなら、都市伝説を使った方がまだマシと思います。新橋のお父さんはファンタジー読みません。「プリンセストヨトミ」とかありましたね、そう言えば。すごく際どいバランスで世界観構築してた記憶あります。


 洋画で言うと、「アベンジャーズ」ダメなんですよ。「バイオハザード」がギリセーフで「ダイハード」がOK、「ボヘミアンラプソディ」がカテゴリど真ん中、という感じがします。



 新橋のお父さんに敢えてファンタジーを投げつけるつもりなら、もうお父さん、ファンタジー設定ってだけで鼻で嗤ってますから、よほど整合性をしっかり付けて一分の隙無く設定を詰めないと受け入れられないと思った方がいいです。なんせ鼻で嗤ってるジャンルですから相当な覚悟必要です。そこにヒロインが未成年なんてもうね…


 端的に言うと、「教場」「ボヘミアン――」と張り合えますか?てコトです。



追記:

 ここで言う「ファンタジー」というのは、「なろう系異世界モノ」とかです。「未成年ヒロイン」も年齢は小中学生から、高校生でも幼い内面の少女を指します。実際のなろう系などは、バリエーション豊かなんでピンと来ないかも知れないですが。そういうヒロインを恋愛対象として描く、というのはカテゴリによってはOKですがという話をしてます。読者層の見極めの話です、読者層の。


 作者さんの中にはこちらの想定のはるかナナメ上を行く方も多いんで、念のためで書いてます。「百合関係ヒロイン二人の間に挟まる主人公男」なんてド直球のカテエラ作品を百合特集にぶっ込んで炎上した事件とかありましたので。伝説の事件…。

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