第27話 描写には「意味」と「意図」が含まれるから設計図がないと以下略

 公募を狙う場合って、ウェブで発表する時と同じに考えるとまず受賞は難しいだろうと思います。何度かここでも書きましたが、描写を使って小説にしないとダメだからです。これが曲者なんですよねぇ……


 カクヨムなどWeb小説の読者は文章がどんなだろうが取りあえず読んでくれるし、内容が面白ければ評価してくれます。小説文でも説明文でも読んでくれるんですけどね。でも公募はまず小説文章になってなければその瞬間に落ちるらしい、と。よほど内容が秀でてれば特例もあるんでしょうが。なら小説文で書けばいいだけ、とは私は言えません。書くの難しいんですよね、小説文。


 説明文で書くなら考えなくていい事柄が、小説文で書くなら沢山出てきます。



 小説文だとまず具体的に書くことが求められます。『彼女は泣いていた』と書いちゃダメってことです。極端な話。泣いていたというのは説明なのでダメなんです。厳密には八割小説文で描写してある作品中に何カ所かだけ説明文があって、それでその一つとかで、説明文の持つある種の効果を狙ってで、「彼女は泣いていた。」と書いてあるのならOKなんですが。


 この文章、「彼女は泣いていた。」が説明だというのは見分けがつくでしょうか。


 どう泣いているのかという具体的な指示が何もないので、もし絵面が浮かべられるよと思った方は、それはご自分が勝手に脳内で補足情報を入れているだけなんです。


 先に服装や髪型や性格などが言及されている中でこれがあるならギリギリセーフかも知れませんが、それでもどんな姿勢でどんな泣き方をしていてという情報はすっぽりと抜け落ちています。漠然としてるんですよね。

 文脈によっては余裕で技巧の一つだと言ってしまえたりはするんですけどもね。だけど最初から最後までこの調子で書かれた作品は、小説ではなくただの説明だということで一次選考すら通らないと言われています。


 だったら小説文で、と言っても適当に定型文を当て嵌めて書いてもダメなんです。


 行き当たりばったりに書いていると、得てしてこの「定型文」というものを使いがちなんですよね。文章表現のテンプレってトコです。容姿を表現するのによく「アーモンド型の瞳に――」とやりますが、あれが定型文です。これ使う時の心理って、とりあえずそれっぽく読めるように、知ってるテンプレ文章貼っとこ、て感じですよね? それは説明文で書かれるよりも評価が低くなっちゃうんですよ。私もそんな感じで適当に書いてたから、読まれなくて当たり前って感じですわ。(笑



 風景描写を入れる時も、適当に思いついた単語や風物を書き込んでたんですが、それって舞台に必要ですかという話なんです。まぁ、私はこれに関してはちょっとユルい考えで、「舞台の景色にまで意味合いを持たせる必要はない派」ですけど。


 でもこれ、何らかのメタファーを読み取りたいらしいんですよね、特に文学志向の読者さんたちは。だから「別にイミはない」とかがやれないみたいです、文学。


 厳密なトコを言えば、そもそも描写は物語内容に存在する景色の中から「わざわざひとつずつを取りだして言及しているマテリアル」を順序まで考えて構成しているわけなので、その個々のマテリアル自体は何かのモニュメントであって然るべきなんですね。つまりそこに意味や意図を読み取ろうとするのは正しい読書姿勢であって、メタファーがあるのは当然ということになるんですけど。


 なので、私が言う派閥は「ちょっとくらい許してくれよー」派です。だってミステリー小説なんかだと、推理の材料やヒントを織り込んだりもするんでそこにメタファーまで考えろとか言われたらさすがに頭が煙吐きますよ。


 まぁ、ザックリと主人公の心理に影響を与えているという程度のメタファーしか加えていませんのですが、それでカンベン願えませんかねぇ。(苦笑


 紙面が埋まらないから風景描写でも入れとくか、と、思いついた定型文を適当に配置したという感じで書いた文章は、当然ながらそこに意図などないわけです。だけど読者は書かれてある事柄はぜんぶ物語に関連すると思って読むのがお約束なので、意図を探るわけです。まさか意図などないとは思わないので。意図はないと言及するのがスジなので。


 これが、実は風景描写だけでなく人物の容姿を描写するでも行動を描写するでも、すべてに同じリクツが掛かってくるんですよねー。小説文で小説を書くって、そういう計算をして書くってことなんですよ。だから視覚媒体のメディアとは異なる論理がそこにあったりするんですけど、これ、ほんと長い間気付けませんでした。


 



 そういうワケで、まず詳細な設計図がないと書き出せない、とされるわけです。

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