35.100年振りの……

 結局あの後、俺たちは1つの大きなベッドで寝ることにした。

 5人も寝れば普通のベッドならギチギチになってしまうが、さすが高級宿屋というか、広々としたベッドは十分な余裕があった。

 食事も朝から豪勢なもので、まさに貴族向けの宿屋だった。


「それで今日はなにをするのかしら?」


 食事を終えたレティアが今日の予定を確認する。


「別にコレと言ってどの依頼を受けるかは決めてないから、その日にあるものから選ぶ感じだな。テオス山の麓にいる魔物の依頼報酬がいいから、そればっかり受けてるけどな。最近は中腹辺りも行ってるぞ」


「テオス山の中腹って、結構強い魔物がいるんじゃなかったかしら」


「はい、ワイバーンなんかもたまにいますね」


「ワイバーン!?」


 レティアが大きな声を出して立ち上がった。

 メルの何気ない言葉によほど驚いたのか、目が大きく見開かれていた。


「気持ちはわかるのですよー。でも、事実なのですよー。それどころか、レッサードラゴンまで倒してたのですよ?」


「は!?」


「レッサードラゴンですか……?」


 アビからの新情報に、今度はシンシアまで驚き、若干訝しんだ表情を浮かべた。

 まぁレッサードラゴンといえば曲がりなりにもドラゴン種になるのだから、たった2人の冒険者とポーター1人で討伐したと言われれば疑うのも無理はない。


 ――本来であれば、フルメンツのBランクパーティーが挑んで倒せるかどうかという話だからな。


「冗談よね? ワイバーンとはレベルが違うわよ?」


「いや、本当だよ。お陰でここに来てからの貢献度が高いから、2人とももうすぐAランクって言われてるぞ」


「……そういえばちゃんと聞いてなかったけど、あなたのスキルって結局どういうものなの?」


 これまでの経緯は昨日説明したけど、スキルの詳細は教えてなかったなと思い、俺はレティアとシンシアに《特殊スキル:大喰らい》と《派生スキル:追い剥ぎ》について説明した。


「なによそれ……そんなのいくらでもスキルを手に入れることができるじゃないの……」


「まあ、そういうことになるのかな? とはいっても、一応条件はあるからなんでもというわけにもいかないけどな」


「それでも規格外のスキルかと思われます」


「そうよ。そんなとんでもないスキルを持った長男を追い出すなんて、グラント家は完全に早まったわね」


「でも、ルイは《剣聖》だろ? 剣の腕で相手になるやつはいないってことだ」


「剣の腕、ではね。私も《特殊スキル:賢者》を授かったけど、こういうのは一長一短よ。むしろ、あなたみたいに幅広くカバーできるほうが強いと思うわ」


 俺のスキルは戦うスキルではなかったので、ルイやレティアと比べてどこか引け目を感じていたが、レティアの言葉に少し救われた気持ちになった。


「……ありがとう、レティア。お世辞でもそういってもらえると気持ちが楽になるよ」


「お世辞なんかじゃないわよ。あなたは自分の力を過小評価し過ぎなのよ」


「レティア様の言う通りです。アルゼ様は誰も寄せ付けない強さを秘めてます。きっとこれからどんどん強くなります!」


「ああ、ありがとう、メル」


 俺がいつもの癖でメルの頭を撫でると、


「……ねぇ、なんでメルの頭は撫でて私には何もないのかしら?」


 と、不機嫌そうにレティアに指摘された。


「え、ああ、すまんすまん」


「ふ、ふんっ、最初からそうすればいいのよっ」


 俺が慌ててレティアの頭を撫でると、そっぽを向いて顔を赤らめるのだった。



 ◆◇◆



「レティア! そっちに行ったぞ!」


「任せて! ――【エアカッター】!」


 ザンッ! という音とともに、ワイバーンの頭がズシンと地面に落ちた。


「お見事です、レティア様! 《賢者》ってすごいですね。色んな魔法を使えるんですから」


 メルがレティアの初めてのワイバーン討伐に、素直に感心する。

 ここ数日、俺たちはテオス山の麓や中腹辺りで魔物討伐の依頼をこなしていた。


「あなたも十分すごいけどね。だって1人で倒しちゃったんだもの。それに……」


 レティアが視線を移すと、


「ほいっ、ほいっ」


 そこにはポイポイとワイバーンを《無限収納インベントリ》に収納するアビの姿があった。


「……ねぇ、シンシア」


「はい、レティア様」


「このパーティー、とんてもないスキル持ちの集まりじゃないかしら……?」


「仰る通りかと。レティア様も《賢者》ですし、私だけ『一般スキル』で不甲斐ないです……」


「シンシアだって『一般スキル』とはいえ《短剣士》なんだろ? 本来の役目はレティアの侍女なんだし、十分じゃないか。家事もできて戦えて、容姿も整ってて……言うことなしじゃないか」


「はぅ……!」


「あなたねぇ……」


 なぜかレティアがジト目で俺を睨んできた。

 なぜだ、劣等感を感じてるシンシアを少し励ましただけじゃないか。


「はぁ……あなたって生粋の女ったらしなのかしら。まあ、いいわ。今日はこれくらいにしない?」


「女ったらしって……。それはそれとして、まあ時間もいい時間だし1度冒険者ギルドに戻ろ――」


『グオオオォォォォオオオオ――――ッッ!!!』


 突然起きた地響きのような叫び声に、俺たちは思わず耳を塞いで身体を硬直させた。


「な、なんだ!?」


「山頂のほうから聞こえてきました!」


「うそ……あれって……」


 山頂のほうを見てみると、


「おい、マジかよ……あれって、エンシェントドラゴンなのか……?」


 レッサードラゴンとは比べ物にはならない大きさのドラゴンが、今にも山頂から飛び立つところだった。

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