33.ハーレム

「それで? あなたたちはどこに泊まってるのかしら?」


「どこって、普通の宿屋だよ。レティアたちは家に帰るんだろ?」


「なにを言ってるの? あ、あなたと一緒にいるに決まってるじゃないのっ」


「えっ」


 てっきりレティアたちは自分の屋敷に戻ると思っていたので、その返答は予想外だった。というか、婚前前の公爵令嬢が家に戻らないのはマズイのではないだろうか。


「『えっ』てなによ! わ、私が1番なんだから、一緒にいるのは当然でしょ?」


「そうはいっても、俺たちの部屋にはもう入れないぞ? まあ、レティアたちが別に部屋を取るなら構わんが……」


「ダメよ。同じ部屋に決まってるじゃないの。シンシア、すぐに部屋を取ってきてちょうだい」


「承知しました、レティア様」


 シンシアは軽く頭を下げて、すぐに店を出て行ってしまった。


「おいおい、公爵令嬢様行きつけの高い部屋とかじゃ困るぞ?」


「あら? 『不死の宵闇』をクリアしたならたくさん稼いだでしょ?」


「確かに資金は得たけど、これはいつか家を購入するために貯めときたいんだよ」


「家?」


「ああ。俺は家のしがらみがなくなったからさ、街外れに家を買ってゆっくり暮らしたいなって思ってるんだよ」


 これは俺の夢みたいなものだ。煩わしいものに縛られず、自由気ままなスローライフを送ってみたいのだ。


「ふーん……その子たちも一緒にってことかしら?」


「はい、私はどこまでもアルゼ様とともにいます!」


「アビも当然一緒に暮らすのですよ?」


 メルとアビがレティアの質問に当然とばかりに返答する。

 メルは元々そのつもりだったけど、アビの先ほどの発言もどうやら本気のようだ。


 ――そのことについて、俺はまだなんにも答えてないんだけどな……。


「そう、じゃあ当然私も一緒に暮らすわ。っていうか、これからは一緒に行動するから」


「え? いやいやいや、そういうわけにはいかんだろ。そんなことしたら、公爵が黙ってないだろ」


「元はと言えばお父様が悪いんだもの。文句なんて言わせないわ。それにお母様も味方だから大丈夫よ。あなたを探すのに冒険者になることも協力してくれたわ」


 ――ほんとかよ……。


 俺には公爵がそれで大人しくしているとは思えないが、レティア的には問題ないと思ってる口振りだった。

 まぁしかし、レティアがこうやって言ってる以上は、きっと俺が何を言っても聞きそうにはないだろう。


「わかったよ。とりあえずはそれでいいけど、後で公爵と1度話をさせてもらうぞ?」


「それでいいわ。ま、なにか言われても素直に従うつもりもないけどね!」


 じゃじゃ馬な娘を持つ公爵を、若干気の毒に俺は思うのだった。



 ◆◇◆



 シンシアが宿を取って戻って来たので、全員で移動することにした。


「おいおい、これはちょっと豪華すぎやしないか?」


 通された部屋は、これまで泊まってた宿の部屋よりも数倍広く、調度品なども貴族向けのものだった。


「すごいです……ほんとにこんな部屋に泊まってもいいんでしょうか?」


「もちろんよ。あなたと私は同じ立場なんだから。遠慮する必要なんてないわ」


「レティア様……私、レティア様のことを勘違いしてました。もっと自分勝手な方かと……申し訳ありませんでした、本当はとってもお優しい方なんですね」


「べ、別にそんなことないわ。でも、1番の座は譲らないからね! ……それと、あなたのことはこれからメルって呼ぶわ。あ、あなたもレティアって呼んでもいいわよ?」


 メルの素直な気持ちを聞かされたレティアは、少し顔を赤らめながらそっぽを向いた。

 レティアのこういうところは可愛らしくて好感が持てる。


「ふふっ、わかりました。でも、さすがにそれは難しいので、お名前はこれまで通りの呼び方にしますね。その代わり、これからはレティア様にも思ったことを言わせていただきます!」


「ええ、いいわ。これからはお互い変な気遣いはなしよ」


 どうやら、2人ともなんだかんだ上手いことやっていけそうだ。


「アビは最初からレティアのことを気遣いするつもりはないですよー」


「……あなたはある意味大物かもしれないわね」


 別にレティアは褒めたわけではないが、アビは褒められたと思い満足そうに腰に手を当てて頷いた。


「まあいいわ。よろしくね、メル、アビ」


「よろしくお願いします、レティア様」


「よろしくですよー」


 3人が改めて仲を深めていると、


「あの、レティア様。私はどうしたらいいでしょうか?」


 シンシアが困った顔を浮かべた。


「あら、あなたは屋敷に戻ればいいじゃないの」


「いえ、そういうわけには……」


「じゃあ、あなたも一緒に暮らせばいいんじゃない? この際、もう1人増えたところで変わらないでしょ」


 この状況に慣れてきたのか、レティアはあっけらかんとした顔だ。

 さっきまであんなに揉めてたんだけどなと思いつつ、


「そういう問題でもないだろ? シンシアにだって選ぶ権利が――」


「よろしいのですか?」


「え?」


 俺がレティアに言い聞かそうとするも、シンシアが満更でもなさそうな顔で確認する。


「あなた気づいてなかったの? この子、昔からあなたに気があったのよ」


「レ、レティア様!」


「ま、私がいるから隠してたみたいだけどね。私にはバレバレよ?」


「はぅ……」


 シンシアが俯いて顔を赤らめる。

 まさか、シンシアがそんな気持ちを俺に抱いていたなんて知らなかった。


「そういうわけだから、いいわよね、アルゼ?」


「え、お、おう」


 なんだか本当にハーレムのようになってきてしまった。

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