第3章 『ダンジョンとポーター』
12.『ニューリア』
俺たちはオール村を
これだけ遅い出発になってしまったのは、当然、寝るのも起きるのも遅くなってしまったからだ。
その原因となったメルは、
「……」
起きてからずっとこんな感じで大人しく、時折目が合うと恥ずかしそうに顔を赤らめ目を逸らされた。
どうやら昨日の夜から朝にかけての
――まぁ、あんな激しい一面があったのは驚きだったけど……それもまたよし。
俺としてはメルの気持ちが伝わってきたし、酒が入ると大胆になるということもわかったので、なんの不満もないのだが。
とはいえ、このまま顔を赤らめるメルを観察するのもいいが、やはりいつものように俺と話してくれる彼女に戻ってほしいので、
「あー、メル。昨日のことなんだがな……」
俺はあえて話を振ることにした。
「ひゃ、ひゃい!」
目があっちこっち行って顔を赤くするメル。
あまりに可愛くて、俺はもっと彼女のことをいじめたくなる衝動を抑え、
「なんていうか……俺はメルのことを大事に思ってるよ。だから、昨日はメルも俺のことを求めてくれて……本当に嬉しいと思ったよ」
嘘偽りない気持ちを素直に伝えた。
「ア、アルゼ様……!」
「だから、これからも一緒にいてほしいし……昨日みたいに乱れたメルももっと見てみたいよ」
「うぅ~……アルゼ様、いじわるです……」
一度は目を輝かせたメルも、再び俯いてしまった。
――しまった。ついいじめたくなってしまった……。
俺はその後、メルのご機嫌が戻るまであの手この手でなだめることになったのだった。
まぁ、上目遣いで『……メルが乱れても嫌いになりませんか?』という言葉を聞けたので、なんとも楽しい時間だったのは言うまでもないだろう。
◆◇◆
「ふぅ、ようやく見えてきたな」
オール村を出発して数時間、ようやく街が見えてきた。
「このまま冒険者ギルドへ行かれますか?」
すっかり元のメルに戻り、笑顔で俺に聞いた。
「そうだなぁ、この街の雰囲気もわかるし、ちょっと行ってみるか。寝るところも探さなきゃいけないから、早めに切り上げよう」
「はい、わかりました」
街に入るには簡単な審査――といっても目的を聞かれるくらいのもんだが、俺たちは無事街に入ることができた。
「『ファストリア』と同じくらい活気もあるな」
「はい。人も建物も多いですし、初めて来ましたが大きな街ですね」
『ファストリア』とは以前俺とメルがいた前の街だ。ちなみに、この街は『ニューリア』という名前だ。
「そうだな。とりあえずこの道が大通りだろうし、冒険者ギルドなら通り沿いにあると思うから少し歩いてみよう」
「はい、アルゼ様」
俺たちはキョロキョロと初めて訪れた街の景観を楽しみつつ、冒険者ギルドを探した。
予想通り冒険者ギルドは大通りに面しており、
「よし……」
「アルゼ様、大丈夫ですか?」
俺は冒険者ギルドの前に立っていた。
「ああ、大丈夫だ。――行こう」
「はい……」
心配そうな顔をするメル。
ファストリアの冒険者ギルドで受けた仕打ちが、思ったより相当脳裏に残っていたようで、俺はそれを払拭するように頭を振った。
――今の俺なら大丈夫。それにここは別の街だ。メルに心配かけないようにしっかりしないとな。
俺はギルドの扉をゆっくり開けた。
「ぅ――」
中は人で溢れかえっており、ファストリア以上に騒々しかった。
それもそのはず、時間的にちょうど冒険者たちが1日の仕事を終えて併設された酒場で酒盛りするので、1日のうちでもっとも込み合う時間だ。
周囲の大きな笑い声に、一瞬この間のことを思い起こさせたが、
「アルゼ様、先に宿に行かれますか?」
メルが俺の手を優しく握りしめてくれたので、なんとか落ち着くことができた。
「いや、大丈夫だ。心配かけてすまないな、メル」
「私のことはお気になさらず……気分が悪かったらすぐに言ってくださいね」
「ああ、ありがとう」
俺は喧噪の中を歩いて受付へ向かう。
「おや、こちらは初めてのご利用ですか?」
受付に行くと、目がキリッとしたいかにも仕事ができそうな見た目の男が対応してくれた。
「ええ、この街に今日着いたので」
「そうでしたか。私はキリルと申します。以後お見知りおきを。それではギルドカードに来訪履歴と拠点としての登録をいたしますので、カードの提示をお願いいたします」
俺はギルドカードをキリルさんに手渡した。
「アルゼ様、ですね。ふむ、Eランク……ですか」
ドクンッと心臓が跳ね上がる。
やはりここでも俺は馬鹿にされてしまうのかと――、
「あ、これは失礼いたしました。アルゼ様の佇まいがどうにもこのランクと剥離しておりまして、勝手にもっと高ランクと思ってしまって……大変失礼いたしました」
そう言って、キリルさんは深く頭を下げて謝罪した。
――いかんいかん。ここに来てからというもの、つい悪い方向に考えてしまう。
俺はキリルさんに「気にしないでください」と言い、
「彼女奴隷なんですけど、ギルドカードって確か作れましたよね?」
「はい、可能です。作られますか?」
「ええ、お願いします」
ギルドカードは身分証代わりにもなるので、メルのギルドカードを作ることにした。
名前や性別など、紙に簡単な情報をメルに書いてもらう。
「書けました。よろしくお願いします」
「はい、確かに。それではアルゼ様のカードの更新と、メル様のカードを作成するので少々お待ちください」
キリルさんはそう言って奥に下がっていった。
「アルゼ様、具合のほう大丈夫ですか?」
「ああ、大丈夫だよ。メルは優しいな」
「アルゼ様のことが大切ですから、えへへ……」
俺が心配そうな顔を浮かべるメルの頭を撫でると、くすぐったそうに笑った。
――いつも俺のことを1番に考えてくれて、本当に優しい子だな。
彼女が幸せでいられるように、しっかりこの街で稼がなきゃなと静かに決意していると、
「お待たせいたしました。こちらがギルドカードになります」
キリルさんが戻ってきて、それぞれギルドカードを受け取った。
ギルドカードを見るメルの表情は、どことなく嬉しそうに口元が綻んでいた。
「あ、キリルさん、ちょっとお聞きしたいんですけど」
「はい、なんでしょうか?」
「この街でおすすめの依頼ってありますか?」
「おすすめといいますと、やはりお金稼ぎに向いてるもの……ということでしょうか?」
「ええ、まあぶっちゃけそうです。EとFなのであまり無理は言えませんけど……」
キリルさんは一つ頷いて、俺たちに教えてくれた。
「この街でお金をもっとも効率的に稼ぐ方法はたった1つです」
「それは?」
「――『ダンジョン』です」
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