13.野良ポーター

「この街にはダンジョンがあるんですか!?」


 キリルさんが俺の反応に少し目を見開いて驚いた。


 ――しまった、興奮しすぎた……。


 ダンジョンとは、ゲームとかでよくある迷宮的なアレである。

 この世界では数が少ないものの存在しており、お金の稼ぎ場として冒険者から重宝されていた。

 ただし危険度が高いため、命を落とす冒険者も日常茶飯事だと聞いたことがある。


「はい。この街にはまだ踏破されたことのない『不死の宵闇』というダンジョンがあります。こちらは下層に潜っていくダンジョンでして、上層でしたら冒険者ランクFであっても、パーティーを組んで参加する方が多くいらっしゃいます」


「へぇ~、それだったら俺たちでもなんとかいけるかな?」


「できれば人数が多いほうが安全かとは思いますが……」


 確かにキリルさんの言う通り、ある程度の人数で役割をしっかり決めたパーティーが理想なんだろうけど、


「……いえ、とりあえずは俺たち2人で潜ってみます」


 今はメルと2人で上手くいってるので、まずはこれで挑戦してみたい。


「アルゼ様、メルが3人分の働きをしますのでご安心ください!」


「はは、ありがとう」


「承知しました。では、老婆心ながらアドバイスをさせて頂きたいのですが、アルゼ様とメル様は攻撃系のスキルでしょうか?」


「まぁ……そうですね。2人とも攻撃系のスキルです」


 俺が少し言いにくそうにすると、


「あ、失礼しました。スキルは貴重な個人情報ですからね」


 と、キリルさんが軽く頭を下げた。


「なぜお聞きしたかと申しますと、ダンジョン攻略には攻撃スキルはもちろん必要なのですが、実はその後も大事なことがあるのです」


「その後?」


「はい。魔物を倒して魔石や素材などを拾うと思うのですが、初めてのみなさんはその収納に困ってしまうのです」


「あ、なるほど。持ち物がすぐにいっぱいになっちゃうってことですね?」


「その通りです。マジックバッグなどがあれば別ですが、高級品なのでほとんどの方が持っておりません。ダンジョンに潜るのにもお金がかかります。せっかくお金稼ぎにダンジョンに潜るというのに、いちいち地上に戻ってくるのでは儲けが減ってしまうのです」


 確かにキリルさんの言うように、初ダンジョンだったので完全に盲点だった。

 といっても、俺もメルも収納系のスキルなんて持ってない。


「そこで! 必要となるのが荷物持ちポーターなのです!」


「はぁ」


 なんだか若干芝居がかってる気がしないでもないけど、言ってることは間違ってない。


「ポーターがいればアルゼ様とメル様は戦闘に集中できますし、ポーターの中には食事の用意や雑用などできる者もいます。ダンジョンでの活動の幅が広がること間違いなしです」


 ――ははあ、なんとなく読めてきたぞ。


「で、そのポーターは――」


「なんと! 今なら当冒険者ギルドから優れた者を、安くご紹介させていただきます!」


 思った通りの提案を、キリルさんに食い気味でされるのだった。

 その姿は第一印象で感じた「できる男」そのものだ。


「うーん、メルはどう思う?」


「確かにギルドの紹介なら安心できますが、その言い方ですと、ギルドに所属しないポーターの方もいそうな気がするんですが……」


「う……」


 メルの鋭い指摘に、キリルさんは痛いところを疲れたといった顔をした。


「ふぅ……仰る通りいわゆると呼ばれるポーターの方々もいらっしゃいます。当ギルドも頑張ってはいますが、手数料を頂く分、野良の方よりは高くなってしまいます」


 キリルさんは諦めたように手を広げ、あっさりとメルの指摘通り認めた。


「――ですが! 先ほどメル様が仰ったように、ギルド紹介だからこその安心感を得られるのです。そういった意味では野良の方では信用も低く、最悪持ち逃げされるなんてことも――」


「――おーおー、クソマジメガネがまた新しい人を騙そうとしてるのですよー」


 熱が入ってきたキリルさんに水を浴びせるような声が、すぐ近くから上がった。

 声のしたほうを見てみると、


「下ですよー?」


 大きなリュックを背負った小さな猫種の獣人の女の子がちょこんといた。

 メルより一回りは小さく、栗毛で少し眠そうな目をしたかわいらしい子供だった。


「こう見えてちゃんと成人してるのですよ?」


「お、そうか、すまんすまん」


 俺の目から何を考えているかわかってしまったようだ。なかなか鋭い観察眼を持ってそうだ。


「アビと言います。よろしくですよー」


「ああ、俺はアルゼ、こっちはメルだ。よろし――」


「――アビさん!」


 俺が挨拶を交わしていると、キリルさんが急に大きな声を出した。


「何が騙そうとですか、まったく! それと、ここで売り込みしないでくださいといつも言ってるでしょう……」


「メガネが野良全体が悪いみたいに騙そうとするからですよー。それに、アビはまだ売り込みしてないのですよ?」


 フフンッとしたり顔をするアビという少女。

 2人の話からすると、この子は野良のポーターのようだ。


「どうせこれからするに決まってるでしょう。あと、私の名前はキリルですと何度も言ってるでしょう。人の名前を器具で呼ぶのは失礼ですよ」


「野良呼ばわりするくせに偉そうなのですよー。ところでお兄さん、ポーターをお探しなのです?」


「言ったそばからあなたは――! はぁ……せめて外でやってくれませんか。さすがにここで営業されると、見逃すわけにはいかないんですよ」


「お、メガネが諦めたのですよー。お兄さん、外行くのですよー」


「あ、おい!」


 アビは俺の腕を掴んで、引きずるように無理やり連れて行く。

 外に連れ出される際に見えた、キリルさんの酷く疲れた顔が印象的だった。

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