10.《派生スキル:追い剥ぎ》

 ――びっくりした……。


 俺は突然のシステムメッセージに驚きつつ、その内容を反芻する。


『《派生スキル:追い剥ぎ》を使用しますか? 使用する場合は対象に触れてください』


 ――昨日新しく手に入ったスキルを、ここで使用することができるということか。でも、対象ってなんだ?


 俺は一刻の猶予もない中、頭をフル回転させて考える。

 《追い剥ぎ》っていうくらいだから、何かを奪えるのだろう。《大喰らい》から派生したことを考えても、その『何か』ってのは『スキル』の可能性が高いと思える。


 ――ってことは、この場合の対象ってなると……。


 俺は足元に転がってる死体に目を向ける。

 完全に絶命しており、もう2度と山賊稼業はできそうもない。


 ――もしかしたらこいつのスキルを……。


 俺はその場にしゃがんで男に触れ、


「……《追い剥ぎ》」


 ぼそりと誰にも聞こえない声で呟いた。


『《派生スキル:追い剥ぎ》が発動し、スキル《風魔法》を獲得しました。レベルがアップしました』


 俺は心の中でガッツポーズをした。

 この《派生スキル:追い剥ぎ》は、予想通り相手からスキルを奪うことができるスキルのようだ。さらに経験値まで得られ、レベルまで上がってしまった。


「――おいっ、お前! 何をしてる!?」


 山賊の頭が俺のほうを見て怒鳴った。


「いや、別に? それより、そんなことしてないでさっさと逃げたほうがいいんじゃないか? この状況は、お前たちにとっても想定外だろ?」


「ナメんじゃねぇ! お前をぶっ殺して女を売り飛ばせば解決なんだよ! あいつらは気のいい奴らだったが、新しい仲間だってすぐ見つかるってなもんだぜ」


「そんな上手くいくもんかねぇ……」


「フンッ、そんなことお前に心配される必要もないぜ。おい、このガキの喉に穴をあけたくなかったら、お前らのその手に持ってる剣をこっちに投げやがれ」


 勝利を確信してるのか、ニヤニヤとした様子で命令した。


 男の子が俺たちと関係ないとはいえ、さすがに子供を盾にされたら従わざるをえない。

 俺はメルを見てこくりと頷き、


「ほらよ、これでいいか?」


 剣を山賊の足元に放り投げた。

 メルも特に反抗することなく、同じように剣を投げた。


「へっ、散々てこずらせやがってよぉ……お前らも剣術系のスキル持ちなんだろ? 実は俺も《剣士》スキルを持ってるんだよ。俺はなぁ、これまでこのスキルでたくさんの奴らを切り刻んできたんだよ。これを使って、今から女の前で切り刻んでやるよ」


 山賊は下卑た笑みを浮かべて剣を担いだ。


「そんないいスキルを持ってるのに、そんなことに使うだなんて……どうしようもない人間だな」


 俺は心底呆れた表情で山賊を見た。


「なんだと……?」


「聞こえなかったか? お前はどうしようもなくクズで最低な野郎ってことだよ!」


「この野郎……! へっ、まぁ威勢がいいのも今のうちだけだ。どうせお前も、すぐに泣いて許しを請うことになるぜ」


 山賊たちは俺を馬鹿にするように大声で笑った。


 ――チャンスだ!


 俺たちが武器を捨ててるため山賊たちは完全に油断しきっており、人質の男の子から短剣も離れていた。

 今ならいけると俺は確信し、メルに目配せをする。

 目が合い、何かを感じ取った様子のメル。今から俺が何をするかはわからないだろうけど、彼女ならきっとその後に続いてくれるはずだ。


「ふぅ……」


 俺は小さく覚悟の息を吐き、


「――【エアカッター】!」


 先ほど手に入れた《風魔法》スキルの1つ――【エアカッター】で男の子の近くにいる山賊を狙った。

【エアカッター】は狙い通りに山賊の首に吸い込まれ、


 ――ザシュッ!


 音を立てると同時にぼとりと頭が落ちた。


「――は?」


 山賊たちは理解が追いついてない様子で、笑った表情のまま固まっていた。

 メルはいち早く状況を理解し、


「はああぁぁぁっ!!」


 山賊の頭を蹴りで吹っ飛ばし、


「――はっ!」


「ぎゃああああ――ッ!?」


 拾った剣でもう1人の山賊を斬りつけた。


「んが―ッ! くそ……っ! どうなってやがる!?」


 まだ完全に理解はしていないようだが、危険な状態であることはわかってるようで、剣を構えて臨戦態勢をとっていた。

 俺は頭の中に思い浮かぶ《風魔法》を選ぶことにした。

 どうやら《風魔法》ではいくつかの魔法を使えるみたいで、《追い剥ぎ》でスキルを奪ったときからその記憶も奪うことができたようだ。


 ――よし……!


「メル!」


 俺はメルに呼びかけ、


「【エアカッター】!」


 山賊に向かって【エアカッター】を放った。


「馬鹿がッ、《剣士》持ちの俺がそんな見え見えの攻撃を食らうわけがないだろうが!」


 俺はたまたま防いだ形になったが、山賊は流れるような動作で【エアカッター】をきっちりと防いだ。

 どうやら、これが《剣士》スキル持ちとの差のようだ。


「それで――次はお前か!!」


 俺の【エアカッター】と同時に走り出したメルに、山賊はしっかり把握していたようで、メルを見てニヤリと笑った。

 だけど――、


「――【ウインドアタック】!!」


「あが――っ!?」


 俺は【ウインドアタック】を山賊に当てて態勢を崩し、


「終わりです――」


 最後はメルの一閃でとどめを刺した。


「ふぅ……終わった」


 俺は山賊がもういないことを確認して安堵のため息を漏らし、


「まったく、どうしてこうなった……」


 目の前に広がる惨状に、大きく肩を落としたのだった。

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