9.『使用しますか?』
「ミケ、説明してくれるんだろうな?」
俺は俯いて目を合わせないミケに問いかけた。
「ご、ごめんニャ……」
「おいおい、あんまりそいつを責めないでやってくれよ。そいつは人質を取られてたから、しかたなく従ってただけさ」
「人質……?」
ミケを見てみると、俯いたままガクガク震えてた。
「まぁ、お前たちにはどうでもいいことさ。どうせすぐに殺しちまうんだからよ」
「あ、女の方はダメですよ、頭領!」
「わかってるに決まってんだろ! 『男は殺す、女は犯す』――これが俺たちのモットーだからな。ガッハッハッ!」
――紛れもない、クズのモットーだ。
俺は山賊たちの馬鹿笑いを無視し、周りを見渡して状況を確認する。
見えてる範囲で7人……隠れてるやつもいると思ってたほうがいいだろうな。
――ゴブリンと人間じゃあまりにも違いすぎる。さすがにこれは分が悪いか?
スキルもどんなものを持ってるかわからない。
俺のスキルが増えたとはいえ全員を一瞬で倒せるわけないし、メルだって――。
「……メル?」
――なんだかメルの様子が、
「……アルゼ様、この悪党どもを殲滅してもよろしいですか?」
めちゃくちゃキレてた。
「お、落ち着け、メル。いくらなんでもこの数相手は無理だろ。それよりも、なんとか逃げる方法を考えたほうがいい」
「いえ、アルゼ様。この程度の輩でしたら、スキルを使えば倒せると思います。もし難しかったとしても、ある程度敵を減らしたほうが逃げやすいと思います」
「まあ、それは確かに……」
メルの《
プラスアルファで俺も戦えばいけるかもしれないが――、
「おい、何をコソコソしてやがる。女を差し出して命乞いでもしようとしてんのかぁ?」
「悪りぃけどそれはできない相談だな。大人しく殺されてくれや!」
どうやら考えてる時間もなさそうだ。
俺は覚悟を決め、
「お前らみたいなクズどもに大人しく殺されるわけないだろ。それにな、メルは俺の1番大切な人なんだよ。――差し出すわけないだろうが!」
「アルゼ様……!」
剣を抜いて構えた。
「チッ、ガキが……やる気になってんじゃねぇぞ! お前ら剣を抜け! 女は殺すなよ!!」
「「おう!!」」
山賊たちも剣を抜き、俺たちはお互い睨み合って牽制する。
「アルゼ様」
「ああ、やってくれ」
「はい! ――《
スキルを開放したことによって、メルの周囲にブワッと衝撃波が伝わる。
「――いきます」
「な、なんだあの女――あがっ!?」
「き、鬼人族だ、気をつけぎゃ――ッ!」
「は、速すぎ……ゴフッ」
次々と山賊たちを倒していくメル。
正直、ここまでとは思ってなかった。自信はあったみたいだけど、ここまで圧倒する力を秘めていたとは……恐るべし鬼人族。
「はあぁぁ――ッ! 《突進》!」
「――ぐぇっ!?」
俺は俺で山賊たちがパニックに陥ってるチャンスを逃すことなく、できる範囲で排除していった。
――残り3人……いける!
メルの強さに、山賊たちはまったく太刀打ちできていない。
俺は3人のうちの1人に狙いを定めて距離を詰めようとすると、
「【エアカッター】!!」
「――ぐっ!」
咄嗟に構えた剣がキィンッと甲高い音を立てて攻撃を防いだ。
やはり戦闘向けのスキルを持ってるみたいだ。
「《威圧》!」
「うっ……」
俺は《威圧》で相手の動きを止め、
「――ハッ!」
「ぐあああぁぁ――ッ」
袈裟斬りに倒した。
「ふぅ……危なかった。今回は運が良かったけど、やっぱりしっかりした剣技のスキルが欲しいな」
俺は幼少期より剣術を学んでいた。その当時は弟のルイよりも圧倒的に強かったくらいだ。
でも、ルイが《剣聖》を授かったことで、その立場は逆転した。
――やっぱりスキルに勝るものはないってことか……。
だけど、とりあえずは今あるスキルでなんとかやるしかない。
「――クソが、鬼人族だろうと関係ねぇ! 俺の《剛力》で頭を砕いてやるッ!!」
男はなりふり構わずデカい戦斧を振り回してメルに当てようとするが、
「ハァッ!」
メルはそのすべてを躱して男の首を刎ねた。
「すげぇ……」
この場で1人だけ異次元の強さのメルは、そのままの勢いで最後の1人である山賊の頭に襲いかかろうとし、立ち止まった。
「……てめぇら、このガキ殺されてもいいのか!!」
いつの間にか仲間の山賊が2人増えており、連れてきたであろう男の子の喉元に短剣を当てていた。
思った通り、やっぱり隠れてるやつがいたようだ。
「――シロっ!!」
それまで、俺たちが戦ってるのを顔を青くして見ているだけだったミケ。
だけど、その男の子を見た瞬間に悲痛な顔で名前を叫んだ。
「人質って……あの男の子のことか!」
まだ詳しくはわからないが、どうやら彼女はあの男の子を守るために俺たちを騙したということか。
事情次第では許してもいいが、
「まずは、この状況をどうするかだな……」
人質を取られた状態ではメルの力も発揮は難しい。
どうしたものかと考えていると――、
『《派生スキル:追い剥ぎ》を使用しますか? 使用する場合は対象に触れてください』
聞き慣れたシステムメッセージが頭の中に流れたのだった。
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