8.ゴブリン退治
「ん……」
朝、窓から降り注ぐ太陽の光で目が覚めた俺は、昨夜のことを思い出す。
「これが朝チュンってやつか……」
「朝チュンですか?」
「うぉっ、起きてたのか。おはよう」
横を見るとメルがこちらを見ており、
「おはようございます、アルゼ様」
と、微笑みかけてくれた。
その笑顔を見ると、あの暗闇の中にいた少女とはまったく違い、俺の選択は間違ってなかったと思えた。
俺が頭を撫でるとくすぐったそうにするメル。
「ところで――」
「ん?」
「朝チュンってなんですか?」
その後、俺はしどろもどろになりつつ彼女に説明するのだった。
◆◇◆
「ゴブリン退治ですか?」
俺たちが朝食をとっていると、宿の女将が相談を持ちかけてきた。
「ええ、近くにゴブリンが住み着きましてね……村にも被害が出てるんです。いつもなら村長から近くの街の冒険者ギルドに依頼を出してもらうんですけど、お客様が冒険者ってお聞きしたもんですからどうかなと……」
「なるほど。数はどれくらいいるかとかわかります?」
「10はいそうです。あの、難しそうですかね?」
「いえ、それくらいならなんとか俺たち2人だけでも――」
「――冒険者はいるニャ!?」
突然、入口の扉が開いて獣人の女の子が入ってきて大きな声を出した。
女の子は俺たちを見つけると、
「ニャニャ!? お前たちが冒険者ニャ!?」
素早い動きで俺たちの前まで移動し、じろじろと無遠慮な目を向けてきた。
「え、そうだけど……君は?」
「やったニャ! ミケはミケニャ!」
そう言って、ミケは嬉しそうに顔を輝かせた。
確かに三毛猫と同じ柄だけど、そんな単純な理由で名前つけられたのだろうか。
「そうか。よろしく、ミケ。ところで何の用だったんだ?」
俺がミケに尋ねるとよく聞いてくれましたとばかりに、
「ゴブリンを討伐してほしいニャ! ミケが案内するニャ!」
と、女将から聞いた内容と同じだった。
「ああ、それならさっき聞いたよ。まぁ冒険者だし、ゴブリン程度ならなんとかなりそうだからいいけど、報酬を聞いてもいいか?」
「報酬ニャ? 欲しいニャ?」
「いやそりゃ欲しいだろ……」
なんだかミケと話してると、まるで子供と話してるようで上手く話が通じない。
俺は助けを求めるように女将さんを見た。
「すみませんね、この子も悪気があるわけしゃなくて、その、あまり物を知らないといいますか……。報酬に関してはきちんとお支払いします。村から出ますので、ゴブリン1匹につき金貨1枚お出しするように言われてます」
「金貨1枚!? そんな破格な話聞いたことないんだが……」
通常ゴブリン退治程度で1匹につき金貨1枚なんてありえず、いいとこその半分くらいだ。
しかも、言っちゃ悪いがこんな田舎の村でそんな破格の条件……なんだかおかしい気がする。
「こんな村にあまり冒険者の方も来ないですし、なんとかお願いできないでしょうか?」
「うーん……」
――なんか色々とおかしい気もするけど……。
「まあ、困ってるのに放って置くわけにもいかないな。メル、受けようと思うんだがいいか?」
「はい。アルゼ様が決めたのでしたら、メルはどこまでもお供します。ゴブリン程度なら、私1人で退治しちゃいます!」
フンスと可愛らしくやる気になってるメルの頭を撫で、
「ゴブリン退治、引き受けます」
「ありがとうございます! よかった……本当に……!」
女将が心から安堵したような表情を浮かべた。
――そんなに困ってたのか?
俺は少し疑問に思いながらも、
「それじゃあさっそく案内してくれるか?」
ミケに案内をお願いした。
◆◇◆
オール村から森に入って山を登り数十分、今のところ魔獣にすら出会ってはいなかった。
ゴブリンの習性として、村の近くに住処を作ることが多いので、そろそろかと思いミケに尋ねる。
「なぁ、ゴブリンどこにいるんだ? あまり村から離れたところにはいないと思うんだが」
「も、もうちょっとニャ!」
「もうちょっとって……」
なんだかミケの顔が緊張してるように見える。
さすがの俺も、これにはなにか裏があるような気がしてきた。
「おい、ミケ。いったん村に――」
「着いたニャ!」
ミケが前方を指差しながら声を上げた。
「着いたって……」
そこは何もない、ただの開けた場所だった。
ゴブリンどころか魔物もおらずそこにいたのは、
「アルゼ様、罠のようです――!」
「おう、よくやったな」
「へへ、ようやくカモが引っかかったぜ」
「おいっ、女もいるじゃねえか! 我慢したかいがあったってなもんだ。今夜は楽しい宴になりそうだぜ」
見るからに山賊といった格好の男たちだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます