7.初めての……

 俺はさっそくステータスを見て、スキルを確認する。


【名前】アルゼ

【レベル】10

【一般スキル】《突進》、《威圧》、《爪撃》、《頑丈》

【特殊スキル】《大喰らい》、《聖なる癒しホーリーヒール

【派生スキル】《追い剥ぎ》


「お、確かに新しく『派生スキル』ってのが増えてるな。……って、《追い剥ぎ》って酷い名前だな。これじゃまるで山賊みたいだ。なあ、メル、《追い剥ぎ》って『派生スキル』知って――ん? どうかしたか?」


「いえ……なんでもありません」


 メルが頬をぷくっと膨らませて、不満そうな顔をしていた。

 なにか怒らせることしたかと考えていると、


「えっと、《追い剥ぎ》というスキルは聞いたことありませんね。アルゼ様の仰るように、確かに言葉的には山賊が使ってそうな雰囲気はありますけど……アルゼ様に限って、きっとそんなことはありません!」


「はは、ありがとう。新しいスキルは嬉しいけど、どうやって使うかわからないのが難点なんだよなぁ」


「そればっかりは確かに困ってしまいますね。『派生スキル』というのも聞いたことはないですね。言葉的にはアルゼ様の《特殊スキル:大喰らい》から『新たなスキルが生まれた』ってことでしょうか。……やっぱりアルゼ様はすごいです!!」


 キラキラと空色の瞳を輝かせるメル。

 使い方はわからないけど、《大喰らい》も相当チートなスキルだったし、《追い剥ぎ》も期待できるかもしれない。


「はは、俺がってより《大喰らい》がすごいだけだけどな。よし、腹も膨れたし暗くなる前にそろそろ出発しようか!」


「はい!」


 俺たちは食事の後始末をし、再び歩き出した。



 ◆◇◆



「ようこそ、『オール村』へ! 旅人は歓迎するよ」


 俺たちは新しい街に向かう途中に通りがかった村で1泊することにした。


 ――ん、なんだ?


 村の入口には門番が立っていたが、その表情がどこか強張っていたように俺には見えた。

 ただそれは一瞬のことで、


 ――気のせいか?


 俺は気を取り直して、宿屋について門番に尋ねることにした。


「こんにちは。この村には宿屋ってあります?」


「ああ、あるよ。1軒しかないからすぐわかると思うけど、そこを真っ直ぐ行って右手にあるぞ」


「ありがとうございます」


 門番に礼を言い、俺たちは教えられた宿屋へ向かった。

 村の宿屋にしては綺麗な外観で、中に入ると女将が出迎えてくれた。


「こんにちは。1泊したいんですけど、部屋は空いてます?」


「ええ、空いてますよ。1部屋でいいです?」


 女将はちらりとメルを見てそう提案してきたが、


「部屋、どうする? お、俺は別々でも……」


 のない俺は、日和ってメルに答えを託してしまった。


「もちろん、同じ部屋でお願いします! 奴隷が1人で部屋を使うなんてありえないです。あ、それか私だけ馬小屋とか倉庫とかでも構いませんが……」


「おや、奴隷でしたか。一応、奴隷用の部屋があってそっちのほうが安いですけど……」


「いや、それはダメだ。彼女も同じ部屋でいいので、1部屋でお願いします」


「わかりました。それでは朝食付きで1万スレイになります。部屋は2階の奥の部屋へどうぞ」


 俺は金貨を1枚支払って、部屋に向かった。

 メルを購入した代金は15万スレイだったので、まだ手持ちに余裕はあるけど、今後のことを考えるとしっかりと稼がないといけない。


「あ――」


 部屋に入ると、ベッドは1つだけだった。


 ――しまった、女将にされてしまった。


 多分、女将はもあるだろうからこの部屋にしたんだろうけど、俺としては気まずくなってしまうだけだった。


「アルゼ様? どうかされましたか?」


「あ、いや、ベッドが1つだけだなと……」


「あ、そうですね。私は床で寝るので気になさらないでください」


「えっ、いやさすがにそれは……メルが、い、嫌じゃなければ――一緒に寝るか?」


 俺は心臓が張り裂けそうになりながらメルに聞いた。


「嫌だなんてとんでもないです! えと、アルゼ様がよろしいのでしたら是非一緒に……!」


「そ、そうか。よかった……」


 俺は達成感と安堵で倒れそうになりながらも、


「そ、それじゃ桶をもらって、身体でも拭こうか。もし嫌だったら部屋を出とくけど……」


 新たなミッションにまた心臓の鼓動が早くなる。


「アルゼ様、私に気を使わないでください。メルのすべてはアルゼ様のものです。お見苦しいかもしれませんが、アルゼ様が嫌でないのなら一緒にいさせてください」


「あ、ああ、わかった。一緒にいてくれ」


 俺は女将に湯桶をもらい、


「……」


「……」


 ベッドの両脇に腰掛け、お互い背中を向けた状態で身体を拭いた。

 最初はメルが俺の身体を拭くと言ってたけど、俺は固辞した。


 ――さすがにいきなり全裸を見せる勇気は俺にはないからな。


 室内には、俺とメルが身体を拭く音だけが響く。

 お互い無言で拭き終えると、


「そ、そろそろ寝ようか」


「は、はい……」


 俺たちはベッドに入った。


 ――これって、もうそういうことだよな? メルも望んでるってことで、い、いいんだよな? いやでも……。


 俺が緊張したまま頭を悩ませていると、


「アルゼ様……あの……初めてなので、優しくしてくれると嬉しいです……」


 メルが勇気を振り絞ってくれた。


「あ、でも、アルゼ様が強引なほうがよければメルは別に――きゃっ!」


 俺の理性はもうとっくに限界だった。

 メルに覆いかぶさり、


「ごめん、メル。優しくしたいけど……俺も初めてだから――!?」


 キスをされた。

 メルの手が俺の頬に触れている。少し震えているのがわかる。


「――アルゼ様、愛してます。メルのすべてを受け取ってください」


「メル……」


 俺はメルの言葉に覚悟を決め、強く抱き締めてもう1度キスをするのだった。

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