第2章 『村と夜』

6.『派生スキル』

「まったく、どうしてこうなった……」


 俺は目の前に広がる惨状を眺めながらポツリと呟いた。


「アルゼ様、お怪我はありませんか?」


 メルがトコトコと駆け寄ってきて、俺に傷がついてないか隅々まで確認した。

 なんだかやけに過保護になった気がする。


「ああ、大丈夫だよ。メルこそ怪我とかしてないか?」


「はい、大丈夫です。ところで……彼女、どうしますか? アルゼ様が手を下しにくいのでしたら私が――」


「――ひっ!」


「ストップストップ。まずはどうしてこうなったか、理由を聞こうか」


 俺は倒れている山賊どもを見ながら、この村に来たことを思い返していた。



 ◆◇◆



「メル、1匹まかせてもいいか?」


「はい、おまかせください!」


 俺たちはカウボアという2匹の魔獣と睨み合っていた。

 この魔獣は牛と猪を掛け合わせたような見た目をしていて、まるで闘牛のように突っ込んでくるのが特徴的だ。

 まともに食らえば致命傷になりかねないので、上手く躱しながら倒さなければいけない。


「――《一鬼当千いっきとうせん》」


 メルが《特殊スキル:一鬼当千いっきとうせん》を使用した。


「――っ」


 その瞬間ブワッと俺にまで圧がかかり、カウボアも怯んでるようだ。

 普段は隠れている控えめな角が、メルの頭にニョキッと2つ現れた。

 彼女の《特殊スキル:一鬼当千いっきとうせん》は、身体能力を上昇させる能力のようだ。

 メルは一瞬でカウボアとの間を詰め、


「――はああああッ!」


 剣を一閃。


「うおっ……」


 カウボアは真っ二つになってた。


「すっご……とんでもないスキルだな、ありゃ。俺も俺のできることをやるぞ――!」


 もう1匹のカウボアは、真っ二つになった仲間を見て少し後ずさりしている。


 ――チャンス!


 俺は《突進》で距離を一気に詰め、


「――はあっ!」


 喉元に剣を一突きし、


「《爪撃》!」


 ザシュッと音を立てて、カウボアの息の根を止めた。

 メルのように一撃で真っ二つなんて芸当はできないけど、今までの俺と比べれば上出来だ。


「お見事です、アルゼ様!」


「メルこそ、とんでもないスキルだな。俺なんてまだまだだし、もっとこいつら強くならなきゃなぁ」


「え……食って、ですか? あの、アルゼ様は魔獣を食べるんですか?」


「あ」


 そういえば、まだメルに説明してなかったことを俺は思い出した。


「あー、実は俺のスキルってのが特殊でな……ちょっと長くなりそうだし、食事をとりながら話すよ。俺は魔獣で作るから、メルは自分の分の普通の食事を用意してくれるか?」


「あ、はい、承知しました!」


 俺たちはそれぞれ食事の支度を始めた。

 料理とはいっても、俺は肉を焼くだけだし、メルにいたっては硬いパンと干し肉をかじるだけだ。


「メル、先に食べてていいぞ」


「いえ、さすがにそれは……捌いたり焼いたりするのは出来ますから、アルゼ様は座って待っててください」


「いやコイツデカいし、一緒にやろう」


「はい!」


 まあ、一応俺は主人になるわけだし、さすがに遠慮されるか。

 それにしても、《特殊スキル:聖なる癒しホーリーヒール》で回復してから、奴隷商にいたときと明るさとか雰囲気が見違えるように変わった。


「――わわっ! アルゼ様、血が噴き出してきました!」


「おー、気をつけろよー」


「は、はい!」


 俺は、解体に悪戦苦闘するメルを微笑ましく眺めた。



 ◆◇◆



「そ、そんなひどいことが……」


 俺は《特殊スキル:大喰らい》を説明するのに、これまでの生い立ちから追放までを話すことにした。


「まあ、確かに俺はパーティーで役に立ってなかったからな。ま、でも、そのおかげでスキルを使いこなせるようになったし、こうしてメルに出会えたんだから悪いことばかりじゃなかったよ」


「アルゼ様……」


 実際、追放されてなかったら今の俺はなかっただろうし、きっともっとひどい目にあってたに違いない。

 そう考えれば、追放されてよかったのかもしれない。


「アルゼ様は悪くありません。『特殊スキル』というものは、発動条件が明確でないので、ものによっては一生発動せずに終えることもあると聞いたことがあります。ですから、スキルの力を使えなくてもしょうがないことなんです」


「そうなのか、それは初耳だ。そう考えれば俺はまだ運のいいほうかもしれないなぁ」


「そ、それにですね……」


「ん?」


 メルがもじもじしながら、


「わ、私もアルゼ様と出会えて本当に良かったです。もちろん、身体を治して呪いを解いてくださったこともありますけど……アルゼ様のような方が、私が生涯お仕えするご主人様であることが誇らしく――とっても嬉しいです!」


 顔を少し赤らめる彼女に、俺まで顔が熱くなる。


「お、おう、そうか。それはよかった、うん。いやー、を失って結構ショックだったんだけど――」


「――婚約者、ですか?」


 先ほどまで笑顔だったメルの顔がぴしりと固まった。


「え? うん、そうそう。レティアっていって小さい頃からの幼馴染でさ、よくお互いの領を行き来してたんだよな」


「……そう、ですか。でも、もうその方には振られてしまったんですよね?」


「え、振られて……なのかな?」


「はい、そうです。間違いありません。もしアルゼ様と婚約破棄したくなければ、認めないはずです。きっとそのお方も了承済みです」


「うっ……そう言われるとなんだかそんな気がしてきた……。はぁ、ヘコむなぁ……」


「安心してください、アルゼ様」


 メルが俺の膝にそっと手を乗せ、


「アルゼ様のお側にはいつでも、いつまでも、このメルがいます! 何も心配いりません。メルにおまかせください」


 なんだかメルが艶めかしく見える。

 俺はごくりと喉を鳴らして手をメルに伸ばし――、


『《特殊スキル:大喰らい》が発動し、スキル《頑丈》を獲得しました。《特殊スキル:大喰らい》から《派生スキル:追い剥ぎ》を獲得しました。レベルがアップしました』


「――うおっ!?」


 突然のシステムメッセージにすんでのところで手を止めた。


「アルゼ様?」


「なんか新しいスキルを獲得したみたいだ。しかも『派生スキル』っていう聞いたことのないやつだ」


―――――――――――――――――――――――

【あとがき】

お読みいただきありがとうございます。

本日も複数話投稿します。


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