幕間 愛が1番
アルゼが追放されたグラント家では、年に数回リリー公爵家を歓待していた。
今年もその時期が来ており、アルゼがメルを苦痛から解放した頃、グラント家では食事会が催されようとしていた。
「お父様、私もようやく成人となる儀式を済ませ、《特殊スキル:賢者》を授かりました。そろそろアルゼと……け、けけ、結婚の時期かと……」
グラント家に向かう場所の中、レティアは父ジェントに自らの婚姻について話を進めようとした。
「あらあら、レティアったら。よっぽどアルゼくんと結婚するのを楽しみにしていたのね」
「お、お母様! そんなことないです! ただ、婚約してるからには、成人したら一緒になったほうがいいのかなーと……」
母レイシアの言葉に、レティアは顔を真っ赤にさせて俯いた。
「でも、そうね。そろそろそういうことも進めなきゃいけませんね、あなた」
「う、うん? うーむ……いやしかしだな、レティアもまだ成人したばかりだし、もう少し様子を見てみてもだな――」
「あら? あなた少し前までは早いほうがいいと言ってたじゃないですか」
「そ、そうです! アルゼはもう成人していますし、遅くなればなるほど変な虫が――あ、いえ、とにかく早いほうがいい気がします!」
「あー、そのことについてだがな……実は――」
「到着いたしました!」
ジェントが口を開こうとしたタイミングでちょうど着いてしまい、
「ようやく着きました! お母様、さぁ早く行きましょう!」
「あらあら、この子ったら。そんなに急いだら危ないわよ」
2人は馬車から降りてしまった。
「はぁ、どうしたもんか……」
ジェントがグラント子爵から打診があったのは数ヶ月前のこと。
長男アルゼの《特殊スキル:大喰らい》は未だ発動せず、代わりに弟ルイが《特殊スキル:剣聖》を授かったため、レティアの結婚相手を変更したいというものであった。
お互いの家を思えばと思い、受け入れる方向で検討していたが、
「レティアのあの様子……とても、説得できるとは思えないな……」
ジェントは完全に判断を誤ったと後悔していた。
「お父様、早く早くー!」
外からレティアの呼ぶ声が聞こえる。
「……ああ、今行くよ」
ジェントは重い腰を上げ、憂鬱な足取りで馬車を降りるのだった。
◆◇◆
「……どういうことですか、お父様」
レティアの鋭い目がジェントに向けられる。
いまだかつて娘にこんな鋭い目を向けられたことのなかったジェントは、冷や汗を掻きながら必死に説得しようと試みる。
「えーと、だからだなレティア。ここにいるルイくんがアルゼくんに代わってお前の婚約者となるのだ。ルイくんはお前と同じ『特殊スキル』持ちでな……ほら、同い年だしお似合いではないか? ん?」
「『特殊スキル』ならアルゼも持っているはずですが?」
一段と鋭くなった娘の目に、ジェントは何も言えなくなってしまう。
「レティア様、あの者はこの家を追われたのですよ」
「は?」
「あの者……いえ、
ルイは時折笑みを浮かべてレティアに説明した。
「――ふ、ふざけないでよ!!」
およそ公爵令嬢とは思えない大きな声が響き渡り、その場にいた者は驚いた。
「なんで私があんたなんかと結婚しなきゃいけないのよ! 私はね、幼馴染だから、婚約者だからアルゼと結婚したいんじゃないの! 他の貴族とは違う、彼の性格や人柄が好きなの!!」
そう一気に捲し立て、息を切らしながら睨みつけるレティア。
「はぁ……はぁ……」
「レティア、落ち着いて」
レイシアは優しくレティアを抱き締めた。
「お母様……」
「大丈夫よ、レティア。きっとまだアルゼくんも遠くに行ってないはずよ。すぐに見つかるわ」
「でも……もしかしたらアルゼはもう、どこの馬の骨かもわからない女と一緒にいるかも……」
レティアは妄想を膨らませる。
「あら、そんなのあなたの魅力でまた振り向かせればいいのよ。誰も人の恋路を邪魔するなんてできないのよ? ねぇ、あ・な・た?」
笑顔なのに笑ってない――そんな顔をレイシアに向けられたジェントは、背筋を凍らせカクカクと首を縦に振った。
「う、うむ、そうだな! やはり愛が1番だ、1番。――グラント子爵」
「は、はい」
「すまぬがそういうわけでな……先日の話はなかったことにしてくれ。やはり、好き合ってる同士が結ばれるのが1番いいに決まってるからな、うむ」
「は、えぇ!?」
賛成派だったリリー公爵にあっさり裏切られ、ウェイスの頭の中ではこれまで積み上げたものがガラガラと崩れていった。
「お、お待ちください公爵閣下! 私は《剣聖》ですよ!? いずれこの国を支える者となります! あの無能よりも――」
「――【ウインドアタック】」
「ぶぼぁッ!?」
レティアの魔法をもろに顔面にくらったルイは、鼻血とともに地面に打ちつけられ、顔が悲惨なことになってしまう。
「い、イダい……くそっ、いったいなにを考えて――」
「うるさいわね。次は鼻血だけじゃ済まさないわよ?」
「ぐっ……」
レティアは軽蔑の色を隠そうともせず、ルイに冷たく言い放った。
「子爵、アルゼくんのことは頼んだぞ」
ジェントはそう言い残し、グラント家を後にした。
残されたウェイスとルイは、これまでに経験したことのない屈辱にわなわなと震えたのだった。
―――――――――――――――――――――――
【あとがき】
お読みいただきありがとうございます。
これにて1章完結です。
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