第21話 自我と力と使命

あれは十月末の、深夜二時を過ぎた辺り

だろうか…。


あの日、子供は無力だと知った。

幼い自分が無力だと…、


両方を手に取る事はできなくて…

どちらか片方を取っても後悔する二択…、


幼いながらに、世界にはどうしようもない

理不尽な選択があり…

両方取りたい自分は夢見がちな無力な子供

なのだと知った。



時間が経って、夜も明けようかというところ…

「ごめんね…ごめんね、」


あの時から…あの時からだ…、

純粋な力を求めたのは…。


力を求めた、


力が身についた…、


強くなった…、


無力だった…。


手にしたのは強さだけだった。


誰かを守りたくて求めたはずだったのに…

気づけば目的を失って…、

残ったのは見かけだけの自分の身体と、

力だけでは救えないものがある

という虚しい事実を知っただけだった。


「……。」


それも今では…


「…………」


かつての強さを……、その面影だけ残した

柔い身体を見る。


(無力だ…。)


今も昔も、無力のまま…だ。


「また、同じ事をするのね…」


拓海「愚かな者だよ…ほんとに…」



クロネ「今日の事は仕方ないけれど…」



拓海「あれはね……でも力が無いと…

自我エゴも通せない、特にこの世界じゃ」



クロネ「無法者が渦中にいるものね…」


「良いの?同じ轍を二度踏む事になるけど…」



拓海「後悔したのは力を身に付けた事じゃ

ないから…だから同じ道を行くよ」



クロネ「魔術…使えるようになったものね、

これから修行編スタートって感じかしら」



拓海「そうだね…何となく身につけたい

術はあるんだけど…」


フェアル「身につけた力を使う事は

あるのか…かな?」


急に現れたフェアルは二人が座る横に

並んで腰を下ろし何気無く会話に混ざって

話しをする。


フェアル「こんばんは、無事に

三妖精を救ってくれたみたいで何より」


拓海「あれのどこがー…」


フェアル「君も分かってるだろ?目に見える形が

救う事の全てでは無いと…」



拓海「あの三人…何もしなくたって

進んでくタイプじゃん」


フェアル「君は彼女達の意思が揺らがない

ための舞台装置だったて事さ…」


「欲しかったのはキッカケであって

君じゃない」


拓海「まぁ…そうか…」



フェアル「おっと…良くない、事実だけを

伝える嫌味な奴になる気はない」


「救われるキッカケを救った…

君は確かに彼女達の為になることをした、

礼を言うよ…ありがとう」



拓海「できれば人の為になることも

したかったんだけどな」



フェアル「したさ…未来の人の為になることを」


現在いまの人間も救いたいと願うのなら

それは強欲で傲慢だ、行うにしても君では

なくこの国の権力者がやるべき仕事だろ?」



拓海「そうだね…畑違いな話しだった…」



クロネ「貴方には貴方しか出来ない事がある」



フェアル「うん、君には別の事で星や人を

救ってもらわないと」



拓海「俺がお空になる話しか…」



フェアル「魂の在り方に気づいたんだ…でも

それは星の心の一瞬を救うだけだ…

君には世界の一生も救ってもらわないと」



拓海「世界の一生…?」



フェアル「お空になる前の運命過程

言うか、お空になるついでにしなきゃいけない

使命がある」


「僕はそれを伝えに君との縁を作った」



拓海「うん、それで?」



フェアル「この地球ほしの生命じゃ

処理しきれなかった不沈艦…獣が核を

手にして復活する…。」


「君はその獣の破棄…いや、

完全なる消滅を担う星使者としてここに来た」



クロネ「想定しうる中で一番最悪な厄ネタね」



フェアル「クロネ、夢には何度出た?」



クロネ「三回…立て続けに夢に出たのは

目覚めの兆候だったのね」



フェアル「現世でも兆候は出てるのは

知ってるだろ?」


クロネ「?」



フェアル「情報の共有は?」



クロネ「してないけれど?」



フェアル「おいおい、君がそんなだから

記録体は間抜けなんだ」



拓海「悪く言わないでくれよ…

こう見えてもクロネは寝ぼけてるんだから」



クロネ「そうよ、そうよ!夢の中では

ちゃんと意識が冴えてるんだから」



フェアル「本当に面倒臭いな君らの在り方は」



二人「「それで…兆候って?」」



フェアル「魔物が暴れて生態系を荒らしてる」



クロネ「いつもの事…じゃないのよね?」



フェアル「いや…いつも通りさ、

ただ…獣の血肉を取り込んで

と化した魔物が荒らしてる…だが」



クロネ「そう……砕けた破片を食べた魔物の

遺伝子が適応してしまったのね…」



拓海「なんか…聞いてる感じ、獣って

言われてる奴…この星の生物じゃない

みたいな言い方してるけど…」



クロネ「えぇ、獣は異星から来た

機械生命体よ」



拓海「へぇー…それを始末しろって?

任せる人を間違えてるよそれ」



フェアル「うーーん…君の言うように、

適任者はいるんだけど…鎮める事しか

出来なかったんだよ…」



クロネ「オマケにその子…やり方を

選ばないから…、任せると陸地が消し飛んで…海も少し蒸発させちゃうから…」



拓海「えー…何それー…」



フェアル「だから代わりになれる君が

その役目を担う事になる」



拓海「この地球ほしの生命じゃ

殺れないんじゃないの?」



フェアル「君、生命じゃ無くなるんだし

大丈夫だよ」



クロネ「流石…妖精の王をしてるだけ

あるわね…」



拓海「クロネ…いいよ、ありがとう」


鞘に納めていたはずのナイフを

気づかぬうちに抜き取り、フェアルの喉元に

突きつけるクロネ。



フェアル「すまない、無配慮だった。」


「君が魂の在り方に

近づけば問題は無いだろう…と、

そう言いたかった」



拓海(魂だけになる訓練死亡も沢山

しないとなー…)



フェアル「君のする役目は病原共まものの始末をする事…と、元凶の獣を始末する事…」



拓海「魔物の討伐も?」



フェアル「うん、しないと地中にいるその子

が目覚める」



拓海「そっか…同じ事を聞くけど……

それは俺がしなきゃいけない事なの?」



フェアル「直ぐにわかる」



拓海「そっか…ならもう一つ、」



フェアル「何だい?」



拓海「フェアルとして会うのはこれが最後って言ってた…」



フェアル「言ったね…次があるなら、

僕は妖精王として君と対面する」


「そして王は妖精達の路を護り示す」



拓海「なるほど…ね」



フェアル「……。」



クロネ「へぇ〜…そうなんだ…」



フェアル「クロネはまだしも…君まで僕の

心を読むなよ」



拓海「次に会う時、楯突けるくらい

には強くなっとくよ」



フェアル「刃向かって欲しくはないん

だけど……まぁ楽しみにしてるよ」


「では…僕はこれで…すまなかったクロネ…

夜景デートの最中に…

それと無礼な発言、どうか許して欲しい」


クロネ「大丈夫よ、八つ当たりみたいな

物だし…それにこれは只の散歩…

気にしないで」


フェアル「凪星 拓海…君にも申し訳なかった」



拓海「いいよ、気に触れたのは俺じゃ

なくてクロネの方だし、当人が気に

するなって言ってるから…」



フェアル「そうか…ではまた…」


クロネ「じゃあね〜」


拓海「またねー」


「…………」




クロネ「さて…詳しい話しをしましょうか」



拓海「獣とか陸地を飛ばしちゃう子とか…もう少し知りたいな」



クロネ「なら…まずはこの国に伝わる神話を

話しましょうか」


拓海「神話…?」


クロネ「英雄譚はないけど、神話はこの国にも存在しててね、それが獣と呼ばれるソレと

話に上がった適任者…その子が

話しの元として出てくるの」



拓海「なるほど…聞かせてください」



クロネ「はーい、ではお耳を拝借をば…」


「降る病みと人間ヒト

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る