第20話 理死《リーシュ》

シオン「はぁ…思った通り、失敗ね」


拓海もユウカもタハフに跳んだのね…。


「そう…プシユにクーシーが…、」


となると、問題があったのは二人じゃなくて、

私の方か…。


(運命とは言え、記録体であるこの身が

不調を起こすのは、気分が悪い)


する事も無く、

石化街ゴーストタウンと呼ばれる

この場所の惨状に目をやる。

リーシ区…リーセイで唯一戦闘を許された

区域。


商店や、大通り…、広間に至るまで、

無数の石像…石化された人間と妖精…、

そして抗うために戦った痕跡…剣や杖が床に

転がっている。


全てはアグルという名の一人の妖精の手に

よって…。



理死リーシュ」己の意思で万物を律し、

背いたものを石化させるアグルの能力。


石化…と言っても臓器や筋肉を作るたんぱく質等が土塊つちくれに変わるのではなく、

血液が凝固して一瞬で肉体が硬直し

石のように固まって

死亡する状態を指すのだが…。


この区域には、1492の石像…、妖精の意思に

背いた者達がいるのだが…、

アグルが何を道として敷き、決まりと

しているのか…。


シオン「…に近いのかな…

私やクロネがしてるそれと一緒だ…」



「誰が、星の奴隷共と一緒だって?」



シオン「こんにちはアグル。私を奴隷と言うの

なら、貴女含めて…星の都合で生きてる

生命は皆、奴隷って事ね」


その一言に怒りを抱くアグルは無表情のまま

目を見開いて、眼下のシオンに向けて

地面に落ちた剣や杖を能力で飛ばす。


シオン「……」


放たれた凶器の雨が、一点に集中して

シオン・アースという的目掛けて飛ぶが…

的にあたる前に剣や杖は弾け砕かれ、

飛び散る鋭利な破片は目的を成し遂げられず、

無惨に風化して塵となった。



「元から攻撃的だったけど…怒り以外の

感情は忘れてしまったのね…」



アグル「何しに来た…お前の面は苛つく、

とっとと、消えろ」


能力により止め処なく

物という物が、独りでにシオンへと射出

され、人であった石像ものまで

殺しの道具として飛ばされて行く…。

それを淡々と言葉を交わしながら

シオンは捌く。


シオン「もちろん…そうする、」

(血管に血栓が出来始めてる…、攻撃の意思さえ

無ければと思ったけど…防衛するのも

理死の判定に入るか…)

本当なら直ぐにでも距離を置きたいけど…


もう時期四人が来る。

ここに四人が来れば私の石化は…

避けられないか…、仕方ない…。


シオンは自分を中心に半径5mより外に

風圧による障壁を張り、四人の安全を確保し

迎え入れる瞬間を整える。


-----------------------------


クーシー「よし、行ける…」

(輪廻界変…)


-----------------------------


シオン「到着して早々悪いけど…(記録共鳴…)

後は頼むわ」


四人「「……、!!」」


跳ばされた先、シオンのもつ記録が脳内に

流れると目の前に立つシオンは

微動だにしなくなった。

そして同時に、様々な物体が

押し寄せてくるが、それをすかさず

クーシーが能力を使い対処して、

物体は真逆の方角に飛び塵になって離散した。



アグル「……何しに来た?クーシー、プシユ」


クーシー「いつもより、随分と乱暴じゃないか」



プシユ「アグル!今のやり方を変えて!!」



アグル「あぁ?オレに指図か?プシユ」



プシユ「違う…そうじゃない、けれど

貴女のする事は結果…人を傷つける!」



アグル「それがどうした?有は喪失を生むもの」

「傷を知らぬ生命は無い…違うか?」



プシユ「それも…そうだけど、」



アグル「互いに意思否定はない筈だ。

犠牲はつきもの、お前も納得してる事だ」



プシユ「それは…」



アグル「何が気に入らない。死人の数か?

それとも死に方が問題か?」


「オレは人の為になる事をしているぞ?」



クーシー「確かに君が成そうとする事は

人の為かもしれない…」


「だが…心は強く速く動くだけじゃない…、

意志だけで進むには人にはまだ早い」



アグル「いいや、出来るはずだ。与えるべき

物は与えた、意思を意志に変える…その

ひと押し…」


「闘争の種をオレが撒いてやる」



頭の中に流れる情報はシオンの声として

再生される。


三妖精が一人アグルは戦争を望んでる。

彼女の願いは争いによる

2000年の時の流れで、彼女は怒り以外の

感情を失ってしまった。


彼女は感情を与える事を役目とする星使者。

感情こそ失ったものの…人を思い愛する事を

忘れてはいなかった。

だからアグルは人間が…生命が何をしようと

怒らない。


そう…人間には…、

彼女の怒りの矛先は

その身から分かたれた妖精達…。

妖精達は皆、勤勉に…一人一人に寄り添って…

役目をこなしている。


そんな妖精達にアグルは怒っている…

…と。


彼女が…、彼女達 妖精が求めるのは

豊かな人の感情…その育み、そしてその先に

ある星への貢献。

つまり絶え間ない進化に繋がる成長。


プシユ「争いが本当に人の成長に

なると思ってるの?」



アグル「なるだろ…怒りや悲しみ、お前の好きな愛もより強くなる、悲惨な記憶は

教訓に…意志を持って未来へと取り組める」



クーシー「確かにその通りだ…。

だが…そうまでして…、争いを起こしてまで

妖精は消えなきゃいけないと言うのか?」



アグル「いつまで人に

変わらぬ機能で在り続ける?」


「人に感情を与える…?いつまでだ!

種が終わるまでか?!」


「いつまで座する?同じ席に居座って…

人の未来を…選択を

何故、妖精が決める?!」



彼女の怒りは戸惑いだった。

自分が…自分達は何のため今この瞬間を

生きているのか。



アグル「もう…オレたちがいなくても…

人の心は潰えない…」



「クーシー…プシユ…、オレたちは

未完成の証だ…、いつまでもいてはいけない」


「いるべきじゃないんだ…」



ユウカ「主…どうするの?」



拓海「ユウカは…、彼女の事どう思う…?」



ユウカ「……、悲しみと…責任を背負った人。

助けてあげたい」



拓海「そうだよな…。」


役目をこなし…長い間、人の心の成長を

支えてきた。

彼女達がいたから、喜びがあった…悲しみが

あった、生まれたものがあった、

失うものがあった…。


彼女達がいたから…いなくても、

人は繋ぎ…紡いで…育んで路を進んで行ける。



けど…役を終えた演者は、いつか舞台を

降りなきゃいけない。

導き、示し、手を引いてきた彼女らは、

路を譲る事で真に観せたいものを

観せるべきだ。


(相手の意志を変えるのは無理に等しい…

説得も力づくもきっと……、

彼女の願いが人も彼女自身も救うのなら…)


前に進み、アグルの元へと近づいて行く。



「お前…、夢人か…

人間以外に興味は無いぞオレは」



拓海「一応、人間を辞めたつもりは

無いんだけどな」



アグル「人の世に干渉するんじゃねぇ人外…」



拓海「確かに俺はこの時代の人間じゃない

からなぁ…関わるべきじゃ無いとは

俺も思う…」



アグル「なら用は無いだろ…」



拓海「いや、まだ人間気分が抜けてないんだ」


「人が傷ついたら悲しいし、困ってる人を

助けろって言う教えが残っててさ…」



「アグル…、傷つけるなとは言わない。

被害を抑えてくれ」



アグル「断る…。」



拓海「未来さきを思うなら、

必要犠牲…なんだろうけどさ…

多いんだよ、数が」




アグル「知ってるんだよ、現在いまをどれだけ人間が大事にしてるかぐらい」



「でも少ない…これだけの犠牲で

妖精は殺せない」


「オレに向ける憎悪が足りない、

国王リーセイの顔が歪まない…、増え続ける命に

傷が霞む…」


「オレ一人じゃたかが知れてる…」


10004人…そこに妖精の数は含まれない…。

アグルが石化し、事実的な死に追いやった

妖精は人の数だけいる…。


20008…の生命が石となり亡くなった。

とても多い犠牲の数だ…。


ただ、それでもこの国の総人口で見れば

一割にも満たない…。



シオンの記録によれば、

亡くなった人は皆、妖精と特別な関係に

あったそうだ。


アグルは妖精だけをこの世から消すつもり

だった…。

彼女が「理死」によって決めた道理は

妖精の根絶、すなわち…それに抗う者…

意見する者…、生存を助力する者を

にする…。

必然…家族、恋人、友を守ろう…戻そうと

した10004人は尊き犠牲となった…。



拓海「あと何人…死ななきゃいけない…」



アグル「言わなくても分かるだろ…」



拓海「…アグル…、俺が殺すのは駄目か?」



アグル「傍観者だろお前は…、

そこの固まってる奴も、空っぽのチビも…、」


「世に介するならお前も石にする」



拓海「そっか…」


そうなると…出来ることは無いな…。

また…無力か…。


「フェアルの奴…あのほら吹き野郎…、」


小声でそんなぼやきをいれる。

俺がアグル達を救うとか言う話しは

どこに行った…。



アグル「報いは受ける…だから…」



拓海「アグル…。俺は止めない、

止める気は無いし…止めるだけの力も無い…」


「だから人だった者として一言だけ…いいか?」



アグル「…聞いてやる」



拓海「路を譲って消えてくれ…。」



「人の世に…妖精お前らは要らない」



アグル「……。」


「そうか…、要らないか…。」


「そうだよな…よかった…、」



「ぬし…」


ユウカ「主…良いの?」


拓海「良くは無い…けど……」


ユウカ「うん?」


拓海「アグルの顔…」


ユウカ「安心…してる?」


拓海「止めるんじゃ意味が無かった…」


ユウカ「でも…被害は…」



拓海「うん、目を瞑る事になる…」


その言葉にユウカは少し嫌な顔をする。

(まぁ、そうだよな…)



「アグルー!!!!」


突然、アグルの名を叫ぶ鎧の男が、

とてつもない跳躍で屋根の上に乗る

アグルへと斬り掛かる。



アグルは男の剣を能力で集めた瓦で防ぎ、

更に魔術で固める事によって

剣と男の腕を拘束し…

特に目を合わせる事もなく会話をする。


「誰だ…お前」


鎧の男「貴様に、妻を殺された者だ」



アグル「そうか…哀れだったな」


「っ!貴様っ!!」


拘束された腕を解こうと必死に藻掻く男に

アグルは問う。


アグル「何しに来た…」



鎧の男「復讐だ!妻を殺したお前を俺は

許さない」



アグル「そうか…嬉しいよ、」



鎧の男「ふざけやがって…」



アグル「騒がしいな…」


屋根上から、遠くで動く集団を視認する

アグル。


(城の連中か…前より数が多いな…良いぞ、

後はオレ以外の妖精馬鹿共にも

矛先が向くといいんだけどなぁ……)



「おい、夢人。ここはオレたちの戦場だ、

用は済んだろ?帰りな…」



拓海「ユウカ…帰ろう」



ユウカ「主…シオン、どうする?」



拓海「あー…アグル…これどうすればいい?」



アグル「…適当に砕いて、魂を逃がしてやれ…

そしたら勝手に出てくるだろ」



拓海「助かる(えー…グロいな…)」



鎧の男「おい、俺の事は無視か?!妖精さんよぉ」



アグル「………。」


鎧の男「くっ…!」



拓海「クーシー、プシユ…、ごめん。

二人の思いは通せなかった」



クーシー「いや、これが正解なんだ。

彼女を救うと言う事は、彼女の意志を尊重する

という事だ…。」



拓海「二人はどうする?」



クーシー「私はアグルの望みを助力

しようと思う」


プシユ「っ!?クーシー?!」



クーシー「私には君達の言葉が、響いてしまった…。」


「人が人の意思で生きて行かなければ、

意味が無い…、その通りだ」



拓海「だから最後の汚れ役を…って?」



クーシー「ああ、私は汚名を纏うことで

それを償いにしたい…、」



拓海「そっか…クーシー…救われない(救われる)事を祈ってる」


クーシー「ふふっ、そう言って貰えると

心が救われるよ」



拓海(プシユは…、ここに残るのかな…)


「じゃあ行くよ」


クーシー「送ろうか、」


拓海「あーならこれ砕くのやってくれない?

その方が都合いい」



クーシー「形が残るのは趣味が悪い、

綺麗に焼却しよう」



クーシーが丁寧に肉体を燃やす事で

魂は解かれ再び肉体を取り戻したシオンが

どこからともなく顔を出した。


そして、シオンの輪廻界変で跳び、

宿まで戻ったのだが…、帰りの転移は上手く

いった事から、今日の出来事の一連は

機運なのだと悟った。



クーシー「プシユ…君はどうする?」



プシユ「クーシー…ワタシ…、二人に会うまで

記憶が無くなってて…」


クーシー「うん、」


プシユ「触れてしまったの…人に…」


「ワタシ…人の感情を奪ってしまった…」


涙を流すプシユを抱きしめるとクーシーは

優しく頭を撫でて声をかける。


クーシー「仕方がない…、私達は頑張り

過ぎたんだ…そんな私達に、星はきっと

休めと言っている…」


「もう…休もうプシユ…」


プシユ「ワタシ…人が傷ついたり、

心を失うような悲しい出来事が好きじゃない…」


クーシー「うん…」


プシユ「ワタシ…自分の事が…ずっと…

好きじゃない…何で…ワタシ……」



クーシー「私も…自分が好きじゃないよ」



-----------------------------


アグル「なぁお前、城の者だろ…あそこに

いる連中と一緒にいないのは何故だ…」


鎧の男「俺は切込隊だ…真っ先にお前を打つ

存在としている」


アグル「一人でオレを殺れると?」


鎧の男「他の切込み隊を殺したのもお前だ!」



アグル「そういえばそうだった…、

お前達の王はどうしてる…、オレや妖精に

何か思うことは?」


鎧の男「貴様は必ず討伐せよ、と言われている」



アグル「だろうな、だが聞きたいのは

そっちじゃない」



鎧の男「何だ?仲間を庇ってるつもりか?

安心しろ、要検討とは言われているが、

他に甚大な被害が出れば妖精共の抹殺は確定だ」



アグル「ふっ、そうか…ところでお前は

いつになったら石になる?」



鎧の男「さぁな、お前の石化の魔法程度…

効きやしない」



アグル「なるほど…その程度の愛だったのか…」



鎧の男「なんだと?」



アグル「理死が石にするのは妖精の根絶を

遮る意思だ、今までオレが石にした人間は皆

妖精を庇うか元に戻そうと刃向かうやつだった」


「お前にその気はあるのか?」


鎧の男「当たり前だ、術師が死ねば消える

魔術など山ほどある…貴様を殺しさえすれば

妻は…!!」



アグル「だよな、なら何故お前は石に

ならない…石化する事は愛の証明のように

オレは思うぞ?」



鎧の男「違うな、お前を殺す事が愛の証明、

例え石になるとしても、俺たちの愛が

それを打ち破る」


アグル「そうか…哀れだな、せめて真実を知る

心があれば まだ、愛があったと言えただろうに」



鎧の男「何が言いたい?」


アグル「単純な話しだ、お前が石化しないのは

愛する気持ちより、オレに対する復讐心が

勝ってるからだ…」



鎧の男「そうだ、愛した妻が死んだ…だから

今はそれ以上に貴様が憎い」



アグル「どうせ、その妻とやらはプシユの

分かれ身だろ…お前に人を愛する気持ちを

知ってもらうとか何とか…」


「お前の愛は、自分のではなく

与えられた物だ…、今じゃこれっぽちも

愛なんてものは無いだろ」



鎧の男「貴様に何が分かる!!何が!……なに…が」



アグル「なぁ…言ってみろよ、

お前…愛した ?」



鎧の男「それは……それ……そんな…」



アグル「復讐ってのは他人のためじゃなくて、

自分のためにするんだよ。」


「お前は初めから自分の愛しか見えていない」


「妖精も、初めからお前じゃなく…お前の

感情だけを見てた…、

残念だったな、復讐如きに霞む愛で」



鎧の男「うわああああ!!!!殺す!!殺す!

殺す!!!!アグル…!!!!妖精共ーーー!!!!」




アグル「クーシー、プシユ……、オレも嫌いだ」

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