第18話 失意の愛

楽しい玩具遊びも終わり、

これからの事を話す会議をする事にした。


シオン「先ずは直近の目的を明確にしとき

たいのだけど」



目先の問題は、俺の運命…

この世界での自分の性質が面倒事に絡まれ

易く死に易いと言うこと。


それに加え…原初の三妖精との縁、

クーシーと接触した事により残りの二人

とも、接触するであろう可能性は高い。

既に石化と廃人病という被害を

出している…、意図せず出会う事が

無ければ此方から出向く事になる、

というか行くべきか…。



拓海「拠点についてなんだけど…」



シオン「お金の話し?」



拓海「じゃなくて…それもまぁあるけど…

王都の近くに居なくても

いいんじゃないかなって…」


運命を知る事なんて本来ある訳が無くて、

どんな未来も予想で、どんな結果も

たらればの域を出ない。

けれど知った以上、知っている以上は

未来を気にして動かなければ。


シオン「あーそういうこと…理解したわ。

街から離れたいのね」



拓海「場合によっては

余計な被害を生みそうだし…俗世から離れて

暮らした方が街の混乱を最小限にできる」



自分のいる場所や行く先々で問題が起き、

死人(自分)が出るなら、極力ヒトとの接触は

避けて通るべきだ。

雨風を凌げる温かい寝床は恋しいが、

無くても困る訳じゃない…フェアル森林に

戻れば魔物や獣もいて、

食料には困らないし…最悪食料は

無くても死なないので気にする必要は無い。



シオン「そうね、君が来たのは戦争を

止めるためと踏んで、街に暮らしてもらう

つもりで動いてたけど…」


「残り六日、ここを拠点に残りの妖精二人

の問題を解決してフェアルに家でも

建てましょうか」



ユウカ「ねぇ主〜?」


拓海「ん?なに?」


ユウカ「私の服、コレなの?」


拓海「メイド服は嫌?」


ユウカ「違う。主と同じが無い」


拓海「あっ」



「代わりの服、用意するから」


「主と同じの、無ければコレは

主に貸すだけ」


「わかった、後でクロネに頼んでみる」



クロネに新しいジャージ頼むの忘れてた。



拓海「シオン、ちょっとクロネに変わって

欲しい」


シオン「嫌、君が用意するって言ったんだ

からクロネを頼るのは違うでしょ?」



拓海「えー?頼んでるのはシオン

じゃないんだし…」


シオン「それも気に入らないから尚更イヤ」



拓海「じゃあシオン、このジャージ再現して」



シオン「約束した君が用意しなきゃ意味が

無いでしょ?」



拓海「そう…です…ね」



ユウカ「主?ジャージ返して?」



拓海「嫌です…」



ユウカ「駄目です」



拓海「昨夜は肌寒かったし…無いと困る」


ユウカ「私も無いと落ち着かない」


拓海「これ俺の服だから…」


ユウカ「女の子の約束破るの?」



拓海「……」


「…………。」



シオン「ナニ?…こっち見て……」


拓海「……」


シオン「やらないわよ?」


拓海「……、」


シオン「そんな目で見ても…やらない!」


拓海「………」


シオン「だから、やらない…って…」



拓海「頼り」



シオン「………、」


「こ…今回だけ!!今回だけだからね」



拓海「ほんとぉ!ありがとう」

(今回だけ…は、あと何回増えるんだろう)



-----------------------------


シオン「そ、それじゃ改めて…」



ユウカ「あはぁ…落ち着く…」



シオン「二人の妖精を救いに行く訳だけど…

君達二人…干渉出来なくて跳べないから…

歩かなきゃ行けないんだけど…」



拓海「近くにいる妖精は?」



シオン「リーシ区にいるアグル。ここからだと

15キロ先…」


拓海「一日の被害は?」


シオン「最低でも10人以上…これまでの被害は10004人…決して少なく無い」



ユウカ「シオン、今すぐ跳ばして…」



シオン「だから、正確に跳ばせるか…」



拓海「シオン…今すぐ頼む」



シオン「……、はぁ…分かった。跳ばす先が

違くても文句言わないでね…それと、

アグルを止めるなら私は無力だから」



拓海(それはどういう…)



-----------------------------


「……。」


「……………………………………」


「…」



挟まれている…

意識と身体の間…生と死の間に。

どうやら死んだらしい…


「……して…」


徐々に魂が意識と身体と結び付いていくのを

感じる。


「…覚まして……」



「目を覚まして……」



誰かが呼ぶ声がする……、

シオンの輪廻界変で跳ばされて…

目的の場所かはともかく…高所から落とされ

首から落ちて無事死亡した。


「心臓の音…聞こえるわよね?

さっきは止まっていた気がするけれど…」


「お兄さん?こんな所で寝てはダメですよ?」



街の男「おいそこの妖精!」

「こんなとこに男を寝かせて!ここは公共の

場だ!!」



「す、すみません」


街の男「人に法…破らせて…何が楽しいんだ

あぁ?!」


「い、今どきますから…」


街の男「おい兄ちゃん…道で寝たら駄目な

事くらい教えられたろ?罰金くらう前に

起きな」



「お兄さん…目を覚まして」



街の男「おい、お前が触るな!」



「きゃっ…」


「い、痛い…貴方はどうしてそんなに

怒ってるんですか?」



街の男「………あぁ…そうだな…、」


「どうして怒ってたんだろうな…

妖精に娘を殺されただけなのに…」



「えっ…それは…」



街の男「すまんな…八つ当たりしちまって…」



「あっ…」

急に怒りが治まったけれど…どうしちゃたの

かしら?

そして何より、あの悲しそうな表情…。

怒りよりも強い悲しみを感じる…。


「そ、そうだ…怒られる前に、この人を…」


-----------------------------


ドクン…ドクン……。

心臓の音が聞こえる…、


とても温かい…


とても優しいものに包まれるような…


「んっ……」


優しい匂いがする…。

誰かの胸に顔をうずめているような…


???「あっ…良かった、目が覚めた」


拓海(胸が目の前に…)


???「ひゃっんッ...///」


「お兄さん…くすぐったいです」



拓海「僕を助けてくれたのは貴女ですか?」



???「ふぇ?え…えっと私はただ道に寝ている

アナタを起こしただけで…」


拓海「……」


???「あ、あんまり胸元ココは見ないで

欲しいんですけど…///その…他の人の

迷惑にならないようアナタを運んで…」



拓海「そうですか…ありがとうございます」

「あの…此処が何処だか分かりますか?」



???「ごめんなさい…私、何も知らなくて…」



拓海「いえ…気にしないで下さい、

こちらこそ…お礼に返せる物が無くて…」



「そ、そんな…恩義を感じるような事は…」



拓海「そうですか…。あの実は僕、

先を急いでいて…」



「あぁ!ごめんなさい…どうぞ、お気になさ

らず向かってください」



拓海「すみません…助かります」


妖精の少女と別れを告げ…路地裏を出る。


「すみません…」


待ち行く人「はい?」


「此処が何処だか…教えてくれますか?」


街行く人「ここはタハフだけど…」


タハフ……、シオンの地図では確か…

リーセイの西に位置したな…正反対か…。


「あの…どの道からリーシ区に?」


街行く人「あんた…あの石化街ゴーストタウンに?石になりたくなきゃ辞めな?」


「お願いします、教えてください」



街行く人「はぁ…この通りの曲がり角を

右に真っ直ぐだよ」



拓海「ありがとうございます」



街行く人「いいよォ助け合いは

当たり前だろ?あんたも誰かの助けに

なるんだよ?」



拓海「恩に着ます…では…」



???「ま、待って…」


振り向くと、妖精の少女が自分の腕を引く。


「さっきの話し…他の人…も…危ないって…」


拓海「でも、そこに用があって…」



「行っちゃダメ。アナタが危ない。」



拓海「他の人も危ない。それを止めたい」


「それはアナタがしなきゃいけないの?」



「俺じゃなくていい、けど他に

やらせたく無い」


「で…でも、傷つくのは辛いことで…

私…人に傷ついて欲しくない」



街行く人「ちょっと、あんたぁ」

「この子があんな場所に

行こう何て言うのは、あんたの仕業かい?」



「え、私は彼を止めたくて」


街行く人「こっちが勝手にやってるって?!

その部外者ヅラ…気に入らないよホントに」



拓海「いや…彼女は関係なくて…

俺の意思で…」



街行く人「妖精に魅力された奴は、皆んな

そう言うんだよ、あんた選ぶ女は同じ

人間にしな、でなきゃ破滅するよ?」



「破滅なんて…私…」



街行く人「今はそうで…って話しだろ?

いいからあんたは消えてくれ」



拓海「……。」



少女「ごめんなさい…」



拓海「行こう…」



少女「え?」



街行く人「ちょっと…はぁ…ありゃ駄目だね」



-----------------------------


少女「あ…あの…」



拓海「ごめん」


少女「いえ…助けてくれたんですよね」


「その…止めるって何をするんですか?」



拓海「その危ない事してる人と、とりあえず

お話して…駄目だったら…どうしよう…」


力じゃ、敵わないし…

助けを借りようにもシオンが無力だって

言ってたしな…

頼みは…ユウカくらいだけど…



少女「えぇ?危ない事してるって…その人」



拓海「人を石にしちゃうんだって…」



少女「ダメ…やっぱり行っちゃ!」



拓海「ねー、俺も行きたくないよ…」



少女「なら…進む足を止めて!」



拓海「でも、犠牲者が…(運命で出会う事が

決まってるなら、早めに会って被害を

抑えたい)」



少女「もし相手が聞く耳を持たなかったら…

どうするんですか」



拓海「そうだよねー…、

まぁ説得で解決するから…」


少女「……行きます。」


拓海「?」 少女「私も一緒に行きます」



拓海「いや、危ないよ」


少女「それはアナタも同じじゃないですか」


「私…人が傷ついたり、危ない目に遭うのが

嫌なんです。勿論アナタも含めて」



拓海「俺も君に傷ついて欲しくないから

付いてこないで欲しいな」



少女「嫌です」


拓海「俺じゃ君を護れないよ?」


少女「結構です、寧ろ私が護ります」



実際、妖精なら滅多に死ぬ

ことは無いし、強さに関しても…きっと俺より

遥かに強いだろう。


倫理的には危険な目に遭わせる訳には

いかないが…互いの意思が揺れ動かない

場合、俺はとてつもなく弱い。



拓海「分かった…」



此処で足踏みする訳には行かない。

恩人を危険に晒すのは気が引けるが…

仕方ない。

きっと、シオンは今頃…

急がなければ…。



拓海「じゃあ…短い旅ですが

宜しくお願いします」



少女「こちらこそ宜しくお願います」


「えっと…お兄さんの名前…教えて

くれますか?」



「拓海……君は?」



少女「えっと……分からないです」


「ごめんなさい…自分から聞いといて…

私、…自分が誰なのか

知らないんです」



……。

他にもそういった妖精がいるかも

しれない…が、それに当てはまる妖精の名を

一人知っている…。



(この子がプシユ……)



プシユ「お兄さん?」



拓海「行こうか」


(とても廃人病なんて、物に関わる原因

だとは思えないが…)


まだ彼女がプシユ本人と決まった訳では無い

が…


「うわあああ〜ん」


目の前を走る少年が地面につまずいて

転んでしまう。



プシユ「あ、あぁ…僕、大丈夫?」



「いたぁ〜いー」



プシユ「よしよし…」


少年の頭を撫で、なだめるプシユは、

心配そうに、少年の顔と膝の傷を

見つめる。

プシユが頭を撫でると…次第に少年は泣きやみ、膝の痛みにまだ少し顔を歪めている。



彼女の優しさは…記憶の喪失による物

では無く…元々の本質のように思う…



記憶を失う前の彼女は

どんな妖精だったのだろう…。

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