第16話 星ノ空

夢を見た。


幾つもの夢の中で、夢を叶える夢を見た。



私は夢を見ていた。


少年は夢を見ていた。


私が視る物を同じように視る者。





夢に手を伸ばした。



あの輝く星に……手を伸ばした。



みんな誰しもあの星に手を伸ばす……

遠い遠いあの星に……、




宇宙うみは暗くて寒い、

恒星は眩しくて身が灰になりそうだ。



死ぬのは御免だ。



暗闇で一人は怖い、熱くて苦しむのは嫌だ、

……、…………。


だから「夢を諦めた」。



あのほしは掴めない、

だから視ることにしよう…、

宇宙ここから眺めて…、観る事に

しよう。



ほら見て、また何も知らない子が

ほしを掴みにやってきた。


何も分からずやってきた。



「………………………。」



「……………………、」



「………………………………。」



何億、何十億と夢を見た。

その中で見てきた夢は自分の年齢の数さえも

超える。


夢をみた、夢をみた、暗くて、怖くて、

気を紛らわして、それでも現実に

向き合わなければいけなくて…。


冷たい宇宙うみに心を凍らされそうだ。

あぁ温かい。

私や仲間を照らす太陽。

けれど彼も…彼でさえ、いずれ終わりを

迎える日が来る。


宇宙うみよりも暗い死が迫る。

そんな理に怯え、私達は



あるものは楽園、あるもの

虚無、あるものは根源だと言った。


けれど皆、口を揃えてそれは「夢」だ…と。



理想を見るもの、真実を見るもの、それぞれ違いはあったが…

思うことは皆同じ…、



だれかに触れた事が無い、だれかを愛した

事が無い。

愛も形も分からない…でも、もし理解できる日が来るのなら、

その機会を失うのが怖い。


皆んなが皆、失う事を恐れて生きている。



星を喰らった、星を侵略した、

揺籃ゆりかごに子を乗せて託した。

それでも生命に終わりはやってきた。



あぁ…私の空は何処にあるの?



軌道の流れに身を任せ、幾度も幾度も

探すけど…、は視えない。


何処を向けば見れるか分からない、

何処へ行けば辿り着くか分からない。


けれど不安な時、いつも「星ノ空」を探した。

見上げる事ができたなら、この寂しさを

きっと切なさを…忘れさせてくれるから…。



「………………………」


「……………………………。」



「……………………………………………」



クロネ(夢を見た……)


私の夢と、彼の夢…。




凪星拓海はこの星から喪失する運命にある。

肉体も精神も、記録も記憶も……

そう在るために、彼は人で無くなっていく。



何故なら、それを地球わたしは望み、

彼自身も望んでいるから…。



名は体を表す、なんて言葉があるけど…

星は運命を名にする。


凪星 拓海と言う名は消え去る運命を

与えられた名だ。


----------------------------------------------------------


僕は英雄ヒーローになりたい。

強くて、カッコよくて、皆んなを守る、

ウルトラマンみたいになりたい!



-----------------------------


幼い彼は、英雄を夢見た。

彼にとっての英雄はテレビで見た正義の巨人。


彼は一途で自分を曲げない、

悪く言えば、頑固で幼い。

だから今も、成れないと理解しながら、

願望を抱き続ける。

(不可能だ…)

彼の夢は誰かの夢、誰かの夢の押し付けだ。

創作であれば尚のこと…。


彼は成れないものを追い続けている。

でもそれで良い、それで良かったのだ。


空想を求め追い続け、自身の本質に

気付かずに…いれば良かったのだ…。




子供は夢を見る生き物。

彼は英雄になりたかったが、それ以外にも

沢山の夢を持っていた。


音になりたい、花になりたい、海になりたい、

風になりたい、お日様になりたい、お月様に

なりたい、星になりたい、空になりたい。



彼は「素敵なもの」に成りたいと願った。


英雄は人の笑顔を守れるから…、


音は人を心地よくさせるから…、


花は綺麗で笑顔を咲かせるから…、



彼はただひたすらに優しい性質だった。

まさに凪のような…

もちろん彼にも人並みの怒りや

凶暴性もあった、荒れる海のような一面が。


けれど彼はその名の通り、穏やかな海

として生まれた。

その名の通り……、



拓海(苦しい時、寂しい時、夜空を見れば、

切なさが薄れる気がする…。)


「空、綺麗だな…(上を見たら空があって

星がある)」


(宇宙の中にいたら何処が上か下かなんて

分からないんだよなぁー)


そう思うと、「見上げる」という行為に

幸せを感じる。空を見ることができる

瞬間を幸せだと思える。



空…、人が見る空は宇宙と呼ばれる物、

宇宙へ人が行くには宇宙に乗って行く。

(星にとって宇宙は海みたいな物なのかな…)



だとしたら…

拓海「星にとっての空は何処にあるんだろう」


人にとっての空があるなら、

星にとっての空…「星ノ空」があるのかなぁ?




こうして彼は、魂の在り方に気付いた。



星ノ空を見上げたい。

そんな思いから

生まれた世界で、その願いを叶える器を…

凪星 拓海と言う願望器を星は作り上げた。



彼の魂は「海拓」…、


親の込めた名は、荒れた海でも切り拓く、

逞しい子。


星が願った名は、星海ほしうみを切り拓き、

空の道を示す開拓者。



星の夢は、想定と妄想を織り交ぜた世界、

星使者は、星の願いを叶える願望器だ。



夢の世界で、拓海という、

星ノ空を目指すに相応しい名の運命を

地球わたし

見つけてしまった。



-----------------------------

彼は地球わたしにとって都合が良かった。


生まれた時から、穏やかで、

夢に憧れ、何があっても世の中を愛し、

俯瞰してものを見る様は、星ノ空(遠い存在)

としての在り方のようだった。


18年を経て、拓海かれと言う器は完成した。

地球ほしクロネに記憶をさせ、

夢が醒めても、

夢人として現実に生誕できるようにした。



そうして彼の世界は消え、彼の人としての

人生は終わった。


人としての凪星 拓海では無く、

星使者の凪星 拓海、

彼がこの時代に呼ばれた

のは「星ノ空」へ行く準備をするため。



-----------------------------


拓海「生まれた理由が星の心の安定剤

だったとは…って感じよね」



クロネ「自分の事でもあるから、

自己肯定感 高く聞こえるけど…

綺麗じゃない?」



拓海「そうだね、不死になる…じゃなくて、

死にたくないから空を見る…か」


「綺麗だね、俺たちの星は」



クロネ「宇宙でも、弱いけど美星な星って

言われてるから…」



拓海「へぇ〜星ってどうやって会話するの?

生体信号…的な?」



クロネ「そんな感じ…まぁ言われた事は

一度もないですけど」



拓海「ん〜(え嘘なの?) 地球育ちだから地球が

美しいって、やっぱり思っちゃうよなー」


「美人な星の基準って何?」



クロネ「環境お肌が整っていて、生活が

安定してる事かしら」



拓海「むちゃくちゃ美人じゃん」



クロネ「そうね、そうなるわ」


拓海「なんだ、言わせたかっただけか…」



「話し…戻すけどさ…準備って、何すれば

良いんだろう」



クロネ「何かする…とかは無いと思う。

貴方は貴方で在れば良いから…」



「でも…闘う事にはなると思う。」


拓海「戦争…やっぱり俺も戦うのかな…」



クロネ「考えられる事が多くて、予想を

絞れないけど…、一つ目の理由はそれだと

思う。正確には闘いで…肉体と言う器から魂を

解放させるために。」



「ここには肉体を消失させる程の力を持ち、

争いの種を撒く種族がいる」



拓海「でも星使者は死なない

例え意識が戻らなくなっても…」



クロネ「肉体は維持されたまま…だから

貴方は肉体と精神、魂が切り離される

瞬間が多く訪れる。」



拓海「つまり死ぬことが多いと…」


死んでから蘇る際、不思議な感覚がある。

何かに挟まれるような、広い空間にいるのに

自分はのだと…悟る。


きっとそれは《死と生の隙間》、死んで蘇る

と言う星使者でしか知れないモノ。


生と死の狭間にいる瞬間、魂は肉体と精神から

離され…そして俺はその切り離される感覚を

魂に刻み込んでいく。



クロネ「星ノ空、星や宇宙が決して届かぬ

場所。果てしなく距離があるのか…、

それとも物体が干渉できないのか…」


「どちらにせよ、肉体や精神、記憶から記録

に至るまで、消え去らければ辿り着けない…」



クロネ(生命は望んで運命に進んで行く、

彼が魂だけになった時点で空間に

触れること無く

空へ跳んでいく…いえ、なった時点で

星は空を見上げる事になる)



拓海(命を落とす場面に立ち会い易い上に、

生命としていられる時間も限られる…)



拓海「人間らしい事…しないとな…」


と言っても、する事は今までと何も

変わらない…いつも通りの暮らしをすれば

良いのだが…


「どうせなら…思い出作り…を何か…」



クロネ「そういえばまだ、決めてなかった

事があるじゃない」



拓海「え、何だ?何かあったっけ……」



「あーそういえばまだシオンに何させるか

決めてない」



クロネ「罰ゲーム、やらせるでしょ?」



拓海「もちろん」



クロネ「思い出にするなら…目の保養になる

物がいいんじゃないかしら」



拓海「ほう?つまり?」



クロネ「ユウカの服も新しく用意しないと

いけない訳だし…とびきりのを着させて…

辱めましょう」



拓海「天才…だ」



クロネ「素材は用意出来るから…直ぐにでも

作りましょう」



拓海「有能、流石。」



こうして、生きてる内にする最初の

思い出作りは、シオンを玩具にすることが

決まった。


原初の二妖精に、これから起こる戦争に、

他にも厄介&死にイベントは盛り沢山…

幸先良くするためにも

息抜きと験担ぎも込めて、シオンさんに

着てもらいましょう…


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