第15話 喪失者

運命を信じていた。


この人との出会いはきっと運命だ。


自分は将来、こうなるんだ!


そんな理想を押し付けていた。



それらは皆、押し付けた理想だったが、

年月が経って、全てのことが巡り合わせた

運命なのだと知った。


どんな小さな事でも、どんな些細ミクロ

出会いさえ、自分の中にある運命なのだと…。


もし自分の運命を知ることができたなら…

知っていたなら……人は、自分はどうする

だろう。


人生を謳歌する者、不自由なき者、

縛られる事を嫌う者、そんな人達は知ることを

拒むかもしれない…。


不安する者、焦る者、より良くしたい者は

知ることを望むかもしれない。




自分はどうだろうか…。


決まっている…

答えはどちらでもない、正確にはどちらでも

いい。


金、力、地位名誉、持ち合わせている物は

無いが不自由無く人生を謳歌している。

が拒むことはない、例え残酷な運命

だったとしても、俺は受け入れる。


クーシー程、行き過ぎた行動に走ることは

無いが…自分も

悲しみや悲劇もまた尊い物と認識している、

それは自分の運命も含めて…。


シオン「アンタに解るの?彼の「魂」が」



フェアル「馬鹿の発言はもういい…、



シオン「っ!馬鹿って……て、そうだアンタが

知れるのはだけじゃない」



フェアル「扱いづらくて困るよ…そのくせ、

何かと僕の運命に絡むのだから嫌いだ」



シオン「私も、アンタの介入で役目をこなせずにいて迷惑」


タクミ「で、過程だけって言うのは?」



シオン「フェアルの「命路」は人生を

飾る、ではなく

結末までの運命過程を決めるの。

明確に運命を変える訳じゃない」



フェアル「星使者に限った話しだよ。

他であれば運命を丸ごと変えられる……」


「それに大事なのは決めることより、

視えることだ」


「凪星 拓海と言う男の結末…

正しい運命の最期を僕は知らない…、が

在り方が視える事には変わらない」



タクミ「一応、頼みとやらを聞いても?」



シオン「廃人病と石化の元凶である妖精…」



フェアル「可愛い二人の妖精の救出を是非

君に」



タクミ「えー…、何で?」



フェアル「昨日はクーシーがお世話になった」


「クーシーを殺さず、意思を取り戻して

くれた君なら、同じ理由に苦しむ妖精も

救ってくれると、踏んでね」



タクミ「殺せずじゃなくて、殺せなかった。

それに意思を与えたのは俺じゃない」



フェアル「星ノ器…あれは君のだろう?

君が動かしたんだ、君の力と言って良い」


「あれは器、空の存在だ、触れられた魂

(在り方)に反応して都合のいい形となる、

そもそも触れられる事がおかしい話しだ」



「君の運命がクーシーを救った。

だから僕は君に



タクミ「……。」



救う…。

誰かを救う存在、なれるのなら成りたいに

決まってる、それが夢だから。


星だろうが、妖精だろうが、救えるのなら…

だがって一体なんだ…。


何をすればいい……どうすればいい……



解ってる、救われる事は無い、

誰か救う英雄にはなれない…。



タクミ「俺に誰かを救う力は無いぞ」



フェアル「心配ない、君は救う。」


「依頼や交渉なんて言葉を並べたが、

ここに来たのは忠告と、王としての弁えだ」




「凪星 拓海、

そこに私の介入は無い。そして、一匹残らず…だが救われるべき…

救われなきゃいけない者達がいる、

それを君は救うんだ。」



どれだけ足枷過去が重かろうと…

君は救う。」


シオン「言いたいことは言ったわね?」



フェアル「あぁ言った…」


「王としてでは無く、

フェアル・プネウィマとして会うのは次で最後だ」


「またね、救世主…次は星が見える空に」



そう言って、妖精王は目の前から消えた。



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路地裏を抜けた後…

宿屋に戻るためシオンと二人並んで歩いていた


結局、フェアルが命路によって変えたのは

あの路地裏で会う運命のみで、

その先の二人の妖精を救う運命に、

フェアルは関与していないらしい。



タクミ「戦争…起きるんだな」



シオン「えぇ、妖精に対する積もり積もった

感情と…戦の準備期間を考えれば、

七年後に…」



タクミ「残りの二人の妖精について

詳しく」



シオン「クーシー、プシユ、アグル、

2000年前、人に感情を与えるため

生まれた妖精。」


「妖精という名を与えられた星使者三匹は、

とても勤勉で役目を果たしてた。」



「彼らは多くの犠牲と生命を育んだ。

悲しみの苦しさ、喜びの尊さ…それは

知恵や感情、意志となってやがて王国を作った」


「王国リーセイ。人と妖精と竜とが織り成して

できた国。新生1997年……三年後には

創立2000年の記念日がある」



「国ができてから、人は成長に

向かって進み続けた。人が増え住む場所が

広がった事で法律ができた。律すること、

禁ずることで効率的に、人と国の進化を

目指した。」


「知恵、感情、意志によって効率意思と

自己意志が生まれたから…。」



「三匹は三人になった。感情を与える者も、

共に感情を育んだから…。三人は人に

なってからも妖精として働いた。」


「増え続ける人間に、平等に公平に

感情を与えるため、自分達を増やした。

何人も何人も、人と同じ形をした妖精を

増やして素の自分が




シオン「長い時と自身をすり減らし摩耗

した事によって三人は意志、記憶、感情、

を失った」



(感情を与える役目が感情を失わせた…か、)



タクミ「皮肉な話しだ…」


シオン「そうね…」



タクミ「因みにフェアルの言ってた

救われなきゃいけない…って、どういう

意味合い?」


シオン「さぁ…、三妖精の未来の在り方

でも視たか…、

哀れに思って助けてやりたいとか…、

どちらも有り得るわ」



タクミ「そっか…」




-----------------------------



ユウカ「おかえり、お散歩楽しかった?」


タクミ「んー楽しかった、街並みが

良いなって」



「触れられた魂(在り方)に反応して

都合のいい形となる」



タクミ「…………。」



ユウカ「どうしたの?」



タクミ「ユウカは困ってる人がいたら

どうする?」



ユウカ「?助けるよ?困ってる人がいたの?」



タクミ「うん…、でも助けられるか

分からなくて、」


「クーシーみたいに、困ってるけど、

他人も困らせる人みたいで……」



ユウカ「なら全員救おう?私協力する」



タクミ「……。」



ユウカ「大丈夫?気分悪い?」



タクミ「大丈夫、ユウカは俺が憧れた人に

似てるなって……」



ユウカ「憧れ?」


タクミ「そう憧れ」



当たり前のように、助けると言える優しさと

多くを知らない無垢な姿が、

見えないあの背中に似ている。


俺はずっとその背中を追って、過去後ろ

見てばかりだ。


(英雄になるって…決めたのにな…)


いまいち自己評価が低くて弱気に

なってるな……。

英雄…、誰かを救う存在に、憧れと同時に

強いコンプレックスを抱いているせいだ。


(冷静になろう…)

ユウカの顔を見て、自分が思う

凪星 拓海の在り方を思い出す。


「君は星を絶やさないための存在だ、」


「魂っていうのは運命の導線。

その運命結末になるように肉体と精神を

作り、逆に肉体と精神の機微な変化で

形を変える。」



「生命は望んで運命に進んでいく、血筋や

生まれ、名前や出会い、それら培った

感性、その全て「凪星拓海」を必要として

貴方がここにいる」



「空、綺麗だな…(上を見たら空があって

星がある)」



「夢が星使者になった理由…か」



「星にとっての空は何処にあるんだろう?」



「あの空みたいになりたいな…」



拓海「あぁ…そうか…」



ユウカ「主?」



拓海「ユウカ、脱いでくれ」



ユウカ「え、えェ?えっち?!」


拓海「そのジャージ、俺の心持ちの

ために必要なんだ」



ユウカ「わかった、主のために脱ぐ…」


ユウカはファスナーに手をかけ

ゆっくりと下に下ろしていく。


シオン「ねぇ君、何やってるの?」


拓海「ジャージを返してもらおうと思って…」


シオン「胸を揉むだけじゃ飽き足らず、

今度は未成熟な子供に手を出そうって?」



拓海「単にジャージが無いと落ち着かない

んだよ…気弱になる気がして…」


シオン「それだとユウカが裸になるでしょ?」


ユウカ「私はいい、主の言うことは聞く」


拓海「代わりの服、用意するから」


ユウカ「主と同じの、無ければコレは

主に貸すだけ」


拓海「わかった、後でクロネに頼んでみる」



シオン「脱ぐならせめて後ろを向くか、

目を隠すかしなさい変態!」



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日もくれて、すっかり街が寝静まった頃…。

夜空を見たくて、

静かに宿の外に出る事にした。


「……。」


まだ親しくない道を真っ直ぐに、

ひたすら思うままに進んでいく。


酒飲みが夜遅くをふらついていたり、夜警の

仕事をしている兵士が

歩き回っていたりするが、

基本、聞こえるのは自分の足音のみだった。

どれだけ静かに歩いても、

周りの静かさに、自分の音が浮いて目立つ。



夜の散歩にも、懐かしさを覚えながら

開けた公園のような場所に辿り着いた。



拓海「……。」


クロネ「……、」


そっと、隣に座るクロネ。

約束をせずとも自然と同じ場所に足が向く。



クロネ「隣いい?」


拓海「もちろん」



「……。」


「………」「………………。」



クロネ「気付いたのね」



拓海「クロネは?」



クロネ「貴方と同じタイミング」


「……」


「……」


「………………。」




拓海「星…綺麗だ」



クロネ「えぇ」


「……」


「………」



拓海「クロネ…俺…」



クロネ「嫌…」



拓海「……、」



クロネ「嫌よ…行かないで…」



拓海「……」



クロネ「気付いたら…その道に進むじゃない」


「どうして地球わたし理想アナタを求めてしまったの…」



拓海「俺は…あの星のように輝けないんだな」



クロネ「………。」



タクミ「路地裏に連れてこられた時に

思い出した。《運命に気付く感覚》を」



星空を見て思う…

あの日の空もこんな星がみえていたな…と


己が運命を体感したのはこれが

初めてでは無い、あの日自分の夢でも他人の

夢でも無い、奇妙な夢を抱いた。


それが星ノ夢。

凪星拓海の在り方、なのだと確信した。



拓海「妖精王がヒントを与えすぎた…」



クロネ「シオン程で無いけど…フェアルを

嫌いになりそう」



拓海「俺は感謝してる、ここに来てから

自分の在り方に自信を持てなかったから…」


「ようやく、本当の在り方に気付けた」



クロネ「私が…星が望んでしまったから…

貴方の夢は叶わない…私のせいで…」



拓海「なれなくても…夢は見続ける」


「君のお陰で夢を見る事ができた…

俺は十分……夢を見れた……」



クロネ「私の願いで辛い過去を…」



拓海「それでも幸せだと感じてる…」



クロネ「進むのね…」



拓海「気付いたからね…納得もしてる」


ここに来るまでの18年間は

魂を育むためのもの…


そしてここに来たのは実現するための

運命過程をこなすため…。


ここがスタート地点、

人では無く星使者として生き、そして

結末へ行くための。



クロネ「私は都合のいい貴方が好き。

星のためにしか生きられない貴方や人間が」


「私は星の都合でしか貴方を愛せない…けど

確かに貴方を愛している」



拓海「うん」



クロネ「拓海…、貴方が人で無くなる

その瞬間まで同じ時を過ごさせて欲しい」



「憧れでは無く、人であった貴方を

見届けて……そして愛したい」



拓海「俺も…君を生命としてでは

無く、心ある者として見るよ」



告白だった。

俺は彼女ほしを愛していて、

彼女も生命おれを愛していた。

夜空の下、その事実だけを口にした。


そう、ただの事実…つまらない真実だった。


生命は都合の良いものが好きだ、

人も星も……、


恵を与え生かしてくれる彼女ほし

誰しも愛す。


望みを叶えるため、必死に生きる

誰しもを彼女ほしは愛す。



夢になってくれる俺を彼女は愛す、

夢を見させてくれる彼女を俺は愛す。


愛を知っているのに、その愛は

与えられた物以上に決してならない。


だから告白した、

例え運命で決まっていても、

ほんの少しだけいい…

都合とは関係なく愛したいと。



凪星拓海はこの星から喪失する運命にある。

肉体も精神も、記録も記憶も……

そう在るために、彼は人で無くなっていく。


それを地球かのじょは望み、

彼自身も望んでいる。

だから愛そう、愛したいのだ…ただ愛のために


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