第14話 命路

気持ちのいい朝を迎えた。隣りのクロネは

静かに眠り落ち、

代わったシオンと朝の挨拶を交わした。


あ恥「おはよう…」


タクミ「おはよう、いい夢見れた?」


あ恥「私夢なんて見ないけど…じゃなくて、

ごめんなさい!大変な時に…」


タクミ「いいよ、元々朝晩入れ替わりで

クロネの出番だった訳だし」


あ恥「けれど私…」


タクミ「シオンさん、ほら名誉挽回、まだ

大丈夫だから、切り替えて…ね?」


「子供たちをまとめて輪廻界変チェンジリングでさ…」


シオン「そうね…私、記録体だし…万能ですもの?ぴょいと送り届けてあげる」



タクミ「まだ朝早いけど、子供達を起こして

連れて行こう」



シオン「待って、その事だけど、三つの班に分けて送り届けましょう」




タクミ「?その心得は?」


シオン「クーシーに怯える子がいるのが一つ、クーシーには大人達の方を送ってもらう。」


「二つ目は君の干渉できない性質。

クーシーは感覚でやってるけど、輪廻界変は

転移先の座標や物質の情報を正確に把握

しないといけない」


「一緒に跳べば君を変な場所にとばしたり、

転移先で粒子がバラバラになって殺しちゃう」



タクミ「星使者だし、いいんじゃね?」



シオン「変に形が残ったら血肉が散って

子供にトラウマ与えるでしょ!?バカ!」



タクミ「ごもっともです、すみません」



シオン「君とユウカはキサツキ区周辺の子を

送り届けて、

その子達の家を印した地図を…はいコレ」


そう言って、赤いバツ印の入った

リーセイの地図を渡された。


タクミ「ありがとう」


地図を手に持ち出立することをクーシーと

ユウカに伝え、子供達を起こして行く。

どうしても起きない子は

シオンが送ってくれると言ったので

任せる事にした。



シオン「一応、記録把握してるから

何かあれば直ぐに行く、終わったら手伝う

から…また後で」



クーシー「では…」



タクミ「出発しようか」


ユウカ「うん」



タクミ「さて皆んな、今からお家に帰るけど

迷子にならないようにね」



女の子A「お家に帰れるの?」


タクミ「そうだよ、皆んな自分の家分かる?」


男の子A「俺わかるよー」


女の子B「私、分かんない…」


タクミ「えっとぉー…君の家は…あったよ、

ほらコレ」


ユウカ「お店いっぱい」


タクミ「酒場が二件並んでて…

こっちは服屋…防具屋…一直線に進んで…

今いる場所はココ」


地図に指差し現在地と目的地を確認していく。



女の子B「私分かったよ!ここ通ったことある」



タクミ「おぉ、ほんとぉー良かった。

皆んなもコレ見て分かるかな?」



男の子A「俺にもみせてー」



タクミ「どうぞ〜」



男の子C「俺ん家にもこんな地図あるよ」


タクミ「お、じゃあ直ぐに分かるかな?」


女の子A「わ、わたしも…」


タクミ「こっちおいで」


女の子A「ありがとう」


女の子と位置を変わり、

遠巻きに必死に地図を眺める様子を見て

微笑ましいと感じる。


「兄ちゃん!」


振り向くと昨夜話した少年が後ろに

立っていた。

(この子は確かコリウの方だったはず…)

少年の後ろを覗くと、こちらを見て待機する

シオンの姿があった。


男の子「あの姉ちゃんに待ってもらった」


タクミ「そっか…それで?」


男の子「兄ちゃんの言ったこと…まだ分から

ない……けど、考えてみるよ」


「幸せが何なのか…子供なりに何が出来るか」



タクミ「そっか、自分とお母さんを大事にね」



男の子「兄ちゃんも元気でね」



少年と拳を合わせ最後の別れをし、

クーシー、シオンは共に転移、俺とユウカも

街に向かって歩き出した。


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女の子A「じゃあね、バイバイ」


ユウカ「バイバイ」


少女の母「本当にありがとございました。」


少女の父「何とお礼を言ったらいいか…本当に感謝します」


タクミ「いえいえ、偶然見つけただけですのでお気になさらず」


シオン「ギルドへの依頼報告、お忘れなく、

お礼でしたら探してくれた方々にとって置いて下さい」


父・母「「本当に助かりました」」


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男の子「母さん?母さん!」


母親「もうどうしたの、そんなに抱きついて…」



クーシー「…。」


男の子「っ!お前!!」

「何のつもりだ!」


クーシー「君に謝りたいと…申し訳ないと

思って」


男の子「ふざけるな、母さんにおかしな事して

おいて!」


少年はクーシーの胸ぐらを掴むと

顔面に拳を振る。


母親「ちょっと止めなさい?!いきなり

そんな…失礼よ」


男の子「また何かしたのか?お前の都合の良いように母さんを!」


母親「止めなさい!!その人は助けてくれた

恩人よ」


男の子「恩人?!コイツが、人攫いをして

母さんをおかしくしたコイツが!」


母親「何言ってるの?おかしいのは今の

アナタよ。お母さんどこもおかしく無いわ」


男の子「だって母さんは…」


母親「あまり困らせないで」


男の子「っ…、……。」


クーシー「っ……すまない」


母親「いいえこちらの方がご迷惑を…、

助けてくれて感謝します」


「……。」



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無事に子供達を送り帰し、

ようやく一件落着となった。


ユウカ「これからどうするの?」


タクミ「ん?んー……」


シオン「もしかして忘れた?ここには

王都の様子を見に来たんでしょ?」


タクミ「そうだった」


一日の内容が濃くてすっかり忘れていた。


タクミ「でも村長…王都にも関所がある

みたいな話し、してなかった?」


シオン「あー城中心部の高級街の事ね、

ここキサツキも王都な訳だし問題無いわ」



タクミ「ならとりあえず街の観光かな?」



シオン「えぇそうね、宿を先に取って

しまいましょう」




タクミ「金銭は…」




シオン「私が出す。今回は目をつむるけど、

今回だけね」


とシオンさんの計らいで

宿の部屋を借りる事になったのだが、

一週間分の金額を用意してくれた

らしく、しばらくこの宿を滞在拠点として

過ごす事になった。


まぁ一週間後以降は金を払えないため、

これからのために仕事をしなければいけない

のだが…。

冒険者の仕事って報酬美味いの?

討伐とか、一応命を懸ける仕事だし

公務員の年収くらいありそうだけど…


シオン「君たち、ギルドまで行って

なんで会員登録しなかったの?」



タクミ「え?働きたくないし…クロネは絶対

働かなくて良いって言うだろうし、いいか

なって…」




ユウカ「ベッド…ふかふか…」



シオン「クロネは君を甘やかしすぎ…」



タクミ「いやぁそれほどでも…」



シオン「君じゃない、褒めてもない!」



ユウカ「主、ベッドは至高…とても眠くなる」



タクミ「そう…ね…」

昨日は一日寝てないから…疲れ…が…


程なくして意識は微睡みに落ち、

そこから目覚めたのは昼を過ぎた頃だった。


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目が覚めてから街の様子を見に散歩をする

ことにした。

商人には何度も声をかけられるが、

一銭も無いため、特に反応することなく

景色を眺める事を楽しむ。


懐かしい…最近は無かったが、理由もなく

平日、休日、昼夜関係なく散歩をしたものだ。


(あっちに行ってみるか…。)


少し狭い路地裏、進むほど入り組んで

迷ってしまいそうだが、もし帰れなくなっても

シオンに迎えに来てもらおう

という考えで、躊躇なく探索することが

できる。


ありがたい話し、外へ出る時はなるべく

物を持ちたくないのでいつも財布と

携帯のみを持ち歩くのだが、その二つも

正直邪魔に感じるため、

GPSにも移動用にもなるシオンさんは

正しく万能、女神、猫型ロボット。


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しばらく歩いているが、表の通りに

出ることができない、

どうやら迷ったようだ…。

迷った、という表現より感じ…。

自分の意思のような、誰かの意思のような…

実際、通った道も覚えているし、

賑わう声や騒々しい音のする方へ進めば出られると頭で分かっているのに

自ら進む道を迷路にしている。


「生命は望んで運命に進んでいく」

これも運命に関係する事なのかな…、

だとするとコレは

迷路と言うより命路めいろって感じかな…。


シオン「見つけた、行くよ」



(シオン?)

駆け去るシオンの後を無言で付いて行く。


シオン「面倒なのに絡まれた…もう!君ってば本当に干渉しづらい」


状況は分からないが、俺の性質で跳ぶに

跳べないのでご立腹な様子…。


「クロネはまた報告してくれないし…って

既に手遅れ…か」


二人同時に、動いていた足が止まる。

ここで止まろう…そんな自分の意思で行った

行動のような、何故か止まってしまった

ような不思議な感覚…。


もちろん止まった場所やその先に気になる物は

一つも無い。


???「面倒だとか手遅れだとか…まるで疫病神

みたいだね」


そんな言葉の後に曲がり角から

声の主と思われる《妖精》が現れる。


(妖精王…。)


目にした瞬間、相手が普通の妖精では無いと

悟った。

着ている物や風格が王のそれ…

中性的な見た目、生まれた赤子のような綺麗な肌に、羽の生えた背中、そして瞳や髪は虹のように輝いて透き通って見える。


フェアル「悪い印象じゃなくて良かったよ」


(クロネと同じ…)


フェアル「いいや?近いけど…、

僕のはただ視えるってだけさ」


「ちなみに男だと思うかい?女だと思うかい」


タクミ「……。」(一人称が僕なら

ボクっ娘がいいなぁ)



フェアル「そうか女が良いか。なら僕も

妖精達に習うとするかな…。」





「……。どうだろう調整してみたのだけど…

と言っても元々、女々しい姿だったか」



シオン「ねぇ君、私の視えない所で何考え

てるの」


タクミ「紳士としての常識を少々…」


シオン「ホルモンバランスの変動…、肉体を雌型の使用に……女性になった目的は何?」



フェアル「凡愚…ね、これと同格扱いの

私が可哀想。」


シオン「凡愚?万能の間違いでしょ?」



フェアル「そうか一応そうだった、全能の僕からしたら、万能なんてたかが知れててつい…」



シオン「煽りのつもり?」


フェアル「煽りに感じてるの?」


何やら険悪な雰囲気だが…知り合い…

なのか?星使者…つまりは星の子供、

その他 妖精も星使者ではあるが、特例っぽい

二人は距離的に姉妹きょうだいか従姉妹に

中るのかな?


フェアル「そんな所、私は星ノ導体。

脳に信号を送るための導線みたいな者」



シオン「記録体、記憶体、導体の意思が揃うと、星に願いが行き届く」


「一人じゃできない権限も行使できるって

事ね」


三人が合わさり頭脳体になることで、

肉体を動かす事ができると…

仲の悪さは簡単に意思が揃わないよう

星が施したものなのかもしれない。


シオン「それで?性別を変えてまで

何がしたいの」



フェアル「頼み事をしたくてね。」



シオン「頼み事?性別を変える理由と

関係ないでしょ?」



フェアル「やっぱり凡愚だね。関係あるとも、人間は性的思考が過ぎるとそこに動く…」



「つまり異性の頼みに弱いってやつだ」



シオン「あんたに性的興奮なんて何かの

冗談でしょ?ねぇ?」



タクミ「いや?容姿完璧だし普通に…」


シオン「……。」

無言でシオンさんが

杖を突きつけてくる。


タクミ「下心はあるけど…厄介事は美人の

頼みでもちょっと…」

パンッ

(いてーぇ、普通に殴られた)



フェアル「タダでとは言わない、聞いてくれた

お礼はするさ…例えば…」


そう言うと妖精王は

両手を後ろに組み、微かに膨らむ胸部を

前にだして強調する。


フェアル「今はこのくらいだが、日を置けば

程よい大きさになる…礼は弾むぞ?」


タクミ「確かに弾みはあるな…(将来性も

抜群と…)」

「でも既に揉んだから報酬としては弱いよ?

悪いけど手伝えない」


シオン「何…やってるの?」


フェアル「タダで揉んでおいてそれは

無いだろ?」



タクミ「目の前に報酬ぶら下げてたら、

奪われるのは世の常よ」



フェアル「なるほど、まんまと初めての

パイ揉みを捧げてしまった訳だ」



タクミ「女体を使っての交渉はあまり期待

できないと思います陛下。」


フェアル「ふむ…では交渉相手の君は何を望む

のかね?」


タクミ「平穏です」


フェアル「ふんん…それはできないなぁ」



シオン「能力、既に使ったんでしょ?

茶番は辞めて本題に入って」



説明を求める顔でシオンを見つめる。


シオン「フェアルの能力は運命を望む形に

決める力…ここに来るのも、その頼みとやら

も既になんでしょ?」



フェアル「既に君たちは私の頼みを受け入れる事が決まっている」


シオン「こいつが決まっていた運命を上書き

すると挙動がおかしくなるのよ私…」


正しいものが謝った情報になり、

それを修正する際に対応が遅れるため

挙動不審になる…シオンが真に嫌う理由は

それか…。


(運命という路を決める…正しく命路…。)


フェアル「命路!良いね、気に入った」


「凪星 拓海、もし僕の頼みを受け入れ、また

解決できたなら…」




「魂の在り方、君の運命を教えてあげよう」

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