第13話 夢と薄明

クロネ「この子…どうしましょうか?」


それは攫われた子の内の一人の少女。


「この子、親から虐待を受けてたみたい。」


少女は輪廻界変チェンジリングで記憶を

失った一人なのだが、手足や体のあちこちに

痣が出来ていた。


クロネのどうしよう、というのはその記憶を

思い出させるかどうか…という事だろう。


タクミ「クーシー、この子の親は?」


クーシー「血眼になって探しているよ」


(そうか…。)


クーシーは大事な者の存在に気づけるよう

動いていた。

例え娘を何とも思わない親だったとしても、

心入れ替わっているのなら血眼に探すだろう。


それに愛そのものは確かにあるが

激情に流されて手を振るっているだけかも

しれない。

それはそれで問題なのだが、

愛がある分救いの余地はある。

いや愛があるから厄介なのか…?


真心あるのなら、この少女も親を親として

見ているはず………、


結局

どうするべきかの判断は少女本人につけて

もらうしか無いようだ。


クロネ「そうね、この子が決めるべきね」


この子が忘れる事を選んでも、向き合う選択を

選んでも、親自体が変わる訳では無い。

後手に回るやり方になってしまうが、

もしこの子の身に何かあれば、直ぐに引き取れる様シオンには優先的に記録様子

観てもらおう。


同じで無いにしろ、ここにはそういった

訳ありの親子も何人かいる。

一時の救いという意味では、クーシーは

確かに子供達を救ったのかもしれない。


俺は結局、どうしていれば

子や親を救う英雄になれたのだろう…。



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記憶を戻す作業は繊細で、失った子供一人

一人に時間をかけ手を施すクロネ。


記憶以外を入れ替えられた子供は

クーシーが再び力を使い、入れ替えられたモノを元に戻した。

妖精に近づいてはいけないと教える風習が

あるらしく、

クーシーを見て怯える子を宥めるのをユウカに

手伝ってもらいながら

時間は深夜を回っていた。


女の子「ココどこ!おか〜さん、おかあさん!」


ユウカと同じように昼夜を入れ替えられた子は

目が覚めたらしい。


男の子「うるさいなぁ」


男の子2「お腹空いた、」


知らない場所にいる不安や、長い間眠っていた事での空腹、その空腹や不安感からくる

イライラなど、それぞれの感情を抱く子供達。


クロネ「落ち着いて、お姉さん達は攫われた

アナタ達をお家に帰しに来たの。

夜は危ないから朝になったらちゃんと

送り届けるからね」


女の子2「ねぇねぇ、ここはドコ?」


男の子3「早く帰りてぇーよぉ」


これは中々…落ち着くまで時間が掛かりそうだ。


男の子「なぁ兄ちゃん」


タクミ「ん?どうした?」


男の子「オレは家に帰さなくていい」



タクミ「……帰りたくないの?」


男の子「オレは一人でいいんだ」



タクミ「……。」



「気を使ってる?親に。」



男の子「そんなんじゃない」



タクミ「君がいないと親は悲しむと思うよ?」



男の子「子持ちの女に男は寄らない」



タクミ「再婚か…」


男の子「前に家に来た男が…オレを見て、

嫌な顔をした…次の日母さんは泣いて…男は

それ以降来なかった。」


タクミ「それが君のせいだって?」



男の子「母さんお金に困ってて、いつも

オレのために頑張るからって言って…、支え

てくれる人も見つけるからって…」



確かに女手一つで子供を養うのは大変だろう。

子供は繊細で色んな機微に敏い。

そんな言葉を聞かされれば、子供というのは

気を遣い、自分が悪いんだと思い込んで

しまう。



タクミ「お母さんは自分の幸せを見つけたい

だけかも知れないよ?」



男の子「だったら尚更オレは母さんの幸せの

邪魔をしてる…オレは…帰るべきじゃない」



親子の関係について、俺が一丁前に言える立場

に無いのは解っているが……



タクミ「お母さんは不幸だなんて思って

無いと思うな」


「君が居なくなって、お母さんが男の人をつくったら…、もしそうなったら、

子供を失くして男を作る女…って君のお母さんの評判は悪くなるかもしれない…」


「君がいてもいなくても、お母さんが

苦しいと感じる瞬間はあると思うんだ。」



男の子「なら!…どうしたら母さんは苦しまずにすむんだ…」



タクミ「苦しまない、傷つかない…か…、」




男の子「母さんは、一人でも、苦しくても

ずっとオレを支えて頑張ってるんだ。

そんな母さんをオレは愛してるし、幸せに

してあげたい。」


(愛してる…か…やっぱり子供は純粋で

とても力に溢れてて、目が眩んでしまうな)


男の子と同じ目線になり、その目を強く見る。


「なら、君は母親の「子供」でいればいい。

家に帰ってお母さんの子供として

いつもを過ごせばいい。」



男の子「子供のままじゃ何も

してやれない」


タクミ「もし、それが歯がゆいと感じる

なら…二人の幸せを考えよう、

君と、お母さん二人の、今はそれで

良いはずだから。」


腑に落ちない様子の男の子の頭を撫でる。


「自分の幸せも必ずだからね。」



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全員の入れ替えが終わり、

夜明け前の僅かばかりの時間でクロネ、ユウカと共に休息を取ることにした。


タクミ「お疲れ、ユウカ…は寝てるのね」


クロネ「お疲れ様、眠っていたとはいえ、十分な休息では無かったでしょうし…器もまだ

未熟子供だもの、仕方ないわ」



タクミ「眠くない?」



クロネ「そうね、こんなに神経を使うのは

久しぶりだから…早めに交代してもらおう

かしら」



タクミ「本当にお疲れ様、ありがとう。」



クロネ「いぃえ、それよりさっきの会話…」



タクミ「あぁアレね、」



クロネ「同じ轍を踏まないようにって?」



タクミ「うーん、やっぱ自分は大事に

しなきゃね。思うようにいくものも上手く

いかないから」


-----------------------------

「ごめんね…ごめんね」


(ぼくがお母さんを……強くならなきゃ、

強く…強く…俺がこの人を…)


-----------------------------


クロネ「そんな大事にできなかった人が

今も昔も幸せだって、言ってるのは

どうなのかしら」



タクミ「ねぇ、どんな思考してるのかしら…」



「でも辛かった事も本当だから、やっぱ

あの言葉が適切だったよ」



クロネ「そうね…ありがとう。死なずに

生きてくれて」



タクミ「生きてるだけで感謝された?」



クロネ「地球わたし達の願いのために

辛いを思いをしながら貴方は「凪星拓海」と言う人になった。」


「都合の良い人間になるようにとは言え、

色んな思いを積み上げて生きて…その感性で、

幸せだ…地球ほしを愛してるって」



「私、割と真面目に好きななのよ?貴方の事」

「親愛や母性愛を感じるのも本当だけどね」



タクミ「俺を好きなのって運命がそう

させるから…だよな?」



クロネ「そうね、私は本心のつもりだけど

星が都合良くそうさせるのかもね」



タクミ「都合ね…宇宙についての話しとか

聞くと、地球って人間に都合が良いよなー…

人間も星からしたら都合が良い存在なんだろうなぁ〜なんて、思うけど」



クロネ「持ちつ持たれつね」



タクミ「星のためになる役目って何だろう?」



クロネ「魂の在り方…未だに謎のままよね」



タクミ「星使者に選ばれた理由が分からん…」



クロネ「そう?選ばれるべくしてじゃない?」



タクミ「他に適任者いるよ〜、ほら…」



クロネ「それは無い。偉人や有名人…、

星使者だったとしたら、それこそ

その瞬間が役目を果たしてる証じゃない。」



タクミ「確かに…」


時代、文化を築く。

その先の者の

道を作るというのは確かに類のない役目かも

しれない。

時代を築く者の魂は死んでも尚、誰かの

胸の内で生き続ける…、余計に選ばれることは

無いのか…。



「でも人知れない所でも俺より秀でた人って

山ほどいるし…」



クロネ「星使者は秀でた人間じゃなくて

条件の合う人間がなるもの」


「生命は望んで運命に進んでいく、血筋や

生まれ、名前や出会い、それら培った

感性、その全て「凪星拓海」を必要として

貴方がここにいる」



タクミ「条件か…星は俺に

何を求めてるんだろうな……」



クロネ「さぁ、貴方に求めるモノは解らない

けど…貴方を求める理由はコレかなって言う

のが一つあって……」


タクミ「ほう?」


クロネ「英雄願望があって星を嫌わない所」



タクミ「うん?」



クロネ「?ピンとこない?」



タクミ「そういう願望がある自覚は

あるけど…求める理由?って感じ」



クロネ「この世界、英雄が存在しないの。

童話、伝説、伝承…そういうのは一切…、

勿論そう呼べる人材も…。だから

それを望む人は適任なのかなって」



タクミ「マジか、ヒーローごっことか

子供しないの?!」



クロネ「しないわね」



タクミ「えぇー…」



クロネ「だから貴方が最初の英雄…かもね」



タクミ「夢が星使者になった理由…か」



クロネ「夢も己を形作る大事な要因、その魂を色付ける物と考えれば十分な理由よ」



星が求める人の夢…か…

英雄をこの時代で星が求めてる?


それが事実なら…

やはりそれだけが、いつまでたっても

判らない。


見上げた空は微かに星を残し、

静かな夜明けを迎えようとしている。


(英雄になるのが俺の目的なのだろうか…

それは彼女クロネや俺の願望であって…)


ただの願望でしかなくて、

まだ見えない地球ほしの願いが、この空の星のように隠れているのかもしれない。


(自分の運命ありかたを理解する日は

来るのだろうか…)


そんな事を思い、

薄明の空に風を吹かれ朝日を待った。

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