第12話 器の力

クロネ「星使者は死の運命

から回避するように事が運ぶ、と言う意味合い

での不死なの。」


「それでも何か身体に大きな損傷が見られた

場合、自動的に蘇生されるけれど…」


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星使者は死ぬ事が無い。

どれだけ死に近い状況、状態にあっても

一命を取り留める。

だが星使者も一つの「‪生命‪‬」だ。

‪”‬命‪”‬の枠に収まる以上その構造が‪破綻すれば

その結果は紛れもない「死」だ。


死を回避し、意識を絶っても蘇生を果たす。


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タクミ(マジか……)


俺が負わせた傷が死に至るものだったかは、

正直分からない。

けれど間違いなく、クロネの魔術は

復活不能な状態まで追いやった…。


なら何でアイツは、クーシーは生きている?

星使者っていうのはそこまで

死から遠い存在なのか…。



(星使者ってリポップするのか……)


クロネの助力込みでの殺傷、

妖精にも防衛本能はある。

もう一度刺されて欲しい、出来れば死んで欲しいなんて要望が通るはず無い。


相手が油断しないんじゃ俺は本当に無力だ。

俺にも唯一、言葉という魔法を使えるが、

話し合う余地はもう無いだろう。


使う言葉が同じでも、解釈の仕方、本質の見方

が違うのだ。

互いに理解するが相容れない。


悲しきか喜ぶべきか…、進化のため、選択と

多様を求めた結果が争いになるのだ。


クーシー「彼女(クロネ)は厄介だよ、殺しも

逃走も、追放も効かない。」


クロネは輪廻界変チェンジリング

別の場所へと跳ばされた。

だが、シオンの記録を再現する力なら、

恐らく‪”‬輪廻界変‪”‬でさえ使え、そして瞬時に

戻る事が出来る。

クーシーが逃げても、記録体のシオンの前では

位置情報は筒抜けだ。

クーシーが

ここで迎え撃つ理由は、迎え撃つ他無いから。



クーシー「‪”‬妖精王‪”‬には悪いが…私に

助力してもらおう」



タクミ(妖精王…)


クロネ(タクミ、そっちに戻れなくなった)


再び耳の辺りからクロネの声が聞こえる。


タクミ(無事か?跳んだ場所は?)


クロネ(無事よ、跳ばされた場所はフェアルの

王宮…妖精王は私でも手を焼く、援助できそうに無い。)


タクミ(そっか…)


クロネ(タクミ、相手は心を摘もうとしてる。

どんな結果を生んでも、それは貴方の責任じゃ

ないから)


タクミ(……ありがとう)


心を摘む……、クーシーが持つ輪廻界変は

規格外の強さだ。

風穴を開けられたあの一瞬…、あれだけの時間

で簡単に俺を殺せただろう。



クーシー「さて、君と私は星使者だ。

互いに譲れぬのなら、心を折るか、

殺し続けて運命を測る他無いのだが?」



「くっ…」

額に汗が滲む、折れた骨は未だに元の形に

戻らない。

何か出来る訳でもないと理解しながら

必死にこの身体は目先の妖精を止めようと

地を這う。



クーシーはスっと右手を出す。

向けられた手の先に居るのは沢山の子供達だ。


「私が与える教訓は人にのみだが…知ってもらうとしよう、一人の意志が招く尊き犠牲を」



「ねぇ、どうして人に感情を与えるの?」


クーシーの右手を掴み、表情無く問いかける

ユウカ。



クーシー「そうするのが役目だからだよ」



ユウカ「そこに貴方の意思は?」



クーシー「そこに理由なんてないよ

そうするべきだからそうする。」



ユウカ「そう…貴方には資格が無いみたい…、」

「その力は地球ほしの物、返して

もらうわ」


その言葉を口にするユウカは理知的で、

幼い容姿とはまた違う面、星ノ器という

神秘的な存在として目に映った気がした。



クーシーの右手から、気のようなオーラのようなものが抜け、ユウカの元へ吸われていく。

その時クーシーは

もう輪廻界変を使えないのだと

直感した。


クーシー「私は…、ワタシは…そうか…。」


そう呟きながらクーシーの顔が徐々に曇って

いく。


「いし…意思か、私は…何と愚かな…」



クロネ「二人共」


ユウカ「クロネ…あっ主ー!」


移動して来たクロネと今思い出したと

言わんばかりのユウカ、二人が俺の元へと

駆け寄る。


直ぐさまクロネに治癒を施され、骨折した部分は回復し無事に立てるようになった。


ちなみに、治癒に関してだが、

怪我を負った時よりも治癒による身体の痛み

の方がよっぽど痛かった。

やはり壊れた物を直すのが難しいのは

この世の摂理なのだろうか。


クーシーの戦意が無くなって、安堵による

アドレナリンの喪失も痛みの要因だろう。


タクミ「クロネ…」



力を奪われたクーシーは頭を抱えその場に

膝を着いている。


クロネ「後悔…クーシーは「新生」し、

自分の意思を獲得した。」

「今になって自分のした事を悔いている」



クーシー「私は…知っていて…知りながら

この選択を選び続けてしまった…何故だ…」



クロネが言っていた。

妖精は感情の区別はあれど、差異は無い…と、

つまり人の感情を理解するだけの「心」が

妖精にも存在する。



失う事は悲しい、奪う事は悪く見える。

人は楽しい事や良いことをする。

それは妖精も同じ、だから後悔している。

選ぶ事をせず、ただ思うままでいた自分クーシー、やり方を選べず、悲しみを進んで望んだ事を。


クーシー「なんて…何て愚かなんだ、」


哀れだと思うのと同時に、胸に少しの痛みを

感じる。

結果として言えることだが…、ユウカの力を

始めから使えば傷付ける必要は無かった。


クーシーが感じている痛みがそういう物で

無いとは言え、申し訳ない事をした。


罪人とは言え俺がしようとしたのは殺人だ。

決して褒められた事では無いが…

クーシーは「星使者の役目」という大義名分の元

確かに人の未来を思って行動をした。


この件で実際、町中の者が子育てや子に対して

の考え、そして子供達を成長させるだろう。


俺も犠牲なくして世界が成り立つとは

思っていない。

クーシーの行為に一理の理解を示しつつも、

出した答えは存在の否定しか無かった…、

その上ほとんど無力に終わった。

いや、あの時確かに子供達は殺され

そうになった……無ではなかったか…、

(でも、護れたと言う事実も実感もない)



あの男の子の母親や、眠りについたままの

子供達の方へと歩み寄る。



クロネ「記憶を‪”‬新しく入れ替える‪”‬

悲しみのため、クーシーが行なった物」


タクミ「戻せないよな…それ」


‪”‬新しく‪”‬という事は出会いや思い出も

何も無い状態にリセットされたという事だ。


クロネ「人によって世界の見え方は違う、

私の解釈が入る以上完全には」



タクミ「それでも頼める?」



クロネ「ええ」



逸れたユウカに再開し、誘拐犯クーシーを静止する

事はできた。しかし問題はこれから、

先ずは記憶や、それ以外にも入れ替えられた

モノを元に戻し、ここにいる人を

元いた場所へ帰さなければいけない。



ユウカ「貴方はどうする?要らないから

返すけど…、」



クーシー「私は…」


--------


タクミ「なぁクロネ、」


クロネ「罪人として捕らえられた妖精は、

慰みものになるか遊び道具になるかの二択ね」



タクミ「そっか…ここは任せた」


記憶を無くした人達をクロネに任せ、

クーシーの元へ近づく。


「ユウカ、能力を返す事は出来るか?」


ユウカ「もう返したよ」


タクミ「そっか…ありがとう」


「… ……、クーシー」



クーシー「愚かだったと…申し訳ないと

思っている」


タクミ「君に死んで償うという選択は無い。

子供達を帰すのを手伝ってもらう」



クーシー「今回だけじゃない、今までも…

ずっと…命をもて遊んだ事もあった…」



タクミ「後悔があるならそれで良い、役目を

果たすその日まで、罪を背負え。」



「クーシー‪”‬ここから選べ‪‪”‬、ここから選んで

いくんだ。」



クーシー「ここから…」



タクミ「今更許されないんだ、許されない

まま人の為になる事をしろ」



クーシー「許されず、罪を背負う」



タクミ「人の為に、が一番ね」



クーシー「あぁ、そうしよう。そう…させて

もらおう。すまなかった、そして…感謝する」




こうしてクーシーと共に

子供達を送り返す事になった、

この後無事送り届けたあと

厄介な相手に、厄介な頼みを受けることに

なるのだが、それはもう少し先のお話し。

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