第11話 輪廻界変《チェンジリング》

クロネと2人、知恵水場へと着いていた。

深い霧の中、湖の中心に空洞を見つけ

その中へと入ることに。


クーシー「およ?人じゃないね君達…、

そうか星使者か…」


空洞の中は、妖精クーシーと、手を繋いで

輪をつくる子供達、それとその場に動かず

いる大人が数人、それと…


男の子「母さん!母さん!!」


女性「ここは…どこ…」


男の子「母さん!どうしたの?!ねぇ、!」


女性「母さん?なぁに…それ…貴方は誰なの?」


男の子「ぅあぁ、母さん、どうして「分からない」んだ!ボクだよ!!どうして!お母さん!」



悲しく必死な声で叫ぶ男の子の姿があった。



クロネ「あの子の母親、記憶が消えている。」


タクミ「消した理由は?」


クロネ「あの子が…」



クーシー「私が消した。理解されない悲しみと

不安を知ってもらうために…、優しさを

知るだけじゃ人を傷付けない人間には

なれないから。」


男の子「うわぁぁぁ!!帰せぇぇぇ!

母さんを元に戻せぇ!!」



パチンッと指を鳴らすクーシー、男の子は

その場から消え代わりにクーシーが

何かを手にしている。


クーシー「はい、お母さん。

これ貴女の大事な物だったでしょ」



子供が書いた絵だろうか、お父さんや

お母さん、そして男の子3人の仲睦まじい

姿を描いている。

その絵を廃人と化した女性の手に持っていき

それをクーシーは持たせる。



タクミ「クーシー、子供を攫う理由は?」



クーシー「失って始めて気付く事ってある

でしょう?大事なモノだと気づいた、けれど

傍にない…そんな悲しみや、再び巡り

会えた喜び…、その感情を与えたくて」


「子供は未来を担う希望、価値ある者を守る

教訓にして欲しいのさ」



タクミ「攫った動悸は理解した…、ただ

その母親の

記憶を奪う必要は無い」



クーシー「そうだね、最初は攫うだけで後は

帰してあげようと思った、けどあの子の魂は

人を沢山傷付ける。」


「傷付ける運命にあるなら、

優しくなるための教訓がいる。」



タクミ「優しさよりも殺意が沸いてたが?」



クーシー「それでいい、優しさを知ればこそ

それに感謝をし、

悲しみを知るからこそ優しさを

与えることも出来る。恨む相手が限られている

なら多くを傷付けることは無いだろう。」



タクミ「だとしも、やり方を選ばなすぎだ」



クーシー「やり方?あれが一番悲しませる

方法だけど?」



そういう事を言ってるんじゃないん

だけどなぁ。



クロネ「妖精に感情の区別はあっても、

差異は無い、理解し合うのは難しいわよ」



タクミ「効率厨が、(成長っていう結果にこだわりやがって)お前、せめて幸と不幸を2個1セットにするのヤメロ。」



クーシー「怒りも悲しみも成長に必要な糧、

喜びや楽しさに並ぶ尊きモノ、与えるときは

平等だよ。」


「解ってくれよ、好かれるのも、恨まれるのも

仕事なんだ私達、妖精は」



タクミ「知ってる、この世界の人間が妖精あってのもので、お前達が悲しい生き物なのは」


一呼吸間を置いて再び口を開く。

「意味あるモノには価値を、価値あるものには

責任を…だ。」


「人と関りを持つ以上、行なった

事へのケジメはつけてもらう」



クーシー「ケジメ…それで許されるのなら

構わないと言いたいところだけど、

死ぬしか許されないんだろうね…。」


スっと目を開くクーシーから殺気を感じる。

こちらも腰から抜いたナイフを左手に握り

意識を切り替える。



心身は目前のソレを

殺す敵として見るよう冷徹に…まるで心を冷たい海に沈めるように…

非情に、海そのものになるように。



けれど思うところがある、

妖精ではあるが、コイツを殺せば俺は人殺し

になる。見逃せば、今後も被害は

出る事は容易に想像できる…

けれど命を取る以外の方法は無いのか、

本当に通じ合う事は出来ないのか…

本能的にそうなってしまう、そうしてしまう

そんな彼らを救い、共存する方法が……



「あんな人殺しに俺はならない」


昔のことを思い出す…

失うことは悲しく、奪うことは悪く見える、

英雄になりたい自分が

悪いと思う事をしていいのだろうか…。


タクミ「そもそも俺じゃアイツ殺せないしな」


どうしたものか…、



クーシー「輪廻界変チェンジリング



「っ…」


鈍い痛みを覚え、痛みを感じる腹部へ目線を

下げる。

ぽっかりと穴の空いた自分の体…、

その光景が目に映った途端、思い出したかの

ように血液は体の穴から滴り落ちていく。


「くっ…」


クロネ「…。」


俺が攻撃を受けると同時にクロネは無言で

クーシーに向けて魔術を放つ。


クロネ「チッ…」


杖を持つ手は攻撃を続けながらも、片手間に

治癒をかけるクロネに関心しながら

相手に対してどう動くか考える。


輪廻界変チェンジリング…、記憶、立場

物体を入れ替える力…、俺が受けたのは

物体移動か…。

腹の一部を丸ごと、周辺の…物体…

空気中の物質と入れ替えた。


クロネ「正解」


気になるのは簡単に殺せるはずが

そうはしなかった事、条件があるのか…

単に生かしただけか…。


クーシー「君じゃ勝てない、諦めよ?」



なるほど…舐められてる訳だ…。


タクミ「ユウカ!」


駄目だ、聞こえてない…

かなり広い空洞とはいえ…音は響く筈だが…

起きないか…

奥の方で何人かの子供と座ったまま眠るユウカ

の姿が見て取れる。


「クロネ」


クロネ「了解。」


呼び声と共にクロネと2人同時に左右へ別れて

走りだす。

俺の考えを理解してるクロネは

空洞の奥にいるであろうユウカを呼ぶため

魔術で撹乱しつつ奥へと走っていく。


(どれくらいだ…体感、この広さは運動場

くらいありそうだが…)


今いる位置からして70メートルくらい?

往復にかかる秒数、それからユウカの眠りの状態…多く見積もって2分弱の

時間稼ぎ。


クロネが

考えを訂正しない辺り、読みは外れてない

と思うんだが…

とにかくユウカがいないとクーシーを

無力化する事は出来ない。


全速力でクーシーの元へと駆けて行き

その首元へと刃を通そうとする。


「ふッ…」


走る勢いのまま逆手に持った左手のナイフを

喉元へと突き刺す、流れのまま、勢い良く

切れるよう、相手の右肩を右手で抑えながら

横筋に切り裂きを広げる。


「くぁ…」

そんな声と吐血を漏らすクーシー。

俺は続けて逆手に持ったナイフの刃先を相手の

身体へと向けその脇腹へと突き刺そうとした。


「うぐぅぅ」


クーシーが咄嗟の防衛で出した風の魔術

だろう。

俺の身体はいとも簡単に吹っ飛ばされ、

地面に叩きつけられた後、岩肌へと

弾き飛ばさた。


表情が歪む…、

肩と腰を強く強打したようだ。

(温かい…)

普段感じられない温かさだ。腰周りの

背骨が逝かれた…ひょっとしたら骨盤も…。

どんな速度で打ち付けられたか

分からないがこれでは‪”‬歩くことができない‪”‬


(マズイ…死ぬのはいいが致命傷はダメだ。)

この角度からだとクーシーの死亡確認は

出来ない。

(早く…治ってくれ。)

仮に殺す事が出来たなら、追い討ちをかける

チャンス。

まだ星使者の性質は分からない事ばかりだが、

死亡してから蘇生までのラグで

時間稼ぎが出来る…もし仮に秒単位で

蘇生するとしても、


死と蘇生を間を置かず繰り返せば

無力化の状態を維持、運が良ければそのまま

絶命できる。

「っあ…」


身体を動かそうとするが、下半身が重荷に

なったような感覚と激痛で

僅かばかりの移動しかできない。

(いっその事、死んで蘇生した方が早いか?)


嫌だめだ、死んだ後の自分の状態なんて

把握できるものじゃない。

既にユウカ(白紙化)の件で何度か死んでる、

肝心な時に‪「死癖」とか言う不の%を

引くかもしれない。


(タクミ!今治すから!!)

頭の中、というより耳の辺りから遠くのクロネの声が聞こえる。

クロネは追い討ちでクーシーに魔術を放ち

四肢をバラバラにすると、その肉体に火を放ち

消滅させた。


クロネ「ユウカ、」


ユウカ「う…ん」


クロネ(魔術で眠らされた…いや、酸素は十分に行き届いてる…風の魔術では無く輪廻界変チェンジリング、昼夜の入れ替え…

自律神経を乱された、という感じかしら)



クロネは魔術で手の平を水に濡らし

ユウカの首に当てると片方の手で頬をつねり

呼び起こす。


クロネ「ユウカ起きなさい、貴女の主様が

死んじゃうわよ。」


その言葉はユウカにとって、どんな魔術よりも優れた魔法だった。


ユウカ「主様!」


クロネ「待ってユウカ。」


ユウカ「クロネ、主が」


地面に這いつくばるタクミを見て

気が気でないユウカ。


クロネ「私も同じ、でも元凶を止めなきゃ

貴女のあるじは痛い思いをする。」


ユウカ「元凶?」



「君は消えようね」


その言葉と共に、クロネは一瞬にしてユウカの

目の前から消え去った。


ユウカ「クロネ?」



タクミ(マジか……)

まだ焼け焦げた血の匂いが…、鼻につく

強烈な臭いが神経を刺すように残っている。


そこには溶けきらない骨の残骸も見える。

けれどその真横…クーシーだった死体の横には

五体満足で佇む妖精の姿があった。

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