第8話 新生

村の食糧難の原因となる白紙化現象を

無事止める事が出来たのだが…、

助けた?少女が何故かマスターと呼んでくる

のだが、これは一体…。


タクミ「マスター呼びはちょっとヤダな」


少女「どうして?」


タクミ「そういう呼ばれ方、された事無い

から慣れない」


少女「旦那様?主人…?夫?」


タクミ「それだと結婚してるんだよね。

普通に名前とかでいいよ。」



少女「……、主様…?」


タクミ「………、せめて様は無しで。」


何故変わった呼び方をするのか…、俺の記憶っていうより、俺が見てたアニメとかの記憶な

気がするけど、まぁいいか。


クロネ「人の呼び方より、まず自分の名前

だと思うんだけど」


タクミ「そうね…名前ってもう決まって

たりする?」


少女「…?、美少女?」


タクミ「違う、そうだけど違う。」


クロネ「名前…決めてあげたら?主様?」


タクミ「面白がってる」


クロネ「そんな、まさか」


名前か…名付けなんて親でも無いのにそんな…

うーん、

けど、付けてあげるからには

意味のこもった名前にしてあげたい。



普通ならこの子がどういう風に育って欲しい

のかを名前として、意味を込める物だが…

(将来を想うには縁が薄いしな)


この子の元へと駆け寄った時、確かに助けの声を聞いた気がした。

ただ自分がこの子を

救ったという実感は無い。

偶然解決の場に居合わせた…そういう気分だ。



だから俺が名前を付けるなんて、親戚の叔父さんが付けるどころか、見ず知らずの他人に

子供の名前を付けてもらう様なものだ。

(やだなー、こういうの責任感じちゃうん

だよなぁー)



名は体を表すというくらいだ、

自分の意志が他人の人生を左右する…そう

思えば、誰もが慎重になる。


そうだな…未来のことは分からないから…

今を見るとしよう。

特徴、容姿からイメージに合う名前を

付けるか…、



真っさらな状態だった彼女は、

この世に新生し、その魂に意味を得たかの

ように、髪や瞳は色付き変化をもたらした。


(灰白色の髪に……世界に新生…)


タクミ「ユウカ…。名前はユウカで。」


クロネ「素敵だと思う」



ユウカ「私、ユウカ?」


タクミ「いいかな?」



ユウカ「ユウカってどういう意味?」




クロネ「漢字ではどう書くか決めてるの?」


タクミ「え、ここ日本じゃないから

いらない かなって思ったんだけど…、」



クロネ「優しいに、海で優海とか?穏やかな

波のように優しく…そういう意味で、」


タクミ「うみ…海ねぇ……、」



クロネ「いいじゃない、子供には同じ海の字を付けるって…、」


タクミ「あー、やっぱ分かってて言いましたねクロネさん……将来の自分の子に付ける名前

考えるとか恥ずかしいからヤメテ!

後ユウカは

俺の子じゃありません。」


(俺が親になるなんて絶対有り得ない。

そういう相手が居ないし、なる資格もない)




クロネ(…そう思うのは…、仕方ないか…)



タクミ「そうだなー、結に花で結花とか?」

望んだ事が実を結び、花開くようにって

感じで…。」




「後は人と人との縁を結ぶ素敵な人にとか…

そんな感じかな…。」



クロネ「らしいわよ、ユウカ。」


結花「素敵、主が付けた名前、大切にする。」



タクミ(良かった、己がセンスが壊滅的じゃなくて)



クロネ「無事解決したし…村に戻り…戻る

前に、下の服ね。」


(そういえば上だけ貸してそのままだったな)

チラッ、


ユウカ「エッチ…///」


タクミ「なぁクロネ…この子に羞恥心って

ある?」


目線を下にした途端、ジャージの裾で隠れて

た部位を大胆に広げて見せてきた。


クロネ「ちゃんと羞恥心はあるみたい」


タクミ「恥ずかしいのに見せないでよ」


頬を赤らめてる様子から、本当に恥ずかしい

んだと分かるが…犯罪臭が凄いから

凄く辞めて欲しい。



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クロネが下の服を出してくれたお陰で

目のやり場に困らなくなった。


食糧難の原因を無事解決し、

村へ報告をしようと3人で戻ったのだが…、


「……。」 「……、。…、」


「……」 「、…。……。」


何人かの村の妖精が入口の前で立ち尽くし

ている。


クロネ「退いてください。」


村の妖精「そこの灰色の!お前、害をなした」


妖精B「村の人が皆んな死ぬところでした。」


どうやら村の問題の原因がユウカだったと

気づいているらしい。


クロネ「彼女も被害者、悪気は無いです」


タクミ「村からは直ぐに出ますので

通して貰えませんか?」


妖精「気持ち悪い」 「話しかけられた…」

「嫌だ…、」 「最悪。」


集まっていた妖精が皆、俺に一言、罵詈雑言を

吐いて行ってしまった。



タクミ「流石に傷つく…」


クロネ・ユウカ「「よしよし」」


解決にそれほど時間を要していないため、

門の前にはまだ人が集まっているのを

入口からでも見て取れる。


村人「おぉ冒険者の方…無事お戻りになって」


タクミ「えぇ、無事に…。白紙化の現象です

けど、大丈夫と見て問題無さそうです。」



村人「そうですか!皆んなもう大丈夫だ

そうだ。」


「本当ですか村長!?」


村長だった村人「あぁ」


クロネ「魔物が警戒して、寄ってこないので

しばらく狩りが大変だと思いますが…」


村長「そうですか…助言に感謝します。」


「ん?そちらの方は…」


クロネ「白紙化に巻き込まれそうだったので

保護しました」


「なるほど、あぁ…そういえば

この門を越えたいのでしたね」


クロネ「えぇ、ただ私と彼は少々訳ありで…」


村長「構いません、私が許可を出します」


タクミ「出来るんですか?」


村長「私も門番と同じく国の者なので

ここを開くかどうかの権限は私と

衛兵の彼らに。」


タクミ「尚更いいんですかね?」


村長「リーセイはともかく、コリウは

森へ妖精を逃がさない幽閉所でもあり

ますから…、見たところお2人は妖精でも

無いようですし…大丈夫かと」


「「ありがとうございます」」


-----------------------------


村長「ではお気を付けて」


見送る村長や門番に軽く手を振り背を向ける。


お礼にと作物を渡されそうになったが、

大丈夫と報告しただけの人間に

そんな厚意は受け取れない。


それに食糧難である上に、しばらくその状態が

続くと知った上で、その場を後にするのだ…

冷たい人間と言われても

良いくらいだ。


クロネ「妖精に歓迎されてない以上、どんな

形であれ、あの村には長くいれなかったわ」



タクミ「結局なんで嫌われてるのか分からん」

「妖精のお眼鏡的には、ブスなのか?俺は…」


ユウカ「主、ブス違う」


クロネ「それなんだけど、生き方に対する価値観を気味悪く思ってるんじゃないかしら」


タクミ「ほぅ?」


クロネ「貴方の世界は、長く繁栄して

価値観に変化があるじゃない?」


「生命は生きることを必死に成そうと、

目的を作るけど、」


タクミ「成程、目的のために生きてる人が

多いかもだ。」


生命が感情を持つのは、その行ないが

成長、或いは進化の過程で、

正しい事と悪い事を

判別し、積極的に効率の良い生き方を

するためだ。

けれど、いつしか人は快楽だけを求め、

それを結果に据えてしまった。



妖精達にとって俺は、手のつけようがない上に

進んで欲しい場所に進まない

問題児なのか…。



タクミ「なんか…妖精って無職を嫌いそう」


クロネ「堕落させたり、トラウマを

植え付けて外界に出さない妖精も

いるから分からないけど…、」


「頑張ってた人より、頑張ってる人間が好み

なのは間違い無いと思う。」


うーん、ならやっぱり俺のことタイプじゃ

無いんだろうな妖精。



こうして無事に関所を通りリーセイへ続く

コリウへと足を踏み入れた。

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