第7話 星ノ器

星には、星の目的とアプローチがある。


楽しい時を喪わぬよう、不死を目指す人がいる

ように、

「不滅」を望む星がいる。



子に託し、名を継いで行く人の様に、

子供生命が移住し、他の星に寄生し

己が星とすることで「不滅」を望む星がいる。



子の未来を思い、全てを与える人のように、

独り宇宙を生きられるよう、命を代償に究極な生命を作り、その子の「不滅」を望む星がいる。



浪漫を求め、原初の宇宙、宇宙の果てを

人が求めるように、「不滅」の楽園を

求め、「浪漫ユメ」をみる星がいる。




今言った、物を上から順に1、2、3、4、と

番号を降るなら、「星ノ器」は「3」に

該当する。


けれど極小の形に「全て」を詰め込むのは

難しく、その殆どが失敗…「白紙化現象」を起こしてしまう。



タクミ「なるほどね、彗星の大蜘蛛って

そういう生物なのかな…。」



シオン「また私が分からない事を…」



今向かっているのは、この村の狩り場…

この近辺で妖精が手塩にかけて育てた

魔物が頻繁に襲いに来る場所らしく、

村民としては、食糧として大変助かるので

ウェルカムらしいのだが、

ここ1週間でピタリと魔物を見なくなり、

大変困っていた。


そこで少し奥まで狩りの範囲を広げたところ、

白紙化現象の発生源を見つけたらしい。



タクミ「これは……、」


(この村でも既に被害にあった者もいるので

気をつけてください)


視界に映ったのは、人工的に作られたかの

ような真っ白な周辺と、そこには幾つもの

人型をした凹凸が疎らに並んでいて、

発生源と見られる場所、恐らく星ノ器として

誕生する筈だった人型の誰か、が

そこにはいた。



シオン「村の人や衛兵は死んでる」



タクミ「やっぱあの凹凸は人か…、で

どうするんだ?」



シオン「私が止める。ひたすら記録を流し

続けて規模の拡大を防ぐ」



タクミ「それ、シオンは大丈夫なの?」



シオン「終わった後、しばらく

バカになっちゃうけど…半日で終わらせるから」



そう言って空間から杖を取り出し

記録を流し始めるシオン。

すると白紙化した辺り一帯が元の色に戻ったり

再び白紙になったりと、景色が点滅するかの

ように変化を繰り返す。


見る限り、かなり労力を使うのだろう

シオンは顔を歪ませて

必死に対抗している。

(本当に半日もやれるのか?)


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しばらく経った、どれくらい経ったのかは

分からない。時間感覚は無いけど

多分、まだ10分程度…、雲行きが怪しい。



シオンの鼻から一筋の血が溢れる。

顔は真っ青で、脳を酷使している様子、

(あれ半日でやる物じゃないでしょ)


俺が想定してるより白紙化の被害は大きい

のかもしれない。少なくとも、俺が想像できる

限りでは、まずヨミ村は無くなる。

そのため、きっとシオンは無理をしている。



バサッ!!と音を立て地に倒れるシオン。

急いで駆け寄り、シオンの体を持ち上げる。

(息をしていない)

死んでいる。今この瞬間、目の前で

一人の人間が死んだ。

顔を覗くと、目に光はなく、その瞳が俺に

死を実感させる。


(こんなあっさりと…。)


こんなにもあっさり…、こんなにも間近で人の死に立ち会うのは初めてだ。


シオン「ん、うっ……」


そうだ、コイツは…シオンは星使者。

死んでも死ねない……、まさかコイツ、ずっと

これを繰り返すのか。


立ち上がるシオンは再び杖を握り直し、

白紙化のそれと向き合う。


タクミ「シオン、そのやり方…」


シオン「これしかない。」


どうしたものか…、このまま繰り返しては

シオンがいつ本当に死ぬか分からない。

とは言え、ここはリーセイを守る関所となる

場所…、ここ全部が白紙になればリーセイ

から来る妖精の侵入を簡単に許してしまう。


-----------------------------


再び作業を始めたシオンは数分経って、また

疲弊し顔を歪ませる。


タクミ「クロネ…、今なら変われるか?」



シオン「クロネ待っ…、」


クロネ「ナイス判断、助かったわ。」


任意で自我を切り替える2人、2人の状態に

よって主導権の強さが違うのではと睨んだが

当たりだったみたいだ。


クロネ「けどこれから、貴方がすることは

褒められた物じゃないのだけど。」



タクミ「ごめん、でも責めるならシオンに

言って欲しい。」


この白紙化を止めるヒントは全て

シオンがくれた。


クロネ「後でシオンに恥かかせなきゃ…」


この世界に呼ばれた理由。自分の存在意義、

明確な答えは分からない…ただ……、



一歩ずつ、白紙化された物の中心へと向かう。

一秒にも満たない…、脳を丸ごと

くり抜かれるかな感覚と、沸騰した血が

内蔵を溶かすかのような感覚が一瞬にして

何度も走り、意識は生と死を繰り返す。


意識は蘇っている筈なのに、

視界に捕らえる景色を脳は処理しきれず、

歩けているのかすら分からないまま

足は確かに目的の場所へと進んで行く。





この世界に呼ばれた理由。自分の存在意義、

明確な答えは分からない…ただ……、


視界がクリアになる。

この白さは果たして、白紙化によるものか…

それとも自分自身が見せる脳の錯覚か…、

わかるのはハッキリと前を見ている自覚と

動かせる両手脚がある事、そして

何度も死んで、今もなお死に続ける筈の俺は

白紙化の現象に「認識されていない」。




発生源の「誰か」が目の前にいる。

この地球ほしに生まれる事を望まれ、

望まれた事を成せないまま、

この彩られた景色を見る事も叶わず、ただ

世界を無色にして消え去ろうとしている。


この世界に呼ばれた理由。自分の存在意義、

明確な答えは分からない…ただ……、



タクミ(俺はただ…、今もまだ何者かになろうとしてる君を…、)


(何者かになろうとしてる君に、

「助けて」と呼ばれた気がして)



まだ影も形も無い…「誰か」の頬を、

左手でそっと触れる。

この手から熱が伝わるよう、この熱が心と体を

作り、決して冷めぬよう熱が籠るように…

その熱が世界の温かさを知れるように……。



程なくして視界は色付き、

元ある形へと木々や大地は

姿を戻し、風邪が吹いてこの場所は再び

星の一部となった。

そして……


「…。」

長く白い髪、透明な瞳に真っ白な肌、

白紙化の元である「 」は星使者として、

新しく生まれた。


生まれたままの姿の「 」に上のジャージを

脱いで着せる。

「…。」まだ生命として機能していないのか、

感情と呼べる物を作るだけの情報記憶が足りないないのか…、



クロネ「タクミ!」


タクミ「クロネ…」


心配そうな顔をしながら近寄るクロネは

俺の手を取って「大丈夫?」かと聞いてくる。


クロネ「貴方、ずっと彼女の前で放心

状態で…」


タクミ「そっか…何とか戻れた」


クロネ「心配…した」


タクミ「ごめんなさい」


クロネ「タクミ、貴方は星使者である前に、

一人の人間…だから…」


タクミ「うん、俺も痛みに苦しみたくなかったけど…シオンが良い手本になっちゃうから…」



クロネ「もっと自分を大事にして……後シオンのお仕置き協力して。」



タクミ「はい」


クロネ「その子だけど…」


クロネの方に向けていた視線を再び少女の方へと戻す。

ちなみに何故少女なのかは、着せたはいい物の

未だに隠せていない下半身を見れば

一目瞭然だった。

ん?というか…、


タクミ「髪の色…、」


クロネ「変わったわね…」


先程までは、色のない白く美しかった髪は

美しさこそ変わらない物の、綺麗な灰白色に

染まっていて瞳にも僅かながら

光が宿っている。

(ようやくこの星に生まれた…って感じかな)



タクミ「クロネ…この子は…」



クロネ「この子に記憶は無い、分かるのは

星ノ器として生まれたという事…ただ

器にしては中身が無さすぎるけど。」



タクミ「中身が…中途半端に終わらせ

たからかな?」


クロネ「後は「凪星 拓海が触れた」のも理由の

一つね」


タクミ「俺が…、まぁそうか…」

(何となく自分が原因なのは納得いく、本来

シオンとクロネにしか対処出来ない案件だ。)


医者の治療では無く、ヤブ医者の荒治療を

受けたようなものだ。

この世界の異端者として呼ばれた「夢人」の

干渉……起動の際、自分ウイルスによる

バグを起こしたのかもしれない。



クロネ「というより、メモリに

「凪星 拓海」っていう名前だけついた「空のデータ」を入れられたって感じかしら。」



タクミ「あー俺、けつばんだったって事?」



「…。マ」


タクミ「今の聞こえた?」


クロネ「この子…声が出せるようになったのね」


声だけでなく、真っ白だった肌の部分も

血が通ったように艶のある肌色に変わっている


「マ…ス」


背丈や体格からして10歳か11歳くらいだろう

か…ただ彼女は生まれたばかりの赤子同然、

声にしたものが中々言葉にならない。


「マスター?」


3度目にしてようやく、意味のある言葉に

なったのだが……


タクミ「マスター?」


少女「あなた、マスター。」



クロネ「汝が私の?」


タクミ「マスターか?」


クロネ「彼女から記憶を感じ取ったのだけど、貴方の記憶と全く同じ…しかも偏った知識が

多いみたい」


タクミ「なるほど?」


クロネ「つまり貴方が触れた、あの瞬間…

あなた色に染められちゃた♡という事ね」


タクミ「言い方ぁ…」


少女「よろしくね、マスター♡」



タクミ「えーー……、」



俺は何故か少女のマスターになってしまった。

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